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戦場のローレライ  作者: ゆうき
四章 決意
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23話 休む時は

 ……なんか良い匂いがする。


 トントントン、と何故か落ち着くような音が聞こえてくる。


 なんの音だ? なんの匂いだ?


 そもそもオレは一体どういう状況でいるんだ?


「……?」


 フッと目を開けてみる。最初に目に入ったのは、見慣れた白い天井だった。


 てか……ここオレの部屋じゃん。そうか、オレぶっ倒れて運ばれたのか……倒れる前の記憶はうっすらとしかないけど、多分合っているだろう。


 意識が覚醒してくると、より一層と、この匂いと音に気がいってしまう。てか……声も聞こえてくる。


「こっこう?」


「そうそう。上手上手♪」


 ……多分だけど、女の子が二人、仲良く話しているんだと思うけど……オレの部屋に女の子が来てるのか!?


 ……でもなんか聞き覚えがある声だな……まだ寝ぼけてるのか?


「よし、後はふたして待つだけよ」


「……慣れてないと疲れるわ」


「……ティルとフィリィ?」


 この声、その二人で合ってると思うけど……なんで二人がオレの部屋で話しているんだ?


「あっレグルス起きた」


「本当? あっ本当だ」


 二人はオレの方を見ながら台所から出てきた。


 ……二人ともエプロンしてるし! フィリィは青を、ティルはピンクを基調にしたエプロンをしていた。かわいー!


 って、まあ今はそれは置いておくとしよう。


「……なんで二人がいるんだ?」


「レグ君が倒れたからに決まってるでしょ」


 思ったことを聞いたら、やたら大きな声で怒られてしまった。


 そこまで心配する必要はないと思うんだけどなぁ。


「そんな大袈裟にしなくても平気だって」


「何言ってるのよ! 心配するに決まってるじゃない!!」


 今まで黙っていたティルは、身を乗り出してオレの体を心配してきた。


 いつもそこまで大声を出さないティルが、ここまで出すなんてな……相当心配かけちまったみたいだな……レディに心配かけるとは、オレもまだまだだな。


「何かあってからじゃ遅いのよ! あんたはもう少し自分の体を大事にしなさいよ……」


「ゴメンな、心配かけて」


 ベッドから起き上がると、オレは笑顔でティルの頭をポフポフの撫でてあげた。


「なっ、ちょっ!?」


 顔を真っ赤にしながら反抗されたため、オレは反撃が来る前に手を離した。


 まあ恥ずかしがってるだけだろう、ティルのことだし。


「じゃあレグ君、なにをしてたのか話してくれる?」


「ああ、実は――」


 ピンポーン♪


「ん?」


 せっかくオレが話そうとしたのに、部屋の中にインターホンの甲高い音が響いた。


「あっはーい」


 疲労のせいで上手く動けないオレの代わりにフィリィが出てくれた。


「やあ」


「おいおい、大丈夫かレグ?」


 フィリィの後に続いて、シュノとバイスが部屋に入ってきた。


 おかけで一気に部屋が賑やかになる。


「さて、みんな揃ったかし今度こそ話してもらおうかな」


「ああ」


 まあこれといって話すようなことはないと思うんだけど、心配かけちまったし、みんなには知る権利があるよな。


「遠征が終わってから、特訓してたんだよ」


「特訓? どういうこと?」


「おっさんに無理言って基礎から特訓を受けてたんだよ」


「呆れた……怪我もまだ完治してないのに無理しないのっ」


 ビシッと指を指されながら、フィリィに注意されてしまった。


 んー衛生兵をやってるってのもあるけど、やっぱフィリィってお姉ちゃんって感じだよな。


「……フッ」


「なんだよ?」


「いやね、考えることは同じと思ってさ。僕もついさっきまで隊長の訓練を受けてたからさ」


 ……? どういうことだ?


「なんだよ、俺もだぜ!」


「あれ、君いた?」


「んにゃ、隊長の特別メニューを消化していたぜ」


「今日からの訓練ってそれのこと?」


「そうだよティル」


 みんなはなるほどね、と納得しあいながら頷いている。


 こいつらもまだ休暇のはずだけど……考えていたことはオレと一緒だったってことかい?


「全く……焦る気持ちも分かるけど、休む時は休む! シュノ君もバイス君も!」


「そうだね、僕としたことが失念してたよ」


「だな。わリーな心配かけて」


 ハハッとみんなで笑いあう。凄い暖かい雰囲気だった。


「でもレグルス、夜は帰ってきてたでしょ?」


「まあな」


「ならなんで反応無いのよ。私、何回も来たのよ?」


 ムスーッと頬を膨らませるティル。


 膨れっ面もかわいいなぁ!


「まっまじか……そりゃ悪いことしたわ。あれ読んでてさ」


 オレの指差す先、そこには大きめの手提げ袋が置いてあった。ちなみに中身は、大量の書物だ。


「……本?」


「ああ。肉体の鍛練の仕方とか、軍事戦術のこととかの本さ」


「「「似合わない!!」」」


「やかましいわ!!」


 まさかの三人のツッコミ集中砲火を受けてしまった。まあフィリィは苦笑いだったけど。


「とにかく、みんな訓練はしっかり休んでからするようにしなさいっ!」


「へーい」


 ビシッとフィリィに渇を入れられる。と言っても、止めるわけにはいかねえんだけどな。


 ……無理して倒れないようには努力するぜ。


「そういえばフィリィ、この匂いはなんだい?」


「ああ、クリームシチューだよ。二人も来るって分かってたから沢山作ったんだ」


「うひょーやったぜぇ!」


「やめなよみっともない」


 子供みたいに騒ぐバカを、呆れ顔で制止するシュノ。


 騒ぐのは勝手だけど、オレの部屋で騒ぐのはやめてもらいたいもんだぜ。


「といっても、もうしばらくかかるけどね」


「まあ仕方ないね」


「えー早く食べてぇんだけどよー」


「ガキかテメェは」


「うっせ、どんな奴も空腹には勝てねーんだよ」


 まあこいつの言い分も分かるけどさ、ナイスガイなら文句を言わずに待ってると思うんだよなオレは。


 シチューが出来るまでの間、オレ達は他愛のない話をしながら緩やかに過ごした。


 シチューが出来たあとも、オレ達はワイワイとつかの間の楽しい時間を過ごしていった。


「さてと、明日も早いし今日は帰るとしようか」


「だな」


「そうだね。じゃあねレグ君。しっかりと体を休めるんだよ」


 そう言うと三人はぞろぞろと部屋を出ていった。残ったのは、オレとティルだけになった。


「ティルもそろそろ戻った方がいいぜ」


「え、ええ……」


 ティルに優しく促すと、なぜかティルはモジモジしている。


 ……端から見たらなんかいろいろ勘違いが起きそうな気がする。


「そっその……えっと……」


「っ?」


 やはりモジモジしている。今まで色んな女の子と関わってきたから分かるけど、こういうときは急かさず、ゆっくり待ってあげるのがいいんだぜ。


「こっこれ……」


 顔を赤くし、気恥ずかしそうにそっぽを向きながら、紙袋を差し出してきた。


「……オレに?」


「ほっ他に誰がいるのよ?」


「開けていいか?」


「かっ勝手にすれば?」


 やれやれ、素直じゃないなぁ。まあいっか。


 オレは紙袋を開けてみる。中にはミサンガが入っていた。


「おっミサンガじゃん! くれるのか?」


「なに、いらないの?」


「いやいや、ありがたく貰うぜ」


 オレは紙袋からミサンガを取り出すと、利き腕である右腕につけた。


 そういや、ミサンガってお守りだけど願い事が叶うって聞いたことがあるな。まあ詳細はよくは知らないけどな。


「……レグルスって何利き?」


「どゆこと?」


「右か左かってこと!」


 ああ、利き腕のことかな? 何でそんなこと聞くんだろうな?


「右だよ」


「っ!!」


 別に普通に答えただけなのに、ティルの顔は面白いくらい紅潮していた。


「どした?」


「なっななな何でもないわよ! とにかく渡したし私も帰るから!」


 半ば投げやりに言い切ると、ティルは逃げるように部屋を出ていってしまった。


 ……どういうこっちゃ。


「そういや……」


 ティルが帰るとき、チラッと右腕にミサンガが見えたような気がする。まあ紐の色は違っていたけどな。


「利き腕って……なんか意味あるのか?」


 オレはさっき言ったように右だが、確かティルも右だった気がする。箸を使ったりするのも右だったし。


 と言っても、ミサンガの細かい意味は知らないしな。確か願いが叶うのは、ミサンガが切れた時って聞いたことがあるな。


「だからって自分で切るわけにはいかないよな」


 自分で言って自分で苦笑してしまった。


 ……なんか、ただの寂しい奴みたいになっちまったみたいに感じてしまった。


「……さて」


 オレは右腕につけたミサンガをギュッと握りしめると、切れた時に叶ってほしい願いを思い浮かべた。


 ……オレの願いは……強くなること。強くなってみんなを、ティルを守れるようになりたい。


「本当はみんなとずっと一緒に、とか願いたいとこだけどな」


 流石にミサンガ一個で願いは一個だろうし、守れるぐらい強くなれればみんなとも一緒にいられるだろうから、とりあえず妥協した。


「……どうすっかな」


 みんながいなくなると、とたんにすることが無くなっちまった。また訓練関係のことでもするか?


「そうすっか」


 袋から軍事訓練に関する本を取り出そうとしたけど、オレは手を止めた。


 「休む時は休む!」というフィリィの忠告を思い出したからだ。


「……まあ無理して体壊したら意味ねぇってか!」


 まあ今さら何を言ってるんだ、と突っ込まれそうだけどな。


 そう判断したオレは、ベッドに横になった。


 睡魔はすぐに訪れそうだった。

本当は団欒のとこも書けましたが、長くなりそうだったので割愛しました

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