26話 居場所
「ほえ〜すげぇな」
あのミーティングから三日後、オレ達は戦場になる孤島に来ていた。
どうやらこの前の遠征みたいに、企業戦争でもこういう誰も使わない島とか廃墟を使うみたいだ。
それで今は陣地となる島の北側にオレはいた。
「なんか……いかにも戦争って感じだな」
「それは僕も同感かな」
オレとシュノは二人でうんうんと頷いていた。
ちなみに今は、戦争で使う道具のメンテナンスをしたり、本部や治療所として使うテントの設置をしたりしている。
……オレとシュノか? オレはなんか知らないけどランカーだからゆっくりしとけって言われて、シュノはもう銃の準備は万端だそうだ。
なんか特別扱いされてるみたいで、少しくすぐったいような、そんな変な感覚だ。
「おいテメェらぁ!! ちっとは手伝えぇ!!」
なんかやたらとデカイダンボールを運びながら叫ぶバイス。
重いのか必死に叫ぶその姿は、オレ達のバイスイジリの血をうずかせるのには充分だった。
「いやさ、オレはなんかランカーだから体を休めろって言われてるしさ〜」
「僕ももう仕事は終わったしね」
「いやいやいや! ならこの俺のを手伝ってくれても――!」
「あー忙しいわー」
「あっ僕もまだ仕事あったなー」
明らかな棒読みなセリフを言いながら、にやけ顔でバイスのもとから離れていった。
「えっちょっ! 仕事終わったんだろ!? お願いだからてーつーだーってー!!! あっ♪」
なんか良い声が聞こえたとほぼ同時に、なにか凄い物音が辺りに木霊した。
バイスよ、貴君のことはきっと今日の夜までは忘れることはないだろう――オレはそう思いながら心の中で涙を流した。
「さてと、マジですることないな」
暇を持て余していたオレは、仕方なしに辺りをブラブラしていると、医療班のところにやってきていた。
そう、オレの小隊の一員でもあり、医療班所属でもあるフィリィのいるとこだ。
「えっと、えっとこれはこっちで……あっこれも用意しないと……」
ちょっと眺めていただけでも、フィリィはあちこちに動き回りながら、機材を運んだり藥を用意したりしていた。
……大変そうだなぁ。やっぱ兵士の命に直結するものだもんな。そりゃ念入りにやるはずだ。
「邪魔しちゃ悪いよな」
その場から立ち去ろうとすると、フッとフィリィと目線がぶつかった。
忙しくてこっちに来れないからか、その場でオレに向かって微笑みながら手を振ってくれた。それに片手を上げて軽く会釈すると、その場を離れた。
「……そういやティルはどこにいるんだろな?」
さっきから陣地の中を結構ウロウロしてるけど、まだ一度も見ていなかった。
「陣地内にいないのか?」
一つの仮説を立てて起きながら、ちょっとそれはありえないんじゃないかと思ってしまった。
つっても可能性は0じゃないし探してみるか。そう判断したオレは陣地を離れた。
「……いた」
マジで陣地の外にいるとはな……ティルは海を見渡せる崖の上で、一人で立っていた。
しかも結構崖の端にいるせいで、見ててちょっと危なっかしい。
「………」
「しかし……なにしてんだろな?」
いつもならちょっと脅かしてやろうか、とか思うんだけど、どうもそんな雰囲気じゃなさそうだし、普通に呼ぶか。
「よっ」
「ひゃあ!?」
「えっちょっ!?」
普通に近づきながら呼んだだけなのに、予想以上にビックリしたのか、ティルは崖から落ちそうになっていた。
「危ない!」
オレは咄嗟にリンクして一気にティルに近づくと、ティルの腕を引っ張ってオレの方に引き寄せた。
「ビックリした……大丈夫か?」
「う……うん……」
………。
「………」
「………」
ティルを引き寄せてから、何故かオレ達は数秒間見つめあっていた。
……っていやいや、今の状況ヤバいだろ!? あっどんな状況かってっと、オレの胸の中にティルがすっぽりと収まってるっていう……まあそんなとこだ。
「あっ……悪い!」
怒られると思い、急いでティルから離れる。思わず身構えていたけど、ティルは怒るどころか、どこか悲しそうな瞳を浮かべながら、また海を眺め始めた。
「……どうかしたの?」
「……オレ? いや、ティルがいないから探しに来たんだよ」
「そう……」
「ティルはなんでこんなとこに?」
「あそこに……私の居場所は無いから」
やはり悲しそうな瞳をしながら、静かにそういった。
……そりゃそうだよな。オレ達が来た時に物みたいな扱いっておっさんが言ってたし、ヴィランも役立たずとか言ってやがったし……。
一体どんだけ苛まれ、蔑ますされたか……オレには到底理解してやることは出来ない。
「よっと」
「……?」
だからこそ、オレにはオレが出来ることをすりゃいいのさ。そう、ティルを信じてそばにいる。それだけのことだ。
それを象徴するかのように、オレはティルの隣に座り込んだ。
「みんなの所に戻らないの?」
「まあいいじゃん。オレはティルと一緒にいたいんだよ」
「バッバカじゃないの?」
と、拗ねたようにそっぽ向きながらも、ティルもその場に腰を下ろした。
やれやれ、いつもだけど素直じゃないなぁ。まあそれがティルらしいって感じだけどさ。
「………と」
「ん? なんか言ったか?」
「なっなんでもないわよっ!」
「っ??」
まあ……嫌がられてる訳じゃないし、よしとしておこう……。
その後、最終ミーティングの時間まで、オレ達は特に会話をすることなく、一緒にのんびりと穏やかな海を眺めて過ごした――
「よし、全員揃ったな。ではミーティングを始める」
かなり広めの広場に集められたオレ達は、おっさんの話を聞いていた。てか……なんでおっさんが前で喋ってるんだ?
「まず最初に、今回の戦争の総指揮を勤めるジェクトだ。よろしく頼む」
「ズコーッ!!」
思わずオレはその場で昭和のマンガにありそうな、典型的なズッコケをしてしまった。遠くでバイスもずっこけている。
「おいレグルスーなにアホなことやってんだー」
「うっせー!」
「まあいい。とにかくミーティングを始めるぞ。今回は第一小隊から四十小隊参加している。その小隊で、こちらで指示して陣形を組み立てていく」
なるほどね、他の小隊と一緒に行動するってのはそういうことか。
「最初は第一から十二までは正面から、十三から二十までは東から、二十一から二十八までは西から攻める。残りの小隊は陣地の守りをする」
聞く限り、おっさんの作戦は四方八方から一気に攻めていくってことかな。
ちなみに、オレ達は第四小隊みたいだな。
「攻め方や陣形変更は終始伝達していくから、それに従うように。あと今回のランカーだが……」
おっさんがそう言うと、その場にいた奴等の視線がオレに集中される。
いや〜そんな熱い視線で見んじゃねえよ〜それが許されるのはレディだけだぜ?
「ランカーのレグルスだ。今回の切り札だからしっかりやれよ?」
「へっ任しときな」
少しニヤニヤしながら言いやがるおっさん。なんか少し吹っ切れてるし、プレッシャーをかけて、にやけようとしても無駄だぜ?
「んでだ、初めてのやつもいるだろうし、説明しておくが……」
そう言いながら、おっさんは自分の後ろにあったカプセルを指差した。この前ティルが入ってたカプセルだ。
「こいつは『魔女』が戦場を見渡すことが出来る装置だ」
……どういうことだ? ランカーとのリンク距離を延長させる他に機能があるのは聞いていたけど、どういうこっちゃ。
他の新入りも分からなかったのか、何人か首を傾げていた。
「つまりだ、相手の兵隊の動きを探知したり、特殊なエネルギーを発見したり、所謂監視者みたいなことが出来るようになる装置だ」
なるほどね。つまり敵が攻めてきてるから守れーとか、チャンスだから攻めろーとか、そういうのをティルに判断出来るようになるってことか。
それって、ある意味でオレが攻めるのにすっげえ役に立ちそうだな!
「これもかなり重要だからな、上手く指示をだしていく。んじゃ各自最初の指定位置に着け」
おっさんの一言で、各自指定された初期位置に移動していった。
「さてと、行くかな」
「………」
右腕を回しながら、意気揚々と行こうとすると、ずっと隣にいたティルが、そっとオレの裾を引っ張っていた。
「どうした?」
「その……」
ん? なんかいつものティルらしくないというか、はっきりしないと言うか……どうかしたんだろうか?
「……ケガしないでよ……」
「………」
「もう……あんなレグルス……見たくないから……」
視線を落としながら、弱々しく言うティル。やっぱこの前はかなり心配かけちまったんだな……。
「へっ大丈夫さ」
「あっ……」
安心させるかのように、オレはティルの頭を優しく撫でてあげた。
「こっ子供扱いしないでよ!」
「そうそう、ティルは元気な方が似合うぜ」
「もう……レグルスなんか知らないんだから! 早く行きなさいよ!」
「おう! 任しときな!」
ニカッとティルに笑顔を向けると、オレは指定位置へと走り出した。
「……頑張ってね、レグルス……」
「やあ、遅かったね」
初期位置に着くと、少し銃身の長めの銃を持ちながら、意味深に言うシュノの姿があった。
「まあな。モテル男は色々とやることがあるのさ」
「なに言ってやがる! 俺様以上にモテル男がいるわけねーだろ!」
こいつも先に来ていたのか、どや顔で胸を張るバイス。こういう奴はスルー安定だ。
「レグ、通信機はつけたかい?」
「おうよ、こいつだろ」
右耳についている装置を指差しながら言う。方耳だけ隠れるようなヘッドホンのようなものに、小型のマイクがついている装置だ。
「んで、バイスは荷物運びは済んだのか?」
「まあな……テメェらが手伝ってくれなかったから思いきり落として怒られたけどな!!」
物凄い剣幕で怒鳴り散らす。うるさくてたまらん。
それにしても、やっぱ落としたのかー。……ざまぁ。
「さて、そろそろか……」
オレの言葉を合図にするかのように、島中にサイレンが鳴り響く。
開戦の合図だ。
『よっしテメェら! 気合い入れてくぞ!!』
通信機からおっさんの気合いが入りそうな一言が響く。
いよいよだ……だけど不思議と落ち着いている。どうもティルと海を眺めた辺りからみたいだ。
『しっかりしてよね!』
『おう!』
両頬をバチンと叩いて気合いを入れ直すと、オレ達は作戦を開始した――




