29話 レム
シュノが前線から離脱してからあまり時間は経っていないのに、戦況はかなり不利になっていた。
守りに入り、オレが陽動として動いてはいるが、それでも犠牲者が出ない訳ではない。一人、また一人と仲間はやられていった。
くそっ! まだ怪我人だけで済んでるけど、このままだとマジで死人が出るぞ!
「おっさん! マジでマズイぞ!」
『分かってる! だが奴等のコーティングをどうにかしない限り、こっちに正気はねぇ!!』
「くそっ……うぉっ!」
敵の銃撃を、持ち前のスピードを活かしたサイドステップで回避する。このままだと、オレまでガス欠になりかねない。どうすりゃいいんだ畜生!
『……!! 全員へ通達! 狙撃班がターゲットの破壊に成功! コーティングの消滅を確認しろ!』
「っ!! よっしゃ任せろ!」
我先にと、バカが銃を乱射しながら特攻していく。あぁ、あんな特攻したら格好の的じゃねえか!
「うらうらうらー!!」
……なんで攻撃くらわないんだろう。
「おっ!」
バイスがアホっぽい声を出す。視線の先、敵の鎧には、幾つものヒビが入っていた。
『レグルス! チャンスよ!』
『おうよ!』
これは好機だ! オレは出始めに近くにいた敵の懐に潜り込むと、腹目掛けて拳を振るう。その一撃で、鎧を砕くどころか、悶絶して倒れこんだ。
『これならいけるわね!』
『だな! シュノ達上手くやったんだな!』
予想外のことだったのか、敵さんはあたふたと忙しなくしていた。こりゃかなり大打撃みたいだな!
『よし! ティルの観測でやつらの防御が手薄なのが判明してる。ここはレグルスに一気に攻めてもらう!』
おっさんの勇ましい声が響く。ついに真打ち登場ってか!
「まっかせとけ!」
拳を胸の前で合わせて気合いを入れる。つっても、まずはこの陣形を突破することからだな。
「ランカーを止めろ! 奴に仕事はさせるな!」
この陣形の隊長と思われる男が、オレを指差しながら指示する。やれやれ、人を指差すなって教わらなかったんかね?
つっても、敵さんの銃口は一気にオレに向いているし、いつ攻撃が来てもいいようにしないと――
「くらえこの野郎!」
「ぐあっ!?」
……えっと、なにが起こったかというと、敵がオレに気がいってる隙を突いたのか、バイスが敵の人をぶん投げて、他の敵にぶつけて一網打尽にしてしまった。
パワーだけはすげぇよなあいつ……脳まで筋肉なのかって思うぐらいだ。
「ほらレグ、こいつらは俺様がボコボコにしてやっから! お前はさっさと行きな!!」
親指で鼻をかきながら、超絶どや顔をかます。いつもなら貶す所だが、ここは甘えるとしよう。
「しゃーない、任せるぜ」
「へっへっ、この俺様にかかりゃ余裕だぜぇ!」
……凄まじい小物臭だった。
「ふぅ、みんな大丈夫か……?」
バイス達に任せて敵陣に接近してるのはいいものの、やっぱり不安は残っていた。オレのいないとこで何もなけりゃいいけど……。
『ねえレグルス、なんか変じゃない?』
『うん? なにがだ?』
『それぐらい判断しなさいよね!』
何故か理不尽に怒られてしまった。一体なんなんや……。
『敵陣に近づいているのに、明らかに敵がいないじゃない』
『……確かにそうだな』
そういや、バイス達と別れてから、敵に全く会っていない。接近しやすいと言えばそうだけど、ここまでいないというのは、流石に怪しいかもな。
『……! なにかくるわよ!』
「うおっ!」
突然前方から、水色の球体が飛んできやがった。それを咄嗟にしゃがんで回避する。
危うく直撃するとこだったぜ……ティルに感謝だな。
「なんだ?」
球体が飛んできた先、そこには一人の女の子が立っていた。
その女の子は、茶色のセミロングの髪を下ろし、どこか大人しそうな印象の女の子だった。俺達の軍とは違う服を着ている所を見ると、敵の軍人だろう。
……あと、身長は150程度しかないだろう。そのわりには……やたら一部分がデカイ。フィリィもデカイと思ってたけど、この娘もかなりあるな。
……おっと、流石に不謹慎だったな。けど仕方ないじゃない男の子なんだから!
「あなたがランカーですね? 陣地には近づかせません!」
ビシッ、とオレを指差しながら言う女の子。なんか……凄い頑張ってる感があって和む。癒し系って感じだ。
『女の子だからってデレデレしてんじゃないわよ!』
『しっしてねーよ!』
『ふんっ!』
なんかティルの機嫌を損ねてしまったようだ。離れてても、膨れっ面でそっぽ向いてるのが、容易に想像出来るから不思議だ。
「そういや……ランカーの写真で見た顔だ。君、ランカーのレムさん?」
「そ、そうです! あなたこそレグルスさんですね?」
なんかお見合いみたいにお互いの自己紹介をしているオレ達……端からみたら滑稽だな。
「あなたに攻めさせる訳にはい、いかないんです!」
「あんまレディとは戦いたくないんだけどな……」
視線を反らしながら、ポリポリと頭をかく。レディと戦うなんて勘弁願いたいんだけどな。
「ふ、ふざけないでください! いきますよ!」
えいっ、と言わんばかりに、胸の前で握りこぶしを作ると、体から強い光を発生させ、方目の色が水色に染まった。
……レディとは戦いたくないなぁ。
『ちょっと! 甘えた考えしてるとケガするわよ!』
『まあそうだけどさ……しゃーない、ティルにケガさせたくないし、やりますか!』
『バッバカじゃないの!? さっさとやりなさいよ!』
まあ言われなくても分かってるってな!
「い、いきますよ! えいっ!」
両手を前に出すと、そこにはさっきの水色の球体が産み出されていた。というより……あれは……?
「……水か?」
そう、ただの球体じゃなくて水だった。つーことは、水を生み出す特殊能力タイプってことか?
「えいっ!」
「ほいっと」
可愛らしい声を出すと、その水の球体をオレに向かってぶっぱなす。まあ直線的だったから、ジャンプするだけで、簡単に回避できた。
「えいっ! えいっ!」
「ほいっと! よっと」
バンバン水の球体を放ってくるレムちゃん。けど、やっぱ直線的だからか、回避するのは容易かった。
……まだ戦い馴れてないのだろうか? 攻撃がかなり直線的だった。
『相手が女の子だからって手抜いてないでしょうね?』
『んなわけねーだろ?』
ま、このままだと防戦になっちまうし、攻めていかないとなぁ。
「いくぜっ」
「こ、来ないでください!」
迎撃として、またさっきの水を放ってくるけど、やっぱり直線的だからか、体を反らしたり屈んだりしながら接近していく。
「えいっ!」
「うおっ!」
地面に手をつけたと思ったら、突然レムちゃんの周りを囲うように、地面から水の壁みたいのが現れやがった。
なんとか突っ込まないで止まれたけど、あのまま突っ込んだら不味かったな。
「このままじゃじり貧だな……」
思わずちっ、と舌打ちをする。攻撃は単調だけど、遠距離が得意そうだし、あの水の壁の守りもある。
……気乗りしないけど、ガチでいくとするか!
『よし、一気にいくぜ!』
『遅いわよ!』
一気にいこうと、オレは精神を集中させる。けど、その判断がいけなかった。
「サナ、準備良い……? うん、分かった。とっておき、いきます!」
「へっ?」
今までレムちゃんが放った水が、なんか綺麗な光を放ち始めた。刹那、全ての水がふわふわと浮かび始めた。
……いい予感はしねぇなぁ。
「ご、ごめんなさい!」
「マジか!?」
さっきふわふわしていた水が、オレに向かって物凄い勢いで飛んできやがった。
まさか、水を生み出す能力じゃなくて、水を操作することも出来るのか? こりゃマズイぞ!
(いや……ここは一か八かだ!)
いつもなら、スピードをいかして回避するけど、そんなの、この四方八方から飛んでくる弾幕には無意味だ。
そう判断したオレは、精神を集中することに努めた。
「ぐっ!」
棒立ちなんだから、当たり前のように水達はオレへと襲いかかる。かなりの勢いだからか、当たるとかなり痛ぇ。
『レグルス!』
ティルの悲痛な叫びが頭に響く。へっそんな心配なさんなって!
「効いてる……? 私だって……!」
緊張してるのか、汗を流しながらなにか呟くレムちゃん。まあそんなこと気にしてる余裕なんかないけどな。
「これで……終わりです!」
残っていた水に、更に自分で作り出した水を足して大きくしていく。こりゃでけぇなあ……アドバルーンの何倍もあるだろこりゃ!
「えーい!!」
可愛らしく気合いを入れながら、どでかい水の球体をぶっぱなしてくる。こりゃいけるか……?
「やった!」
勝利を確信したのか、女の子らしく嬉しそうに喜ぶレムちゃん。けど……そうは問屋が卸さないぜ?
そう、こっちの準備は出来たぜ!!
「うらぁぁぁああ!!」
「えっ……」
オレは自慢の双刃剣を作り出し、それをクロスに重ねて水に向かって切り抜ける。その一撃で、水の球体は、細かい水へとなって地面へと落ちた。
「うそっ……能力は肉体強化じゃない……?」
ワナワナと後ずさりするレムちゃん。なんかオレが悪役みたいだなおい……。
「へへっ悪いな騙してさ。さあ、こっからが本番だぜ!」
やっとこのキャラが出せた!




