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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕とチョコレート

 

突然だが僕には彼女がいる。


二年前からの付き合いでとても可愛い。


僕の誕生日には彼女自身をプレゼントしてくれるしクリスマスには彼女の髪を編んで作られたマフラー、バレンタインデーには彼女の皮膚や毛を混ぜて作られたチョコレートをくれる。


それに僕が人と話しているのを見たら嫉妬の炎を燃やしてもくれる。


もちろん僕もお返しをしている。


付き合ってから初めてのクリスマスこそありふれた物をあげてしまったが次のホワイトデーには僕の骨を混ぜて作ったクッキーを送ったし、翌年度のクリスマスには僕の皮膚をつけ僕の髪を生やした人形を送った。


その時のクリスマスは彼女も彼女の血が流れている人形を送ってくれた。


もちろん、お互いにその方法を聞きあってその機能をつけたのは言うまでもないことだ。


さて、今日のバレンタインデーはなにをくれるのだろうか、とても楽しみだ。


しかし、僕は仕事に行かねばならない。


そうしないと彼女と暮らしていけないからだ。


彼女はそれをとても嫌がる。仕事をしているとどうしても他の人と話さなければいけないかららしい。


そう言いながら嫉妬に顔を歪ませる彼女も十分可愛いのだが、今回は仕事をやめて一生彼女から離れないことをプレゼントにしたいと思う。


まあ、今流行りの逆チョコというやつだ。もちろんチョコも作成済みだ。


実は契約はとっくに切れているのだが、ある情報を渡すことを条件として会社から頭を下げられ、仕方なく契約を延長していた。


だがそれも今日で終わりだ。


会社につき階段を上り社長室と書かれた部屋の扉を開ける。


「情報を渡せ、いますぐだ」


「まあまあ落ち着いてよ、私としては君にここを離れて欲しくはないんだからさ。それにさ、君が送ったという研究成果はまだこちらには来ていないよ?」


「その返答も予想済みだ。研究成果はここだ」


そう言って契約に書いてある研究成果を並べていきさらに話す。


「これで契約は果たした。次は貴方が契約を果たす番だ」


「わかった、次は私が情報を渡そう。ほら、この書類に全て書いてある」


そう言われて渡された書類を読んでいく。確かに嘘偽りは書いていないようだ。


「これで契約は果たした。僕はここから出ていかせてもらう」


「待って、まだ私の話は終わっていないよ」


 答えを返すのも億劫なので視線で続きを促す。


 「君は本当にあんな狂人に願うつもりなのかね?そんなことをするより、ここで私たちと仕事をしている方が何万倍も君にとって益になるというのに」


 僕はその言葉にとてつもない怒りを覚えた。なにが私たちと仕事をしている方が何万倍も君にとって益になるだ、僕にとっては彼女とずっと一緒にいるほうがその何億倍も幸せなのだから邪魔をしないでほしい。


 「例え狂人であろうとも、僕の願いを叶えてくれるのであるならば神にさえ等しいと思いますよ」


 「そうか、ならそれを持って出ていくがいい。そして、二度とここに来るな」


 そういったきり、機械でできた体を持つ『それ』は僕が来た時と同じように八本の手を忙しなく動かし前に浮いた16のウインドウに数値や式、文章を入力する作業に戻っていった。


 まったく、彼女以外の他人に見られるのも話しかけられるのもお断り願いたいものだが、僕の願いを叶えるためであるならば仕方がない。ああ、彼女に会いたい一刻も早く帰って触れたいものだ。


 だからといって、彼女の名前を他人の前で口に出すことも考えにも出さない理由は、他人といるときに彼女の名前を口に出したり考えたりした場合、彼女の名前を呼ぶたび彼女の名前を呼んだ時にいた関係のない他人を思い出してしまう可能性があるからである。


 そんなことがあったら僕は自分を殺したくてたまらなくなってしまう。


 さて、今からどうするかだが、もらった書類に書かれている住所に自分の今までの研究成果を持っていけば願いを叶えてくれるらしいので、とりあえず行ってみようと思う。


 もし、自分の研究すべてを願いの対価として要求されるだけであるならば安いものだ。たったそれだけで僕と彼女だけで一生暮らしていけるのだから。


 研究者の言うセリフとしては失格だが、僕は彼女と暮らしていけるならば研究者などいつやめてもいいと思っていたから、心だけならもう研究者ではないといえるのだ。


 そんなことを考えているうちに住所の場所に着いてしまった。できるだけ早く終わらせて帰りたいものだがそれは相手次第だろう。


 なにせ、あんな体をしているようなモノに狂人と言われてしまっているのだから。


 少し考え事をしていたが、とりあえず住所のところにある建物に入るべきだろう。一応五階建てのビルのような形をしているが、中には何があるかわからないので不法侵入はあきらめて入口のインターホンを押す。


 すると機械特有の抑揚のない声で


 「ご主人様はご在宅ですので、入って右にある応接室で待っていてください」


 という答えが返ってきたのでその言葉に従い、右にある応接室で待つことにする。


 実際、ここまではどこも変という感じはしない。入ったら極彩色の光や壁とご対面というわけではなく、死体とご対面などというわけでもないため正直拍子抜けしている。


 であれば、本人がキメラやサイボーグと化しているとでもいうのか?


 いや、そんなことで狂人などと呼ばれるはずがないので、残った精神面がおかしいと容易に想像はつくが、どのようにおかしいかは実際に見てみないとわからないため、おとなしく彼女を想像して待っていることにしよう。


 「はじめまして、今日はどんな願いを叶えて欲しいのですか?」


 普通に僕の通ってきた扉を開けて彼は現れた、それは何の意外性もない行為であり、本人も人間の生身であったため、僕はこの下にどんな狂気が眠っているのだろうかと戦慄した。


 あれに狂人と呼ばれるくらいなのだから、姿または精神、行動が狂っていると予想していたのだが最初で二つが外れ、残るは精神のみとはいえまだあいさつを交わした段階なのでどうなるかはわからない。


 「そうですね、僕の家に永遠といっていいほどの長い期間ほぼすべての物を生産できる装置と僕と彼女が家に入った時点で閉鎖世界とし、任意で閉鎖世界を解けるという願いです」


 一瞬間をおいて考えられるだけの条件を付けた書物を渡すとともに口頭でも簡単に説明した。


 「なるほど、あなたの願いは確かに受け取りました、その願いを叶えましょう。対価は……」


 「僕の全ての研究成果で」


 「わかりました。では、こちらの出口を通ってお帰りください」


 いつの間にか僕が入ってきた扉は消え去り新しく出口が出現していた。


 そこを通る間考える。彼のどこが狂っていたのかを。


 最初に言った言葉から彼は願望機やそれに類するものと考えることができる。


 そう考えた場合の最善の対策は、条件を曲解されないように書いた契約書を作り、できる限り早く交渉を切り上げることだが……。


 一つだけ抜け道を作っておいたのでたぶんそれを選択してくれるはずだ。


 そうでないとこのチョコレートの体が無駄になってしまう。


 さあ、帰ろう早く彼女に殺してもらおう、この体から出た血を飲んでもらいこの体を食べてもらおう。


 そうして僕は彼女の永遠となり彼女を永遠とするのだから―――。

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