5話 赤い光
「貴様……なんだその光は……それにその左目……どういうことだ!?」
なんのことかはわからないが、この光……この赤い光、オレと体とティルの体から同じ光が発生しているみたいだが……一体何なんだ?
「こんなの見かけ倒しだろ!」
ゴロツキの一人が、オレに向かってナイフを振り下ろす。
オレはそれを、少し体を右に反らすことで、いとも容易く避けることに成功した。
……いや待て、なんか簡単に避けれたけど、なんでこんなに簡単に避けれたんだ? もしかして……この光のおかげなのか?
「ちっ! こんなのマグレだろ!」
さっきは避けるだけだったけど、これって反撃にも使えるんじゃないか?
そう思ったオレは、最小限の動きで男の懐に潜り込むと、思い切り顎目掛けて掌底を叩き込む。
狙いがずれて掠っただけだったけど、男はその場に倒れた。おそらく衝撃で脳が揺れたんだろう。
とりあえず後ボスを含めて二人! このままぶっ倒していけば万事解決だな!
「ふん、確かに恐ろしい力だが……状況を忘れた訳じゃないだろう?」
気づいた時には、ティルの顔に向けられていたナイフは、細くて綺麗な首に向けられていた。
しかも、少し刺さっているのか、顔が歪んでいた。
まあ……確かに状況は全く打開されてないし、ヤバイよな……。
だけどこのままだとティルを守る事なんて出来ないよな。ここはこの力に全てをかけてみますか!
「そうだな……このままだとオレが圧倒的不利だよな」
「そういうことだ。今なら逃がしてやる」
「そうかい……」
余裕綽々とした態度で、ボスの男は言う。
へっ、ずいぶん殊勝な心構えじゃねえか。
だけどよ!
オレの辞書に諦めるっていう単語は存在しねぇんだよ!!
「ふっ!」
「なっ!?」
オレはボスの懐に潜り込むと、まず拳を振り上げてナイフを持っている右手にぶつけることで、ナイフを叩き落すことに成功した。
「うらぁぁ!!」
「ぐはぁぁぁぁ!!」
相手が怯んだ一瞬の隙を、オレは見逃さなかった。
オレは更に男の右の脇腹、つまり肝臓に目掛けてフックを叩き込む。その一撃で、ボスの男はその場に崩れ落ちた。
「ボ、ボス!?」
「あとはお前だけだぜ!」
ジリジリと近づいていくと、手下の男はあるものを取り出していた。
それはオレ達にとって最悪のものだった。
「く……来んじゃねえ!」
「てめぇ……!」
銃だった。
その銃口は、震えながらもティルを捉えていた。
ちっ……このやろう……! 物騒なもの見せつけやがって!
「い、いいか!? その女をこっちに渡さないと撃ち殺すぞ!」
「……誰が仲間を売るかよ!!」
そう言った刹那、男の指が引き金に掛かった。
マズイ。
そう思ったオレは、ティルの体を覆い被さるように抱き抱えると、真横にダイブした。
それと同時に、辺りに甲高い銃声が鳴り響くと、それと打って変わるように静寂に包まれた。
「痛って……ティル大丈夫か!?」
「だっ大丈夫」
とりあえずケガはないみたいだが……ティルがいた場所の後ろにあった岩には、弾痕がしっかりと残っていやがった。
こいつ……本当に発砲しやがったのか!?
「てめぇ!」
「ひっ!?」
今度はオレに銃口を向けるけど、そんなの関係ない。
オレは一瞬で男の懐に潜り込むと、腹目掛けて膝蹴りを叩き込んだ。
その一撃で、男は崩れ落ちた。
「くそ野郎が……! 大丈夫かティル?」
「べっ別に大丈夫よ! ってあんたケガしてるじゃないの!」
あぁ……確かにナイフでの切り傷やら殴られての打撲やら銃がかすったのか右頬に傷が出来ていた。
なんかホッとしたら身体中痛くなってきた……。
まあ、だからってレディの前で弱音を吐くレグルスさんじゃないけどな。
「大丈夫だって。なんだ、心配してくれてるのか?」
「バッバッカじゃないの!? 別に心配なんかしてないわよ!」
顔を赤くしながら弁明するティル。
んー心配しただけなのになんで起こったんやら……オレにはわけわからないぜ!
「おーい!」
ん? この声は……そう思いながら振り向くと、そこにはフィリィの姿があった。
心配かけちまったのか、必死に走ってきた。
てかどうやって気づいたんだ?
「よくわかったな」
「銃声が聞こえたから……それよりケガしてるじゃない!」
むっさすがフィリィ。みんなへの気配りはさすがだぜ。
と言っても別に大したことないんだけどな……。
「これぐらい平気だっての」
「平気じゃないよ! ティルはケガない!?」
「えっええ……別に私の心配なんて……」
「なに言ってるの! 心配するに決まってるじゃない!」
予想していなかったのか、ティルは目を丸くして驚いていた。
いやいや、別段そんなに驚くことないだろう?
「オレは大丈夫だから、ティルの方を見てやってくれよ。強がってケガ隠してるかもしれないし」
「そんなこと無いわよ!」
「フフッ……」
何故か怒っているティルを見て、フィリィはクスクス笑っていた。なにか面白いことでもあったか?
「その様子だとティルにケガは無さそうね。それにしても……ティルってそんな大きい声も出せたんだね」
「な、なに? いけないの?」
「ううん。ティルの新しい一面が見れて嬉しくて♪」
フィリィの一言に、顔を赤くしながらわたわたしていた。
あぁ、以前の扱いから察するにこういうのに馴れてないのか?
まあそれはわかるんだけど……けどよ、でもオレに怒ったのはよくわからん……。
「まあとりあえず戻ろうぜ……」
「そうね、そうしましょ」
オレ達は企業本部に戻ってくると、おっさんと話をしていた。
ちなみに今オレは一人でおっさんに報告をしている。
あとさっきシュノがいなかったのは、フィリィがオレ達のとこに来る前にバラバラになって探してたからだ。
そういや……バイスのバカは公園で寝てたみたいで、さっきまでおっさんとオヤジに怒られていた。
「まあ報告っつってもティルから話は聞いてる」
「ならオレが呼ばれたのはなんでだ?」
「まあ聞け。お前はティルから赤い光が出た後にお前も光が発生し、左目がオレンジ色になったらしいな」
目の色が? それはオレからはわからないけど、ティルからは確認出来たってことだよな。
てか……さっきは必至で気にしなかったけれど、あれホントなんだったんだ?
「よく聞け。お前はティルとリンクしたんだ」
「リンク?」
リンクってことは……おっさんが説明してたやつだよな……?
……え、まさかオレ『魔女』に選ばれたってことか!? オレランカー達と同等ってことか!? うひょー!!
今回の任務も無事クリアしたし、リンク出来て幸先いいし、とりあえずは合格だよな? 最初から戦闘だったし、しばらくはのんびり出来るよな!
「まだ簡易的なものだがな……てな訳で、お前達チームは明日から軍の訓練に参加してもらう!」
そんなオレの淡い幻想は……おっさんの一言で打ち砕かれたのだった――