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死神猫のメトロノーム  作者: 常葉 樹
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プロローグ1 赤錆色のメトロノーム

プロローグ 赤錆色のメトロノーム


「ここはいつ来ても嫌な気分になるな…」

周りにはメトロノームを建物にしたような建築物が建ち、周りには崩れた建物の廃屋の瓦礫が広がる。

その光景に赤錆色の髪を不格好に結んだがたいのいい男が槍を持ち、悪態をつきながらただずんでいた。辺りにある瓦礫からふと目がついたものを拾う。

拾った物は壊れて弦が跳ねた楽器だった。弦楽器でもこれは一般的に知られているヴァイオリンやそれよりも大きいチェロやヴィオラではなく、弾くではなく奏でるために作られた形だ。

あいつは何と言っていたか、男は溜め息をこぼしながら、思い返してみる。あれはあいつと出会い、この仕事をする前のこと、随分昔の話だ。

あいつの名前はユエ・ブラッドレイ。

月に似た銀髪に菫色の瞳を持つ女だ。

ある場所で出会い、あるきっかけで知り合った俺の年下の友人。

そして、俺とある約束をした大切なあいつ。

そんな俺の我が侭でユエは膝枕をしてくれ、更にユエは楽器を指で奏でている。

糸が真っ直ぐ張られているその楽器は何だったか忘れてしまい、ユエに聞いた。


「相変わらず綺麗な音色だな…そういえばこの楽器は何て名前なんだ?」


「これは竪琴ですよ…月城さんの故郷にあるものは置いて指で奏で、とても長い形ですが、西洋にある琴は立ててあったり、手で持つ者が多いんですよ」「綺麗な音だな…お前の澄んだ声に合っていて、聞いていて心地いいな。」


「月城さんにそう言って頂けると嬉しいです」


それを説明するユエの顔が本当に嬉しそうで俺は思わず、手を伸ばしてユエの頬を触れた。


「なあ、ユエ…もうすぐお前はここを発つんだよな?約束しようぜ」


「約束ですか?」


「ああ、約束だ。   」


「     !」


空白にされた約束とあの時のユエの顔を俺ははっきり覚えている。その約束を守るために現実へと意識を戻す。


「これは竪琴という名前だったな…こと座やオルフェウスという奴が持っているのも竪琴だったんだよな…」

あれから調べたんだぜ…お前の前では少しでも格好つけたいんだぜと言いながら、壊れた竪琴を俺は上着の後ろについているポケットへ入れた。


チク、タク、チク、タクとメトロノームの秒針が刻んでいく。

耳障りな音だと俺は思う。何故、この場所は“時間測定計器”=“時計”ではなくメトロノームで刻むのだろう。

あいつなら「時間が早く感じたり、遅く感じるのは自分達で調整していることがメトロノームだからだと思います」と言うだろう。


「答えはここじゃ時間計測器が役に立たないからだ、ロマンがねえよな。」


俺は集中するために、深呼吸をした。

そうこの地は時間という感覚すら奪い、命を落とさせる。

だが、俺から大事なものを奪った奴らを許すわけにはいかない。


メトロノームが左右に揺れるその秒針を見つめている。


「もうそろそろ時間だな…ここに俺が来てからM.M.=500か…。出て来てもいい筈なんだよな」


腰を落とし槍を構えると、一気に駆け抜け、ある地点に向かって槍を突いた。


「まずは1つだ」


月城の目つきは“狩る者”へと変わっていた。黄金や琥珀にも似たくすんだ金目が対象を睨みつけた。

その対象は四つん這いに歩く灰色の蜥蜴にも似た生き物だ。


「ちっ、バジリスクか…」


狙った獲物ではなかったように舌打ちをしながら、頭に刺した槍の刃を突き刺そうとしたが、一言ただ冷たく言い放つ。

「燃えろ…俺の大事なものを奪った罪をその身に背負え」


その一言により槍の刃に炎が纏われる。

その炎に抵抗しようとするバジリスクだが抵抗虚しく跡形もなく燃えた。


「次はどいつだ…」


苛ついた様子で月城がそう言った瞬間にバジリスクの群れだろうか月城を囲んで一斉に月城に向かって飛び上がった。


「面白い、やってやろうじゃねえか」


多数のバジリスクに余裕そうに槍を叩きつけた。

それからM.M.はどれ位の時間が立ったのだろう?

辺りには先程のバジリスクの残骸が散らばり、燃えた跡が残る中、ドスンと地響きが響き渡る。


「ようやくお出ましか…サラマンダー」


苛ついた様子から一変してニヤリと笑い、振り向いた先には月城の身長の3倍近くある巨大で赤く燃えたがる身体を持つ蜥蜴が月城を睨みつけ、威嚇していた。

それを合図に月城は地を蹴り、サラマンダーに向かっていく。


槍の刃と炎を纏った爪をぶつかった。


抵抗と反抗が激しい力比べ否刃のぶつかり合いに変わり、一歩も引かぬ状態に更に変わった。M.M.=100はどれ位の時間、振り続けたのだろう?

一突き、一突きと息を切らすことなく、確実な攻めをみせる月城と闇雲に爪を月城に向かって引っかこうとするサラマンダーは月城が上手く槍を利用しながら避ける所為で空を切ってばかりだった。


決着はM.M.=100が40回刻んだ頃だった。


月城の槍の刃がサラマンダーの胴体を貫き通し、命を終わらせていた。


「コール、コードネームクラトス。応答せよ。あなたの班に本日付けで配属される方が来ますので至急お戻り下さい」


「了解した。アムネシア体バジリスクとサラマンダーの破壊に成功。すぐに戻る。決められたコードネームは?」


「コードネームは“カーディス”です。」

「破壊の女神か…相当な実力の持ち主なんだな」


「はい、既に班待機室に待機命令に従って貰っています。」


「了解した。M.M.=1000で戻る」

端末から聞こえる事務的な機械音声に簡潔な報告等をしてすぐに端末を切ると、ズボンのポケットに仕舞う。


補足だが、ここでのM.M.=1000は10分を意味している。これはあちこちに建てられているメトロノームの目盛りを100に合わせると1分間に100回針を左右に振ることを意味している。

この地には時間計測器を邪魔する電波があるらしくメトロノームが建てられたのが本当の理由だ。

あいつみたいにロマンチックな考えで建てられたと考えられたならどんなにロマンや夢がある廃墟だろうと思えたかと内心溜め息をついた。日常に使われている時間は“分”だが、俺達のような職に就いている奴はメトロノームのメモリを100に合わせて動かすと1分に100反復させるという意味を理解してこうした隠語を使うことが多い。


「さて、“カーディス”か…」


あいつには相応しくない名前だな。と一言こぼしながら、槍の刃を天に向ける。


「あいつなら“ブリキッド”だな」


クドゥルフ神話に出てくる死と破壊の女神より春を司る女神の方が似合う。


あいつのためならなんでも俺はしよう…あいつに命を救われたのだから。


「まずはあいつを見つける事だ。」


俺は絶望を表したような廃墟を跡にした。

はじめまして、常葉樹ときわ たつきと申します。

オリジナルを書くのは初めてで楽しんで頂けたら嬉しいです。

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