28話 重圧
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レグと別れて数分後、僕は戦争の拠点でもある南の陣地に戻ってきていた。
さっきレグ達に作戦を伝えたからだろうか、それともただ単に周りが早かったのか、それは定かではないが、他のスナイパー達は戻ってきていた。
「おっシュノンバート! 遅かったな!」
「すいません先輩」
結構遠慮無しに、僕の肩をバンバン叩くこの細身の男は、僕が銃の訓練をしている時に世話をしてくれている人だ。
世話になっているせいで、僕が頭が上がらない数少ない人物でもある。
「そういや、ランカー君を使った作戦を考えたのお前なんだって? さっきジェクトさんが鼻高々に言ってたぜ!」
「ええ、まあ――」
思わず曖昧な返事をしてしまった。というより、隊長がそんな風に言いふらすせいで、周りの視線が……正直僕には鬱陶しかった。
「お前ホントに頭良いよな! そうそう、今度女の子とデートがあってさ、何か喜ばせるアイディア無いか?」
「そんなこと聞かれてもお答え出来ませんし、そもそもそういうことを聞くときは時と場合を選んでくださいよ」
「まあそれもそうか!」
ハハハッと笑いながら肩に腕を回してくる。こういうスキンシップが無かったら良い先輩なんだけれどね……。
「よし、全員揃ったな。これから作戦を説明する」
隊長がスッと僕達の前に出ると、一瞬で全員の目線が隊長に集中する。もちろん僕や先輩も例外無くね。
「ここには十二名の精鋭を集めた。これから三名ずつ、四つの班に別れて作戦を遂行してもらう」
やはりというか、一回で各個撃破をしていくということか……一個ずつやってたら確実に破壊は出来るだろうけど、それこそ敵に気づかれるのが関の山だろう。
「んじゃ班員を決めていくぞ」
隊長は一枚の紙を見ながら、それぞれ何班かを指示していく。どうやら僕は三班に配属されるようだ。
「おっ一緒だなシュノンバート。よろしくな」
「はい、こちらこそ」
どうやらさっき一緒だった先輩も、僕と同じ班に所属されるようだ。相変わらずニコニコしながら、僕の肩を叩いてくる。
まあ……班に知り合いがいるのは良いけど……このスキンシップは止めてもらいたい。
「あと、作戦前に一度医療班の所に行って、治療してもらってこい。小さいケガでも、狙撃に影響したりするからな」
腕を組ながら、堂々と言い放つ。それには僕も同感かな。
「よし、行くとするか」
「はい」
僕達は銃の入ってる荷物を担ぐと、素直に隊長の指示した医療班の施設へと足を運んだ。
「……これは……」
医療班のところに来てみると、そこは戦場並みに、いや……下手したら戦場より酷い光景だった。
ケガの痛みに呻く声、忙しなく行き来する医療班、ケガ人は減ることは無く、寧ろ増えていっていた。
正直なところ、これが企業戦争じゃなく、本当の戦争だったらと思うと……今の光景も相まって、僕は言葉にならなかった。
「……これが戦争だ。よく覚えておけよ」
「はい」
先輩が、僕の肩をポンと優しく叩きながら、諭すように言う。
先輩がどういう意図でそう言ったのかは、僕には理解出来ない。
けれど、先輩が何が言いたかったのかぐらいなら、僕にだって理解出来た。
「さて、俺も腕痛めちまったし、ちょっくら行ってくるか。お前も時間が無いんだから、気になるとこがあったら治してもらえよ」
そう言うと、先輩は近くにあるテントのうちの一つに入っていった。
と言ってもな……これといって痛いところは無いし、邪魔にならないようにしてればいいかな。
「あっシュノ君」
「ん?」
聞き覚えのある声に、僕は振り返る。そこには段ボールを持ったフィリィの姿があった。かなり忙しいのか、頬を赤くし、発汗も激しかった。
「どうしたの? ケガでもした!?」
「いや? 別に大丈夫だよ」
「………」
なぜかジーっと僕の体を隅々と見始める。……僕はどうすればいいんだ?
「ちょっとごめんね」
「えっ? 痛っ……」
フィリィはしゃがんで僕の右足を触る。軽く触れられてるだけなのに、足首に鋭い痛みが走った。
「ほら、無理しないの」
「いつの間にケガしたのかな……?」
「自分では気づかなくても病状は悪化したりするから気を付けてね?」
ため息をつきながらも、手際よく足首に包帯を巻いていく。流石手慣れてるな……。
「はい、いいよ! もう痛いとこない?」
「多分大丈夫だよ。悪いね、忙しいのに」
「ケガした人の治療が仕事の一個だから問題無し、だよ? フフっ」
「……そういえば何か運んでる最中じゃなかったかい?」
「あっ! ごっごめんねシュノ君、わたしいかなくちゃ!」
段ボールを持ち直すと、フィリィはパタパタと走り去っていった。
……なんか転びそうで見ていてヒヤヒヤする。
「なんだ、彼女か?」
突然背後から声が聞こえ、思わずビクッとなりそうになる。振り向くと、そこには悪戯小僧のような顔をする先輩の姿があった。
「先輩も人が悪いですね。気づいたら声をかけてくれてもいいでしょうに」
「いやーなんか面白そうだからな。コレか?」
ピシッと小指を立てる。どうしたらそんな解釈になるのだろうか。
「そんなんじゃないですし、それより治療が終わったなら出発しますよ」
「ちぇっシュノンバートノリが悪りーぞ」
「時と場合を考えてるだけですよ」
ため息一つ残すと、僕は先輩を置いてもう一人の班員と合流し、指定地へと歩き出した。
『全員着いたな。これより作戦を開始する』
指定地に着くとほぼ同時に、通信機からジェクト隊長の声が響く。
やはりというか、いつもの軽いノリは無しだ。
『この作戦は、この戦争に大きく関わる可能性がある。全員、気を引き締めろ!』
隊長からの叱咤激励を受けると、僕達は事前に指示された道を通りながら、ターゲットへと近づいていく。
「先輩、狙撃といってもどういう感じでするんですか?」
この班の仮の隊長でもある先輩に問いかける。
「狙撃が出来る範囲に近づいて、廃墟のビルから狙撃する予定さ」
あれ、言ってなかったかな。この戦場は、この前の演習みたいに、廃墟の町が戦場になっているんだ。
「なるほど」
「ま、お前達がミスっても俺の一発でやってやるからよ。心配なさんな!」
ケラケラと、無垢な子供みたいに笑いながら、僕ともう一人の班員の肩を叩く。本番でもこのテンションなんだね……。
「おっと、敵さんだぜ?」
敵兵に気づいた先輩が、右手を上げて合図を出す。それに反射的に僕達は足を止める。
先輩の視線の先を確認すると、確かにそこには敵の隊員が五人ほどいた。恐らくこの辺りを、偵察しに来た部隊だろう。
「んー動く気配ねぇな」
「どうします?」
この辺りを警戒してるのか、全く動く気配はない。本来なら、狙撃で気絶させるのがセオリーだけど、鎧のせいでそれが出来ないのが厄介かな。
「ニヒヒーこれを使うんだ!」
先輩は、小さな機械を荷物から取り出した。機械……いや、これを僕は知ってる。
「……ラジコン?」
そう、ラジコンだった。手頃なサイズの車のラジコンを三つ。これを一体どうするっていうんだろうか。
「まあそんな呆れ顔する前に、よく見ておけってな」
口笛を吹きながら機嫌良くラジコンを操作を始める。これがまた、器用に敵の近くまでやるんだから驚きだ。
「ここで、こいつだ!」
何故か腕を振り上げて、豪快にコントローラーのボタンを押す。刹那、ラジコンの一つから、大きな爆音が鳴り響いてた。
「っ!? なんだ!」
「確認してきます!」
敵隊員は、思ってもみなかった事態に、半ば慌てながら音のする方に確認しに行ってしまった。
けれど、まだ三人残っている。これじゃまだ身動きを取ることはできない。
「よし、次だ!」
先輩は、更にボタンを押して爆発音を響かせる。多分だけど、バラバラに配置させたラジコンで爆音を出して、注意を向けさせる作戦なんだろう。
「またか! お前確認してこい!」
「はっ!」
リーダーと思われる隊員が、一人の隊員に指示を出す。これで残りは二人か。
「うっし、いっけ!」
残りのラジコンで、最後の爆音を奏でる。これで動かなかったら、少しまずいかな。
「隊長! かなり近くで聞こえますが!」
「仕方ない、確認に行くぞ!」
敵隊員は、最後のラジコンの音を確認しに行ってしまった。よし、これで誰もいなくなった。
「んじゃ行きますか!」
ちょっと時間を喰ってしまったけど、まあ支障はないと思う。そう判断した僕達は、辺りを警戒しながら、ゆっくりとターゲットへと向かっていった。
「どうですか?」
「おう、確認出来るぜ。多分あれっしょ」
あれからしばらくして、僕達は指定された、廃墟の建物に無事に着いていた。
まだ時間があったので、とりあえずターゲットの状態を確認しているっていうのが現状だ。
「あれか……」
双眼鏡でターゲットを確認してみる。赤い球体がフワフワと浮かんでいるのが確認出来た。恐らくあれだろう。
「もうちょいゴツいのを考えてたけど、案外スマートだな」
……そういう問題だろうか?
『全員着いたか?』
「おう、着いたっすよ」
『よし、これで全員揃ったな。これから狙撃を始める!』
隊長の一言で、ある意味で僕にとっての、本番が始まった。そんなような気がしていた。
「よし、始めるぞ」
先輩を皮切りに、僕は銃の準備を始める。威力と命中の良さを重視した銃だ。その代わりに、銃自体が大きいから、動きながらの使用は無理というわけだ。
まあ、狙撃用だから機動性なんかは関係ないんだけどね。
「用意出来たか?」
「はい」
微調整を済ませると、僕は先輩に報告する。もう一人の隊員も同様に終わったみたいだ。
「よし、俺達はこの建物にある、このバカデカイ窓から狙撃する!」
親指でクイッと大きい窓を指しながら言う。ちょうど三人が離れずに狙撃出来るし、ベストポジションだ。
「よし、いくぜ」
隊長の合図で、僕達は狙撃をする態勢に移る。スコープを覗きながら、更に微調整に移る。これだけでも、狙撃は繊細な作業だということが分かるだろう。
「いけるか?」
「は、はい」
トリガーに指をかけて、いつでもいけるように準備をする。
「……?」
ふと違和感を感じた僕は、トリガーにかけている指を見てみる。
「……くっ」
僕の指は、小刻みに震えていた。いや、指だけじゃない。僕の体は小刻みに震えていた。
「………」
初めての大仕事に、体の震えは止まらなかった。これをしくじったら、僕達の勝利は無い。その責任の重さが、僕にはとてつもない重圧になっていた。
「くそっ……くそっ……」
震える体を何とか止めようと試みるけど、どうやっても止まらない。僕としたことが……プレッシャーなんかに押し潰されるなんて……!
「うーっす♪」
「……っ!?」
僕が覗いているスコープの先、そこにはどアップになっている先輩の顔が見えた。
……正直少しビックリした。
「あんま一人で抱え込むなよ? なんのためにチームで来たんだ?」
いつも見馴れないような、真面目な顔で言う。チーム……そうだ。僕達はチームだったんだ。足りないものは補えばいい。ミスをしたら助け合えばいい。その為のチームじゃないか。
ここにはチームの二人もいるし、戦場には、僕の信頼出来る仲間もいるじゃないか。
そう、僕は独りじゃない。
そう思うと、いつの間にか肩の力は抜け、震えも止まっていた。
「いけそうか?」
「はい」
もう一度スコープを覗き、狙いを定める。その日の風等のことも考慮して、銃身を整えていく。
『全員、いけるか?』
「うっす」
『よし……狙撃しろ!』
隊長の言葉を合図にするように――
――僕は引き金を引いた。
んー最近出来が悪い……




