11「負と腐の共演」
11「負と腐の共演」
『これが赤松なら…松茸とか生えてたりとかしねぇ~かな?』
枯れて赤く変色した、松葉の柔かい絨毯を踏締め
日向が、目の前の朽ち掛けた松ぼっくりを蹴る
蹴られた松ぼっくりは、遠くまで蹴飛ばされ
倒れ、時が経ち…油分を失って腐り、土に帰る準備を始めたのであろう
松の木の幹に当たって止まった。
その木の上には・・・
柿をモチーフにしたデザインの「スカートと髪型」の
一見、見た感じ「にこやかな可愛らしいキノコ娘」と
その隣に、ストレートな青緑色の長い髪と青い肌の
ステッキを持ったキノコ娘が並んで座っていた。
僕は「松茸が生えていないか?」と探す、日向と・・・
枯れた松葉を巻き上げながら、縦横無尽に走り回るビターマロンズ
歩き疲れて、僕の腕にしがみつくブーマーを無視して
自分の物ではない、キノコ擬人化図鑑を紐解いた。
柿のコスプレをしている方が「シャロン・ウスタ」だと
キノコ擬人化図鑑で確認した僕は・・・
もう一人のキノコ娘「緑青 姫乃 (ロクショウ ヒメノ)」に
『御話し中の所、ちょっと御邪魔します』と、笑顔で会釈してから
シャロン・ウスタに挨拶と、互いに自己紹介をする
『どうしてでしょう?春兎様!初対面なのに私は貴方から…
ドスグロく強大で、強いシンパシーを感じてしまっています。
私は、この出会いに運命を感じてしまっているのかもしれません
ですからどうぞ、これから私の事を「ウスタりん」と、御呼び下さい。』
ウスタりんは、ひび割れ…文字通り崩れた化粧の中から
無自覚に凄い怖い微笑みを見せていた。
「ドスグロく強大で、強いシンパシーって何だ?それは?」と
少し戸惑いを感じつつ、ウスタりんの横に座る緑青 姫乃 に
自己紹介され『私の事は、姫乃ちゃんと呼んで下さい』と言われ・・・
『あそこにいるのは、春兎さんの御友達ですよね?』
僕は姫乃の指指す方を確認し
『ん?日向の事か?まぁ~そんな所だな…』と、ちょっと言葉を濁し
『絵のモデルに…私、御二人の絵を描いても…よろしいですか?』
『僕は別に構わないし、日向もいいと思うよ』と、深く考えずに
『日向!このキノコ娘の姫乃ちゃんが
日向の絵を描きたいって、言ってるんだけど良いよな?』と
日向の了承まで取ってしまった。
大喜びする姫乃の事は、取敢えず置いておいて
ウスタりんから伸ばされた手を取り、握手をすると…
『春兎様が、キューベンシス様から聞いた通りの腹黒さを持った人で
私はとても嬉しいです!これから命尽きるまで仲良くして下さいね』
伸ばされなかった方の手で携帯を操作しながらの
ウスタりんから付け加えられた言葉に、若干の不安を感じ
僕の直ぐ隣から聞えて来る着信の音・・・
ブーマーのモバイル携帯のパネルの文章に硬直する
僕にしがみ付いたままのブーマーも、何時の間にか携帯を持っており
2人はネットのアプリを通じて、声無き会話を繰り返していたのだ。
僕はブーマーの書き込みが、僕にとって害がなさそうな事を確認して
『2人共…近くに居るんだから、直接会話しろよ』
ポツリと意見を零す
『震えるキューベンシス様の声をヒアリングするのは
難しくありませんか?私には正直言って無理です!』
ウスタりんはそっと、ブーマーに対する毒を吐き
『春兎様も一緒にSNSで、やり取りしませんか?』と、僕を誘ってきた。
僕は「キューベンシスって、ブーマーの事だったのか…」と
ブーマーの自分に対する評価を少しだけ気にしつつ
『ごめん、僕のはガラ携だからできないんだ』
僕は、ウスタりんに携帯を見せる
『文明の利器に取り残されているのですね…御労しい
お待ちしていますから時代に順応できたら、連絡してくださいね』って…
「ウスタりんよ…毒を吐く上に、そこに悪意を感じるのは
僕の気の所為なのだろうか?」
僕は表面上にだけ笑顔を作り、ウスタりんと微笑を交わし合った。
丁度そこで、ブーマーが僕の腕から離れ
姫乃の描いた絵を覗き込み『ひゃっほぉ~』と、大きな歓声を上げる
僕は気になって、姫乃の描いた絵を覗き込み
「腐女子」の思考に産まれて初めて触れる事となった
僕は、この世にそんな世界がある事に驚き
「姫乃に自分達の絵を描く事を許可した事」を少し後悔した。
『ウスタりんも…こう言うのが好きなタイプだったりするのかな?』
『そう言う訳ではありませんが、こう言う負の存在は好ましいです。
姫乃タンは、私と似て非なる同じ負の感情を抱えた同士!
少しばかり腐り方が異常でも、切っても切れない関係なのです!』
ウスタりんは、姫乃の描いた卑猥な絵を褒め称え
『流石は、私の認めた「負の伝道師」です!
雄同士の欲望を淫らに表現していて、見ていて恥ずかしい!
これからも立派に負を世界に広めて行ってくれますね?』
姫乃はにこやかに
『ちょっと刺を感じるけど、応援してくれてありがとう!
立派に腐を伝道していくわ!』と、受けていた。
「世の中、精神的な腐り方は色々だな…」と、僕は実感しながら
「月夜が『ウスタりんは、姫乃と一緒だから』と、フリマ会場に残って
『気を確かに頑張ってね!』と、僕等を見送ってくれた理由が
此処にあるのではないか?」と、実感する
僕は気を取り直し、ウスタりんに・・・
本題「臭裏 紅」との連絡を取って貰う交渉をしようと思ったのだが
テンションが上がりきった姫乃の
これから書く自作作品の「プロット設定」にドン引きして
黙り込む事になった。
『ちょっとヤンチャで粗野な日向くんが受け
大人びて大人しく見える春兎くんが…
ちょっと強引に日向くんをS的に攻めてくれるのが理想だわ』
『もしもぉ~し!何の話ですかぁ~』
さっきまで、遠くに居た日向がやってきて
幸せそうに頬を染める姫乃に声を掛けるが…完全に無視をされている
『あぁ~ストーリーが浮かぶぅ~』
姫乃は腰掛けていた、倒れて少し腐った木の上に立ちあがり
声を張り上げ、ステッキを振り回してから両手を空へ広げる
『キノコ娘を召喚して、官能的に召喚者のHPを奪い合うゲーム!
勝ち進む、日向くんと春兎くん!両者の譲らない攻防戦!』
拳を握りしめ姫乃が力説するのは、何かしらの設定らしいが…
「官能的に」とは、どうも…18禁系な設定の様相だ
『MPを使い果たした2人が行き着く先は、定番の召喚者達による肉弾戦!
ぶつかり合い何度も触れ合う2人、束の間に過ぎる互いの体温!
競い合う気持ちと友情の間に生まれる感情!』
最初の方は、まぁ~良しとしても
後半の姫乃の発言…何かがおかしい気がするのは僕の気の所為か?
『傷付け合い、ボロボロになった互いを思う気持ちに芽生える
相手への愛しさ!禁断の欲望!そして、純粋な愛情!』
自分の体を抱締め叫ぶ姫乃の言動から、どうやら…
僕の感じるこの違和感は、気の所為では無いらしい
『ちょっとまて!想像の中で、俺と春兎に何させるつもりだ!』
日向が、姫乃の乗っている倒れた木を思いっきり蹴る
少し木が揺れたが、姫乃は怯む事は無い
『口の端から流れる血を親指で拭って
そのまま唇をなぞり、4本の指の甲で頬に触れ
手を広げ、そのまま首筋から耳の後ろに手を掛ける』
「どっちに何をさせてんだよ…」と、気になる事は気になったのだが…
僕は、姫乃の気分を害さない為に…当分の間、放置する事にした。
『春兎に優しく触られて、鼓動が高鳴り気恥かしさから身を捩る日向!』
『やめろ!それ以上想像すんな!つぅ~か俺をどうするつもりだ!』
日向が制止の声を上げたが、やっぱり姫乃は黙らない
『逆の手で肩をグッと掴み、日向の体を自分の正面に向ける春兎!』
『人様を勝手に使って妄想してんじゃねぇ~よ!』
日向は強引に、姫乃を木から引張って下ろそうとし…
バランスを崩して落ちてきた姫乃を慌てながらも抱き止める
『良いかもしれない…そのまま強引に唇を奪って貰おうと思ったけど
ぎゅっと抱締めるだけってのも悪くないわ!』
『いい加減に、妄想から帰って来てくれ!』
日向の願い虚しく
姫乃はまだ、妄想の世界から帰って来てくれそうになかった。
姫乃は日向を硬直させる爆弾の様な言葉を小さく幾つか呟き
そのダメージで立ち直れない日向をその場に残し、一人立ち上がって
腕を胸の下で組んで考え込みながら、空を見上げる
『日向を抱締めた腕は下にさがり、腰を撫でゆっくり御尻へ!
あぁ~それとも…腰を支えて足を絡め、日向の膝を折らせて
そのままその場で押し倒してしまおうかしら?
春兎くん!唐突ですが折り入って、御願があります!
奪う様に噛み付く様に…日向くんの唇を奪って見せてくれませんか?』
姫乃は妄想の世界から帰って来はしたのだが
今度は僕に、とんでもない爆弾発言を投げつけた。
僕は微笑を浮かべ、姫乃の口にした妄想の一部を姫乃に向かって使う
姫乃の顎に手を掛け唇をなぞり、4本の指の甲で頬に触れ
手を広げ、そのまま首筋から耳の後ろに手を掛けると・・・
予想通り、姫乃は言葉を失い
グッと身を寄せ、腰を支えて足を絡め
覆い被さる様に姫乃の膝を折らせて座らせて
『今からウスタりんと、大事な話をしなけれないけないんだ
静かにしていてくれるかい?』と、言って
自分の人差し指を姫乃の唇に軽く押し当ててみた。
それで「赤面して、黙ってくれるか?」と、思いきや
姫乃が想定外に大喜びしてくれ・・・
『流石、私が見込んだ魔王!全てのキノコ娘を籠絡させて
他のキノコ娘のマスター諸共、ベットの中で意のままに弄ぶのね!』
何か僕は凄い事を言われた気がする…いや、言われたのだろう・・・
どうやら姫乃は、僕を18禁の世界の主人公にしたいらしい
僕は諦め、溜息を吐き…姫乃から目を逸らす
日向は、姫乃が落としたスケッチブックを拾い
中の絵を見て、凄い形相で地面に投げ捨てている所だった。
『新…刊…楽しみに…して…います。』
ブーマーが頬を染め嬉しそうに姫乃と手を取り合う
『ブーマーちゃんまで、春兎くんに籠絡されてしまっていたのね!』
『籠絡って…』
反論する気も失せ、僕はとてつもなく脱力感を感じる
そんな僕に追い打ちを掛けるように、ビターマロンズ達が
僕に体重を掛け抱き付き、飛びかかりくっつき圧し掛かって来る
『あ、姫乃ちゃんだ!
最新の新刊「キノコ・ネゴシエイター~交渉して食べろ~」読んだよ!』
近くに居たのに気付いていないマロンズも凄いが
それより何より、僕は…そのタイトルの中身に危機感を覚える
『前の「キノコ・ソムリエ~押し倒して食べ比べ~」も良かったね』って
僕は、ビターマロンズが口にするタイトルに聞き覚えと
サブタイトルに、ちょっとした絶望感を感じた。
『おいコラ!まさかとは思うが、それって「男同士が」ってヤツなのか?
もう一つ言わして貰うが、もしかして御子様に18禁見せたのか?!』
僕が眉間に皺を寄せ、姫乃を睨み付けると
『18禁って18歳未満駄目って事でしたよね?
18年以上生きてたら良いんでしょ?
嫌ですねぇ~苦栗茸って…とっても古い品種なんですよ?
ビターマロンズが、18年以上生きてない訳ないじゃないですか』
「でも、それってキノコ娘的には良いのか?
ビターマロンズを大人って事にして18禁作品みせて良いのか?」
僕は暫く黙って、自問自答を繰り返す事になった。
これは後日談だが・・・
「キノコ・ネゴシエイター~交渉して食べろ~」
「キノコ・ソムリエ~押し倒して食べ比べ~」は…
コミカルな絵で描かれた、BL4コマ漫画だったりしてみて
それなりに僕を苦悩させ…トラブルをそれなりに招いたが
僕の母親が気に入ってしまい
自宅のリビングの雑誌置き場に、普通の本と一緒に今も並んでいたりする。




