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Fountain of Youth  作者: 白髪おじさん
スタイル:クリエイティブ
9/11

エクストリーム・テニスを作ろう (2)

 司会者に促されたプレイヤー達は、それぞれ知り合いや近くに居た人を誘って『ゲーム』をやり始めた。


 恐る恐るといった様子で、コマンドを1個づつ選びながら動作確認をしていく。

 だが、一通り触って動作を確認が終わった途端、元々旺盛な探究心がうずき始めたのか、言われてない部分を触り始める人が続出した。


 例えば――「オートを切るとどうなるのかな?」と言いながら、ゲーム途中で操作方法を切り替えたプレイヤーが居た。


 すると、ラケットを持って前傾姿勢だったアバターが、強制的に気をつけの姿勢で固定され、その姿勢のままコート上を動き始めた。


「うは、直立不動で動きだした!?」

「なんだソレ、チョー不気味!」

「気持ちワリイ!」


 その様子は、対戦相手や周囲のプレイヤー達には不評で、かなり辛らつな感想が投げかけられた。

 直立のまま動いていたプレイヤーは、周囲の声に一瞬凹みかけたが、止まらずに動き続けているウチに逆に楽しくなっていた。


「……いや、コレはコレでやってる方は微妙に楽しいぞ! コレまでにない動きがなんか新鮮だ」


 その意見を受けて、周囲の見方も変わっていく。


「見た感じはエアホッケーのパドルっぽい動きだな。ボールの軌道が違うけど」

「スカッシュだったら、このままイケるんじゃねえの?」

「あー、スカッシュなー……というか、それならエアホッケー用のエリア作ってもらったほうがよくね?」

「おう……その考えは無かった」


 別の場所では、ボールを打ち返すコマンドをウッカリ連打してしまったプレイヤーが居た。


「ありゃ? コマンド連打できた……」

「なにソレ、怖い。バグ?……で、どうなるんだ?」

「わかるはずねーだろ。どこまでいけるか、試してみるか」


 そう言って、全力でコマンドを連打してみる。

 すると、対戦相手の横を、ものすごい勢いでボールが飛んでいった。


「うわっ! ボールがアホみたいな速さになったぞ!? 打てるかこんなもん!」


 対戦相手は、反応することもできず、棒立ちのまま怒鳴る。


「こりゃあ、バグだな。報告しとくか」


 連打したプレイヤーがあきれ顔でつぶやくも、対戦相手はむしろ思案顔で考え込んでいた。

 剛速球だったが、一瞬だけ、コマンドを入力できそうだったのだ。


「うーん……極めれば打ち返せるかな……チョット構えてみ?」

「おい、馬鹿、やめろ」


 他には、ラケットをインベントリーに収納したままゲームを始められることに気づいたプレイヤーが居た。

 物は試しと、素手のままコマンドを入力すると、普通にボールが打ち出され、ゲームが開始された。


「お、素手でもボール打てるんじゃん」


 その声を聞いて、周囲に居たプレイヤー達が次々に素手へと切り替えはじめる。


「ほほう。つまり、得物は何でもいいのか」

「でも、打ち返す位置は固定か。エアテニスって感じだ」

「結局、モーションは後付けなんだな。工夫の余地がある、と見るべきか」


 プレイヤー達は、一通り検証を続けながらも、雑談になだれ込んでいた。


「チャットルームだと技系使えないから分からんが、色々組み合わせられると面白そうだ。見た目を派手にしたりな」

「立体機動したり、エフェクト出しながらボールを打ち合うのか。なんかそんな漫画あったな」

「そうそう。そんな感じで、工夫したらすごくなりそうじゃね? やりがいがありそうだ」

「プレイ風景はどうなるかな……派手目の乱闘ゲー? そうなると、いろんなフィールドで遊びたいね。海とか山とかダンジョンとか」

「……なんでかトンデモアイロン掛け競争を思い出したんだが」

「ああ、エクストリーム・アイロニングか。アレはアレで酷いよな、いい意味で」

「つまり纏めると……エクストリーム・テニス?」

「……! それだ!」


 チャットルームのあちこちで、似たような交流が行われていた。


 一方、司会者は、忘れ去られたようにぽつんと立ち尽くしていた。

 検証に集中し始めたプレイヤー達に若干焦りを感じつつ、声を張り上げる。


「えー、ちなみに」


 チャットルームに響いた声を聞いて、プレイヤー達は『そういえばそんな人も居たね?』という感じで、思い出したように顔をそちらに向ける。

 自分に注目が集まったことを確認して、司会者は話を続けた。


「βテストはテストサーバーで行いますので、詳しくはそちらで検証ください。テストサーバーには、皆様の各種データをコピーいたしますので、モーションやPV作成用の環境としても過不足はないでしょう。なお、βテスト終了時にはテストサーバーのデータは消去いたしますので、ご了承ください。また、テストサーバーへの接続方法については、特別な操作は不要です。βテスト開始後は、今回登録いただいたIDでログインする時に、接続先としてテストサーバーが表示されるようになります。なお、ご要望については、公式ページに送信フォームを設置いたしますので、お手数ですがそちらから送付をお願いします。対応の可否について検討した上で、対応状況については公式ページにて公表いたします……それでは、お忙しいところお付き合いいただき、ありがとうございました」


 司会者は、告知するべきことを一気に話終えると、一方的に終了を宣言した。


 ソレを聞いて、プレイヤー達があわてて連絡先を交換しあう――β開始後に連絡を取りたくても、IDが分からないとどうにもならない。

 そんな、連絡先を交換しあうプレイヤーの中には、当然のようにIzumoの姿も混ざっていた。


-----


 その後、大規模アップデートのページ作成され、あわせてβテストの仕様が公開された。

 さらに、コンテストについて一般ユーザーに告知される。


 その内容を見て、Izumoは微妙に焦った。


 運営の選んだ審査員以外にも、一般ユーザーからの投票がある。

 となると、ユーザーに媚び……ウケるモーションや一発ネタPVで大穴を狙う、という手が使えるからだ。


 だが、ソレを狙う層は当然他にもいるだろう。

 ネタ被りで票を食い合う程度ならまだいいが、お互い潰しあったりしたら目も当てられない。


 実際のスーパープレイ動画を探しながら、色々と考えてしまう。


「うーん、一般ウケするモーションとかPV……というか、普通のモーションでも、選ばれる基準考えると難しいよねえ」


 有名どころの『スーパープレイ』となると、まず思いつくのは“ジャックナイフ”だが、あまりにも有名すぎるため、おそらく他の『人形遣い』も作ってくるだろう。

 そうなると、より完成度の高いモーションが選ばれるのは、自明だ。


 なんにせよ、全てはフォームの完成度を高めてからの話なので、山ほど集めたフォーム練習用動画を見ながら、基本動作を繰り返して体に叩き込む。

 選んだ動画は、実際のスポーツ理論は二の次で、できるだけ見栄えのいい物だ。


 実のところ、Izumoは『基本のフォーム』も狙っていた。


 ゲームのコンセプトからすると、運営が必要としているモーションは見た目のインパクトを重視するはず。

 だが、チャットルームのテスト版を動かした感じでは、なんというか無難なモーションだった。


 Izumoは思った。


 おそらく、基本モーションには相当の見直しが入るはずだ、と。

 突っ込んで考えれば……基本モーション自体も、複数採用される可能性がある。1個では皆が同じに動きになってしまうが、複数あれば使い分けたり、こだわりを持てるようになる。


 さらに言うなら、プレイスタイル別のパターンがあれば、運営にはありがたいだろう。

 だからこその、公募だとすれば……採用枠は多いはず。


 ならば、複数のパターンを想定し、いつものように体に基礎を叩き込もう。

 どんなモーションを作るにしても、自分の出発点はそこだ。

 その上で、よりダイナミックな動きになるように、アバターのボーンを動かすイメージを作り出そう。考えて、動きを補正しよう。


 基本は直球勝負。それが、Izumoの出した結論……だが、保険も必要か、とは思い直す。


「保険、保険……っと、βで追加される機能ってなんだっけ?」


 公式サイトの告知を見なおすと、“テニスコートを設置できる場所の制限を解除しました”という一文に目がとまった。


「へえ、こんなの対応したんだ……機能を追加した、ということは、それなりに運営側も期待しているはずだよね……コレなら、保険になるかな」


 Izumoは、説明会のログをあさりなおして、目的の会話を見つけ出した。


「えーと……そうそう、『エクストリーム・テニス』ってヤツ。PVは、コレに噛ませてもらおうかな。えーと……」


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