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Fountain of Youth  作者: 白髪おじさん
スタイル:セレモニー
11/11

ラストワード


――サービス開始から、10年が過ぎた。


 大膳春人、85歳。


 いつものように朝4時に目が覚めると、そのままVRヘルメットを被り、いつもの通りにログイン作業を行う。


 ゲーム開始から今日まで、ほとんど変わることの無い日課だ。


「おはよう、ルミ」

“おはようございます、ゼン。今日も早いですね”


 いつものように、伝言板を見てからパペットのルミに声を掛け、自分の予定を確認する。


「あー……今日も、公式イベントは無い、か……今日の予定は……なにかあったかな?」

“本日の予定は以下の通りです。

 家庭菜園で、次の作物が収穫できます。

 米、麦、カリフラワー……”

「……っと、今日も特に、何もないか。それじゃ、このまま……」


 ここ数年、ほとんど変わらない朝の儀式。

 だが今日は、ルミから予期しない声が返ってきた。


“クボ様より、ビデオメールが届いております。再生しますか?”

「……クボから?」


 つぶやいてから、嫌な予感を覚えた。

 ここ数年、ログインしなくなる仲間が増えている。

 中には、単にこのゲームに飽きたので別のタイトルへ移住する、という人も居たが……大半は、そうではなかったからだ。


 一瞬、躊躇した。

 読まなければ、知らずにいられる。だが――メールが来たことを知ってしまった以上、ソレはできない相談だった。


「ああ。再生してくれるかな、ルミ」


 春人は、ルミに再生を指示した。

 友人の現状を無視すること。下手をしたら、無視したことすら、忘れてしまうかもしれない。

 それは、何より怖い。


 指示を受けて、ルミがメールを再生した。

 目の前に半透明のアバターが表示され、喋りだす。


“やあ、ゼンさん、そっちの調子はどうだい?”


 いつもの調子、いつもの声色。


“コレが再生されてるって事は、多分、俺はもう死んでるんだろう――自分で言っといてなんだが、ドラマに出てきそうな安いセリフだな、こりゃ。ま、ひょっとしたら、ボケ過ぎてログインすらできなくなっただけかもしれないが……なに、同じことさ”


「ああ……やっぱり、アンタも逝っちまったのかい、クボちゃん」


“まあ、さっきのセリフで気づいてるとは思うがね。こいつはあれだよ、遺書さ”


---


 それは、何年か前のアップデートで追加された遺言機能で送られた、最期のメールだった。


 設定された条件が揃った場合――たとえば、期間を過ぎてもログインしなかった、など――に、設定した内容のメールを特定の相手に送信する、というものだ。

 この機能が実装された時、春人はクボと一緒になって馬鹿にしたものだ。

 だが、その当人から遺言が送信されてきた。

 何とも皮肉なことだ、と思いながら、春人はクボの声をじっと聴いていた。


“で……この遺言メールって奴だが、調べてみたらかなりの機能があるんでな。せっかくだから、全部やってから逝こうと思ってんだ。最初は、えーと、遺産分配って奴だ。ここに赤い箱と青い箱を用意した。どっちか、好きなほうを選んでくれ”


 そう言ってクボが箱を出してきたところで、再生が一旦停止した。

 さらに、春人の目の前に仮想ウィンドウが開き、選択肢が表示される――どうやら、選択によって分岐するようだ。


 春人は、顔に手を当てて、あきれ気味につぶやいた。


「まったく……こんなトコで変なネタ仕込んで来るなよ、クボちゃん」


 その選択肢には、微妙に心当たりがある。

 脳裏に浮かぶのは、クボが口癖のようによく言っていた、有名な台詞だった。


「ま、『せっかく』だからな。赤の箱を、選ぶぜ」


 言いながら、仮想ウィンドウに表示された『赤』のボタンを押す。

 すると、何ともいえない効果音が鳴ってから、クボの映像が動き出した。


“……さすがゼンさん。アンタなら、そっちを選んでくれると信じてたよ”


 そして、映像の箱と同時に、トレードウィンドウが開く。

 ウィンドウに表示されたのは、とあるレアな剣だった。


“あんた、前に欲しがってただろ? トレード不可属性のせいで渡せなかったんだが、遺産機能はその制限外らしいんでな。引き継いでくれると有り難いよ……ま、もう拾ってるかも知れないが、その時は強化の肥やしにでもしてくれ”

「まったく、余計なことを……だが、ありがたく受け取っておこう。ありがとう」

“さて、選ばれなかった箱と、倉庫の中身は、別の形で『配布』することになるわけだが……実は、そのためのダンジョンも作れるんでな、せっかくなので作ってみたよ。コレで俺もダンジョンマスターって奴だぜ”


 イッヒッヒと、若干下卑た感じで笑ってから、クボのアバターは話を続けた。


“いわば、早い者勝ちの遺産争奪戦、といったところだな。できたら、攻略してみてほしい。色々と凝った設計にしてある……まあ、アトラクションというか、テーマパークというか……そんな感じに仕上げたんだ。ゼンさんには、物足りないかもしれないが、いろんな人を誘って、楽しんで欲しい”


 遺言は、最後にダンジョンの場所を示して、終わっていた。


---


―― 5:30


 いつもより遅れて、街の中央にある大きめの広場に到着した春人は、広場の隙間が意外と目立つことに、今更ながら気づいた。


 最盛期は早朝でも混雑していて、体操の場所を確保するのにも苦労したものだったと思い出し……今まで、ユーザーが減っていたことを気にも留めていなかった、ということに愕然とした。


 だが、思い返せば、自分の知り合いもかなりの人数が『居なくなって』いる。

 それを考えれば当然ではあるのだが……クボが本当に居なくなってしまったことを、改めて突きつけられたような気がした。


 定位置となった場所に行って、いつもの面子を見つけ、「おはよう、みんな」と声を掛けた。


「おはよう、ゼンさん。今日はどうしたんだい? 遅かったじゃないか」


 どこか気落ちした様子の春人を見て、周囲も気遣うように声を掛けてくる。


「ああ、実は、クボちゃんから遺書が届いてね……そいつを読んでたんだ」

「遺書!?」

「遺言機能、あったろ? アレを使った、最期のメールさ」


 春人は、できるだけ普通な感じになるよう努めて、さらりと答えた。


「それじゃあ、クボちゃん、逝っちまったのか……」

「おそらくな……なんにせよ、このゲームで二度と会えないってことだけは、確かなことさ」


 春人達のいる一角に、どこかしんみりとした空気が流れる。

 そんな雰囲気を払拭するように、春人は声をあげた。


「それでさ。今日は暇あるかい? あるなら、クボちゃんのラストダンジョン攻略を手伝って欲しいんだ」


 ゆっくりと体操を始めながら、話を続ける。


「形見分け貰っちまったってのもあるが、なんか、嫌に自信満々だったのが気になってな……きっと、頭悪いダンジョンになってるハズなんだよ、悪い意味で」


---


―― 13:00


 一行は、『駆けつけ三杯』亭に移動していた。

 店の中に、春人の声が響いた。


「……まったく、なにが『テーマパーク』だ、あの馬鹿。ちょっとは加減しろや……」


 朝の体操が終わったあと、春人達は様々な方面に連絡を取って、老若男女を問わずメンバーを集めていた。


 クボの遺言にあった目印を見つけて、入ったダンジョン。

 そこは、古式ゆかしいワイヤーフレーム型3Dダンジョン、という風景が広がっていた。


 そこまでは、まだ許容範囲だったのだが――


「あんなに殺意の高いダンジョン、久しぶりだったよ……」

「何が困るって、ギャグの最中にシリアス挟み込んでくることかな……」

「なにあのからくり装置……階段が滑り台になるとか、昭和の舞台コントなんです?」


 集まったメンバーが、口々に溢す感想が、全てを表していた。

 序盤は、パイが顔面に飛んでくるとか、金ダライが降ってくる、といった笑い話の範囲で収まるトラップが中心だった。


 しかし、中盤以降は、質が変わっていく。


 ギャグ系のトラップが組み合わさるように配置されるようになり、連鎖発動した結果、死亡が確定するような凶悪な罠が発動する、といった、『凝った仕掛け』が増えていったのだ。

 中には、視界の外から巨大な攻城槌が突撃してくるような、単独で配置されたトラップもあったが、そういったものも前後に冗談系トラップや敵が配置されていたりして、気が抜けたときを狙って発動するという嫌らしさが際立っていた。


「10階層目とか、アレだろ? 伝説の1作目」

「だろうな……最初の看板とかな。ラテン語だっけ?」

「え!? あの文字って意味あるの!?」

「らしいぞ。言うとおりに進むと強制送還だったかな」

「マジか。初耳だったわ」


 あちこちで、ダンジョンの元ネタに関する会話が交わされていた。

 そんな様子を見て、春人が呟く。


「……でも、こんな風に世代を超えて話が弾むのも、久しぶりか。クボちゃんらしくて、いい供養って感じではあるな」

「だけどなあ、冗談にも程ってものがよう……」

「まあ、アレだけ死にまくれば、いい加減あきらめもつくというか、吹っ切れるというか……」


 こぼれる愚痴の数が減ってきたところを見計らって、春人は周囲に問いかけた。


「で、午後はどうする? 先、進むかい?」


 途端に、微妙な空気が漂う。


 一行が『駆けつけ三杯』亭でくつろいでいたのには、理由がある。

 と言っても、特別なことではない。単に、デストラップの連続で心が折れ、昼飯にかこつけて一旦引き上げただけだった。


 その空気を呼んで、春人は論調を改めた。


「まあ、今日明日で消えちまうって訳じゃないし、ゆっくり進めるのも手だからな……」

「ただ、早い者勝ちっつってたんだろ?」

「ああ。多分、倉庫の中身が無くなったら、自然消滅するんだろう」

「そういう仕組みか……」


 クボも、10年選手のベテランプレイヤーだった。

 だから、玉石混合とはいえ、倉庫にはかなりのアイテムが眠っていたはずだ。


 クボの遺産と、ダンジョンの殺意。

 二つを天秤にかけて、一行は長考を続けた。


-----


―― 17:00


 その後、攻略を続行するメンバーを集めて改めて挑戦した春人だったが、なかなか先に進めず、今日はお開きとなった。


 今日の参加メンバーには、ラストダンジョンのことは公表してもいい、と言ってある。

 クボの倉庫が出所だけあって、ドロップアイテムの質はいい。

 あれなら、自分が攻略できなくても、いずれは攻略されるだろう――春人はそう思った。

 そして、自分はどうしようか、とも考えてしまった。


 自分の寿命よりも、サービスのほうが先に終わると思ったが、意外と長続きしている。

 となれば、いざという時の準備は、しておいたほうがいいのかもしれない。手持ちのアイテムが、軒並み電子の海に消えてしまうのは、勿体無い話だ。


 自分の生きた証を、何でもいいから残したい。

 そう思ったとき、クボの遺言を思い出した。


 遺言の中で、『俺もダンジョンマスターだ』と言った時のクボの表情は、どこかまぶしかった。

 一つのことを遣り遂げた男の顔だ。


 春人の口から、言葉が漏れる。


「……俺も、ダンジョンやってみるかな。クボちゃんじゃないが、『せっかく』作れるんだし」


 誰に言ったわけではない、ただの独り言。

 だが、春人は決心していた。


 やるなら、塔を作ろう。

 天を突くぐらいの、バベルの塔みたいなダンジョン――60階ぐらいの、高い奴を。


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