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いつもと違う

暗闇の中を手探りでいくことの恐怖を表現したかったのです。

眠りから覚めて目を開いたのに、いつもと違って部屋の中が真っ暗だった。


頭がガンガンする。


昨日は酒を飲みすぎたな。


起きたが、まだ夜かもしれない。


冬場だし、実は今が深夜で電気を消して眠っていたのなら話は分かる。


いつもカーテンを閉め切って、電気を消して。


部屋の中を暗くしてからベッドに入り、眠るのが日課だ。


もう少し待とう。


もう少し待てば、直に目が暗がりに慣れて来る。


家具の位置も、この季節はいつもベッドの中に潜り込んで来る、犬の”ジロー”の姿も見えるようになるだろう。


布団の中に手を突っ込むと、”ジロー”の背中の感触があった。


いつも通りの手触りに、心が少し落ち着く。





もう10分は経った。


まだ目が見えない。


何度かまばたきをしてみて、瞼が上下に動く感触はあるのに。


何も見えない。


それどころか、目に痛みを感じる。


昨日は悪ノリして、友人の健二と深夜まで飲んだ。


いつも通り、居酒屋でビールの中ジョッキから始めたのは良かったが、調子に乗って熱燗、焼酎をかなり飲んだ。


飲み放題だし、元は取らないといけない。


健二が嫁の写真を見せて来て、最初は自慢話だったのに途中から嫁の悪口ばっかり言い出したのは覚えている。


一人身の俺には、そんな健二の態度を見るだけでも羨ましく感じる。


そして、いつも通り俺に「お前は結婚しないのか?」といやみったらしく聞いてくるのには飽きている。


大きなお世話だ。


そこから二件目のスナックに行って、水割りを7杯飲んだところから記憶が無い。


スナックの女たちにおだてられた健二が気を良くして、ウイスキーを生のまま飲みだしてなかったか?


俺も負けじとボトルをラッパ飲みして、二人でボトルを2本空けた気がする。


思い出してきたら、胃の中が気持ち悪くなってきた。


胃の中が熱い。


”ジロー”の頭を撫でて一旦気分を逸らすとしよう。


”ジロー”の頭はどこだ?手探りだが、耳や突き出た鼻がどこにあるかわからない。


背中はわかった。


前足もわかった。


ちょっと奥に手を突っ込むと尻尾や臀部の感触、後ろ足もわかった。


「ジロー?おい、ジロー?」と声をかけてみるが、眠っているのか何も反応しない。


気分が悪い、吐きそうだ。


とりあえず部屋の照明のスイッチを探すとしよう。


ゆっくりと身体をずらして、床に足をつける。


何かぬるっとした感触があるが、寝ゲロでも吐いたのかもしれない。


まだまわりが見えないが、棚やまわりのものを触って身体を支えながらゆっくり立ち上がった。


そこからすり足で移動する。


ふいに、「ぐちゃっ」と何かを踏んだ感触がしたが、何かはわからない。


照明のスイッチはと・・・・。


あった!多分これだ。


スイッチを入れる。


「カチッ」という音がした。


電気はついたか?


ダメだ。まだ暗い。


目の奥がギリギリと痛んできた。


何か変だ。目を怪我でもしたのか?


そうだ、携帯で健二を呼ぼう。


健二は携帯の電話帳検索で一番最初にひっかかる。


携帯の電話帳に登録人数が少ないというのも情けないが、こんなときは逆にラッキーだ。


ズボンのポケットから携帯を取り出して、手探りで掛ける。


よし、多分これでかかるぞ。


電話をかけた数秒後、家の中のどこかからかすかに着信メロディが聞こえた。


これは、健二の携帯電話の着信メロディだ。


10年位前の邦楽の女性アイドルの歌だ。


健二は、そのアイドルの歌の中で一番マイナーな曲を着信メロディにしていた。


そのことを自慢気に語っていたから良く覚えている。


確かに同級生の中にも同じアイドルのファンが何人かいて、着信メロディをそのアイドルの曲にしている奴がいたが、皆一様にミリオンヒットした曲しか設定はしてなかった。


ということは、健二が部屋の中にいるんだな。


健二も酔っ払って、部屋のどこかにいるかもしれない。


何だよ。いるならいるって言えよ。


「おーい!おーい!健二ー!いるのかー!?」


返事が無い。


着信メロディはどこかから鳴り続けている。


少しずつ壁に手をあてて、身体を支えてすり足になり、健二の名を呼びながらゆっくり進む。


どうも方向からして、風呂場の方じゃないかと思う。


風呂場の前らしきところについた。


ドアを開けて中の様子を伺うも、そもそも目が見えないため何がどうなっているのか分からない。


ドアから風呂場の脱衣所と思われるところに入るとき、少し段差があったが用心して何とか通過できた。


なおも着信メロディは鳴り続けている。


脱衣所にあるようだ。


風呂場で熟睡でもしているのか。


すり足で移動していくと着信音が近づいてきたが、急にまわりで何かが動く気配がして着信音が切れた。


その後、何回か健二に電話をかけてみても繋がらなくなった。


やはり何かおかしい。


そう思っていたとき、急に何かに突き飛ばされて転倒し、頭や身体を打ちつけた。


倒れたまま痛みでうずくまってしまう。


そしてうずくまった状態から手伸ばして、当たりを探ろうとしたとき、誰かのズボンの裾を掴んだ。


急に身体を持ち上げられ、そのまま引きづられて水の中に頭を押さえつけられてしまった。


息ができない。苦しい。

何がどうなっている。


頭を押さえている手を払いのけようとするが、かなり強い力で押さえつけられている。


やばい、死にそうだ。


そのとき、玄関からインターホンが鳴り、ドアを数回ノックする音がした。


続けて、「田中さーん。いらっしゃいますかー?警察ですー。」という声がした。


またインターホンが鳴ってドアを数回ノックする音がした。


その直後、ダンダンダンと走る足音が聞こえ、ガラッと窓が開く音がして何かの気配が消えた。


頭を抑える手の感触が無くなったので、急いで水の中から頭を出し、咳き込んで口の中の水を吐き出した。


その時になってもまだ目は見えなかった。





二日後、会社員の田中将太は病院の上におり、警察から話を聞かされてゾッとしていた。


昨夜、健二と将太はスナックで泥酔していたところ、容疑者Aが二人に話しかけてきた。


ささいな冗談話や身の上話で意気投合した三人は将太が住むマンションの部屋で飲み明かすことになった。


しかし容疑者Aは別の都道府県での殺人容疑で指名手配がかかっており、金品強奪と二人を殺害するために将太の自宅に上がりこんだのだった。


容疑者Aは二人を更に酔わせ、入浴しようとした健二を浴室のバスタブ内で殺害した。

その後、将太の飼い犬である”ジロー”が異変に気づいて容疑者Aに飛びかかったが殺害されて、頭部を切断された。

切断された頭部は寝室に放置されていた。


その時、将太は寝室で昏睡しており、容疑者が将太を殺害しようとしたが妙な物音に気づいたマンション隣室の住人がインターホンを鳴らした。

焦った容疑者Aが、将太が起きて顔を覚えられるのを恐れ将太の眼球に強力な薬剤をふりかけた。


この影響で、将太は起きたときに目が見えなくなっていた。


その後マンション隣室の住人が警察を呼ぶために自室に戻り、その辺りで将太が目覚めた。

その時、寝室内には健二と”ジロー”殺害に使用した、血のついたナイフを持つ容疑者Aがいた。


将太が寝室から浴室にすり足で移動する間も、後ろから容疑者Aがナイフを持ったままゆっくりと付けていたとのことだ。


将太が浴室の脱衣所に入った際に突き飛ばし、将太の頭を水の張った浴槽内に押さえつけ、殺害を試みた容疑者Aだったがインターホンと警察の声を聞き、慌てて窓から逃走したとのことだった。


容疑者Aはその後逮捕され、事情聴取から事件の内容が判明した。


将太は一週間後に退院し、健二の嫁と一緒に健二の墓と”ジロー”の墓の前でそれぞれ手を合わせ、犯人が捕まったことを伝えて線香を上げた。

良く知らない相手は二度と家に上げないと誓って。

うん、こんな犯罪が起こらないようにしないとね。

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― 新着の感想 ―
[一言]  終わり方が少し説明的過ぎるかな、とは思いましたが、目が見えない状況での主人公の手探りの様子がドキドキし、楽しめました。  一言感想失礼しました。執筆おつかれさまでした。
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