エクストリーム・テニスを作ろう (3)
説明会当日のチャットログをあさると、発言者はすぐに分かった。
名前は、“ハイドラ”。
Izumoと同じ、売出し中の若手『人形遣い』で、彼のPVやモーションを見たことはあった。
それはさておき。
彼の名前は運よくフレンドリストに載っていたが、残念なことにサーバーが違った。
Izumoは直接交渉をあきらめ、顔つなぎを兼ねてサーバー間連絡用のショートメッセージを送ってみたが、タイミングが悪いのか、なかなか連絡が付かない。
そうこうしているうちに、相手からメールが届いた。
そこには、『その件については、日曜の昼に説明をするので、チャットルームに来て欲しい』とだけ記載されていた。
相手から日時を指定されてしまったので、これ以上は迷惑だ。
仕方なく、Izumoは撮影プランを考えながら、当日を待つことにした。
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そして、指定された日曜日。
Izumoがサーバー間チャットルームに顔を出すと、そこは想像以上の人数が集まっていた。
説明会当日には及ばないまでも、それに近い人数が集まっていたのだ。
そして、会議場風にセッティングされたチャットルームでは、まるでつるし上げられるかのように、一人の男が壇上に立たされていた。
「えー、こんちわ。なんかよく分からんウチにまとめ役ってことになってたハイドラです、とりあえずヨロシク……って今更だけどやっぱやめない!? 俺みたいなへっぽこが代表ってのはやっぱおかしいって!」
壇上から投げかけられた、ちょっと情け無い悲鳴に対して、会場からは容赦の無い答えが返っていく。
「いいからもちつけ。今更往生際が悪いゾ」
「そうだぞー。恨むなら、あの時上手いこと纏めちゃった自分を恨め」
「しょうがないよな。言いだしっぺの法則って奴だな」
突き放されたハイドラは、頭を抱えた。
「すぐソレだ。もう、意味分からん……今日の議長はやるけど、そのあと知らんかんな!」
ハイドラは、不貞腐れた様子で「何か意見ある人は、周りの空気読んでからその場で発言ヨロ」と言って、会議をスタートさせた。
「えー、とりあえず、ここにいるのは『エクストリーム・テニス』で一発狙おう、って人達なわけだが……何を取りまとめろってんだったく」
投げやり気味なハイドラの進行に対して、会場からは律儀に意見が飛びだした。
「んー……ネタが被らないように調整、とか?」
即座に飛んできた言葉に、ハイドラは思わず絶叫した。
「そこから~~~!?」
だが、ハイドラの声を無視するように、集まったプレイヤー達は話を進め始めた。
「とりあえずココに集まった人の間で被らなきゃいいんじゃね?」
「被りが出るなら一緒にやればいいじゃん」
「メンバー募集か。アリだな」
しかし、話の方向は微妙にずれ続け、なぜかナチュラルに漫才が始まる。
「当方ボーカル、ってか?」
「だ・か・ら、ネタがふりぃんだよ! 昭和かアンタら!」
「バンドブームっていつだっけ? ギリ昭和?」
「いやあ、さすがに平成入ってただろ」
その様子を見て、疲れた声でハイドラは懇願した。
「……集団漫才やめて話進めてくださいおながいします」
焦燥感漂うハイドラの姿を気の毒に思ったのか、話はマジメな方向に軌道修正された。
「そうだな。じゃあ、まずは大きく場所で分けるか」
「となると……陸、海、空だな」
「軍隊か! ってか空?……飛べるの?」
「さー? 実際にやってみないと」
「いい加減だなー」
「駄目だった時は改めて考えるスタイルでひとつ」
「いやいや、そりゃ逆に面倒だ……うむ、じゃあこうしよう。山とか、屋根の上を含む高い場所。空中戦は……できるもんならやってみろ、ってことで」
「じゃあそれで。馬鹿と煙が好きな位置に、重力が相手か。最高じゃないか」
微妙に空気を読まない人間が随時ネタを挟み込んでくるものの、ハイドラはあえて気づかないフリをして、さっさと話を纏めた。
「それじゃ、とりあえず希望のエリアで分かれて――後はその中で決めてねー」
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それから数分後。
きっちり三等分、というわけにはいかなかったが、それほど偏ることも無く人は別れていた。
とはいえ、Izumoが選んだ『陸』エリアは一番人数が多かったためか、話題があっちこっちにふらついてしまい、なかなか纏まらない――というか、言いだしっぺになることをあえて避けているような、そんな雰囲気がある。
業を煮やしたIzumoは、あえて火中の栗を拾うことにした。
「……とりあえず雑談は後回しにして、必要なことを決めましょうよ」
「というと?」
「誰がドコで何をするのか、ってことよ」
「ふむ……確かに決めたいとは思ってはいる。だが、どうやって?」
「だから、考えたのよ。この場に居る以上、皆何らかの素案はあるでしょう? それを使ってプレゼン合戦ってのはどうかしら?」
「プレゼン……か」
Izumoの提案に、辺りがざわついた。
自分のプランを開示してしまうのはかなり怖い。ネタバレするぐらいならまだいい。最悪、剽窃されてしまうことだってある。
だが、Izumoは、あえて開示することを提案した。
「ええ。まず、プレゼンでネタ被りを確認する。何をどうするにしても、ソレが分からないと話もできないでしょ? で、同じネタがあったり、自分のよりいい案だと思ったら、そこに参加を表明する。一人じゃPV作るのも大変だからね」
「同じネタでも自分のほうがいいと思ったら?」
「……その場合は、乱入して対抗プレゼン開始、かしらね」
一通りを説明した後、意見が隅々まで浸透するまで待ち、ざわついた雰囲気が収まってきてから、Izumoは切り出した。
「で、どうかしら?」
周囲で話し合っていたプレイヤー達は、お互いの顔を見ながら「そこらへんが落としどころか」とか、「バトルロイヤルにならなきゃいいがなあ」と話ていたが、おおむね納得したようだった。
「発表の順序はどうする?」
「そうねえ。そこはランダムでいいんじゃないかしら? でも、意外と人も多いから、100だと被りそうね……1000以下の一発振りで、大きい順。同じ数字の人達は、その人達でリロールして、やっぱり大きいほうが先」
「……ま、妥当な落とし所だな」
発表順についても、皆が納得した。
そして、その場の代表として、まずIzumoがサイコロを振った。
その音に続けとばかりに、あちこちからサイコロを振る音が鳴り出した。
唐突に始まったプレゼン大会だったが、意外とスムーズに進んだ。
他人のプランを聞くという機会はなかなか無いので、いい刺激になった、という所のようだった。
そんな中でIzumoが披露したのは、「テニスの最中にモンスターが乱入してくるが、それをテニスで撃退する」というプランだった。
ド直球の色物だったが、少なくとも地上戦を選んだプレイヤーの大半はそこまで吹っ切れていなかったらしく、意外とウケはよかった。
最終的に、プランに賛同してくれた数人のプレイヤーと連絡先を交換して、Izumoはチャットから退出した。
――それが、βテスト開始1週間前のことだ。
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そして、βテスト当日。
接続先による違いを体感したIzumoは、マニュアル操作の慣熟操作を兼ねてダンスを踊っていた。
「……まあ、重めの日に比べれば、まだ楽かしらね」
愚痴をこぼしながら、30分ほどでダンスを切り上げて、この間のチャットで集めたメンバーと会うため、集合場所に移動した。
―― 15:00
Izumoが指定したのは、ゲーム開始時に選ぶ「最初の街」のうち、最も大きな街の広場だった。
Izumoの拠点でもあるため、身近なところを指定しただけだったが、近場に『練習相手』がスポーンするので、ちょうど良かったとも言えた。
そんな、いつも見慣れた街並み。
だが、どこかが、何かが、違う――最大の違いは、ほぼ無人である、ということか。
街の中には、ランダムに動くNPC以外は、Izumoと他3人の影しか居なかった。
「誰も居ない街って、寂しいを通り越して不気味よね。まあ、人がいないのは、こっちとしては好都合だけど」
そんな印象を受ける閑散とした広場で、Izumoは同行者に話しかけた。
「ま、こんなもんだろ」
「今回のβテストは参加者自体少ないもんね」
「1サーバーにかき集めても、結局ばらけるからまず遭遇しないわな」
三者三様に、賛同の言葉が返ってくる。
それぞれが、一癖も二癖もある、名の通った『人形使い』だった。
Izumoは、自己紹介を兼ねて、話を進めた。
「……改めて、Izumoよ。今日は来てくれてありがとう。早速、練習しましょう」
お互いが、自己紹介をしながら言葉を交し合う。
「アレクサンダーだ、ヨロシク。練習か……ちなみに、詳細を教えてもらっても?」
「ええ。ノックバックする技ってあるでしょ? あれで、モンスターをお手玉してる動画、知ってる?」
「Candy Caneだよ。シーツーって呼んでね! その動画、見たことあるよ」
「最初のデモプレイを見たとき、アレを思い出したの。で、タイミングさえあえば、テニス風にモンスターを打ち合えそうだなって思ったのよ」
「あれ、結構タイミングがシビアだし、ボールみたいな軌道では飛ばないぞ……っと、自己紹介が遅れた。烏頭だ」
「そうね……そこらへんは、演出でカバーかしらね」
自己紹介がちょうど一巡した時に、アレクサンダーから改めて質問が飛んだ。
「演出か……ところで、ちょっと聞きたいことができたんだが、いいか?」
「何かしら?」
「どうして、そんなめんどくさい手を使う?」
「そうねぇ……挑戦状を叩きつけられた気がしたのよ」
Izumoは、腰に手を当てたポーズでメンバーに向き直り、胸を張って言い放った。
「あの司会者、『スポーツの実現は難しい』とかなんとか言ってたでしょ? アレ聞いて、なんかムカっときてね。馬鹿にすんな、あんたらにはできないだろうが、あたし等『人形遣い』ならできる。やってやる……って思ったの」
その答えを聞いて、アレクサンダーは爆笑した。
他のメンバーも、心底愉快なことを聞いたとばかりに、満面の笑みを浮かべている。
「……こいつぁ傑作だ! タダのトリックスターかと思ったが、どうしてどうして、なかなかロックじゃあないか。アイアイ、マム。喜んで、その意地に付き合おう!」
「なによそれ」
「あー、気にしないでやってくれ。軍隊物にかぶれてんだ、そいつ。で、絵コンテというか、青写真てきな動画はあるかい?」
「そうね。アメリカの古いスラップスティック・コメディ・アニメを参考にしようとは思ってるわ」
「あー、あれか。ディ……」
「わーわーわー! ダメダヨ烏頭! それ以上は言っちゃいけないんだよ!」
烏頭の不用意な一言を、あわててCandy Caneがさえぎる。
そんな、漫才のようなやり取りを見て、Izumoは『早まったかな?』などと考えていた。
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普段の言動はさておき、メンバーの技量は高かった。
Izumoの説明した動きに対して、意図を理解して想像以上のモーションに纏め上げるだけではなく、さらにアドリブを追加する程の余裕があった。
そんな感じで、いくつものモーションを作り、組み合わせ、より洗練された形にブラッシュアップしていく。
そんな作業の果てに、Izumo達は1本のPVを作り上げた。
それは、Izumoが当初に言ったような、コメディアニメ風のストーリーに仕上がっていた。
些細なことで口論となり、フリーランニング風の逃走劇を見せてから、大草原のど真ん中に降り立つIzumoとCandy Cane。これ以上ドタバタしても仕方が無いとして、テニスで雌雄を決することにする。
直後、虚空からテニスコートが出現し、二人はテニスウェア姿に変身する。当然、変身シーンでは変身ヒロインアニメ風のバンク処理を入れた。
その後のテニスシーンでは、一球打つごとに様々な処理が掛けられ、さながらSFX映画のような映像が流れる。
そんなラリーの最中に、モンスターが横から手出ししてくるも、それに気づかずボールの変わりにモンスターでボレーをし合って――気づけば、ボールはIzumoのコートに落ちていて、がっくりと肩を落としたところでエンドマークが出て、終わり――という流れだ。
このPVは、Izumoの狙い通り、一般層からの受けはよかった。
他のエクストリームテニスPV――どうやったのか、空中戦を実現していたものもあった――や、オーソドックスなテニスシーンを作成したPVなど、優勝候補と言われた物との接戦になったのだが、結局上位入賞は果たせなかった。
また、テニスモーションのコンテストのほうも、Izumoの作った一連のモーションは選ばれることはなく、残念な結果に終わった。
――PV作成中に、調子に乗ったIzumoが作り上げたセパタクロー風モーションを、後日思いついてマーケットへ登録したところ、モーションコンテストの賞金以上に利益が出てびっくりすることとなるのだが、それはまた別の話だ。




