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1話 始まりの朝

 戦争は何も生み出さない。あるのは悲しみや怒り、憎しみ、恨み……そんな負の感情を生み出し、更なる戦争を生み出す。


 この輪廻は断ち切ることはできない。


 その輪廻に囚われ、滅んだ町の中を、一台のジープが走っている。オレはその車に乗っていた。


「……酷いものだよな、戦争は」


 誰に言うでもなく、オレは廃棄見ながらポツリとつぶやいていた。


 以前この町は戦場として利用された町の跡地だ。草木は完全に死に絶え、ぼろぼろに朽ち果てた建物が、もの悲しそうに立ち尽くしている。


「本当だよね……当時の町の人たちはどんな気持ちだったのかな……」


「オレ達と同じ気持ちじゃないか?」


 オレの後ろに座っていた女の子が相槌を打ってくれた。


 彼女はフィリア。オレの幼馴染みの一人でもある。


「そうだよね。ほんとに怖かったもんね……」


 そうだ。オレ達は知っている。


 街を破壊され、兵隊達は無差別に人を殺していくあの光景を。必死に逃げ、許しを乞う人間を容赦なく虐殺していくあの光景を、オレ達は知っている。


 もうあんな恐怖を誰かに味あわせちゃいけないよな。


「恐怖が次の恐怖を生む。もしかしたらそれが戦争の連鎖になっていったのかもね」


 オレの左に座っていた小柄な男がオレ達の話に割って入ってきた。


 こいつはシュノンバート。こいつもオレの幼馴染みの一人だ。


「恐怖か……やらなきゃやられるからな、戦争は」


「ん? なんの話してんだ? 俺様も混ぜろよ〜」


「お前は少し空気を読め馬鹿」


「うぉい! それは酷くねえか!?」


 シュノンバートの後ろでギャーギャー騒いでいるこいつがバイス。長身、そこそこのイケメンでイケボだけど彼女ができたことはない。


 まあこの会話を聞いてわかるかもしれないが、こいつはただのバカである。


「でもなんでこんな廃墟をとっといてあるのかな? 壊して新しい施設とか町にしたほうが良くないかしら?」


「いや、一応理由があるんだよフィリィ」


「理由? どういうことシュノ君」


「僕達は知ってるからわかるけど、戦争の悲惨さを知らしめるためさ。この町は戦争の悲惨さを物語っているからね」


 まあ確かにな……安易に戦場にしたせいでこの町の動物も、植物も、人間も全て死に絶えたと記録が残っているらしい。


 人間は忘れることが出来る生き物だ。それは利点でもあるけど利害でもある。ずっと平和に浸っていたら、戦争の悲惨さを忘れてしまうかもしれない。


 なるほど、残して戦争への戒めにするのは丁度いいだろうな。


 ちなみに俺たちは他のやつを呼ぶときは愛称で呼び合うことが多い。今みたいにフィリアはフィリィ、シュノンバートはシュノといった具合だ。


「てかなんでこんなぼろっちい町を通って行くんだ? 目的地に行くならいくらでも道があるだろ〜」


「それぐらい察しろバカ」


「なるほど察すれば……ってわかるかぁ!!」


 まあこのバカにそんなことを求めるほうが間違っていたか……?


「なあフィリィもシュノもわからねえよな!?」


「僕を君みたいな馬鹿と同じにしないでよね」


「え、えっと……ゴメン、バイス君」


「うわあぁぁぁんん!! 俺の仲間はいないのかぁぁぁあ!?」


 バイスは体育座りでえぐえぐ泣き出してしまった。


 まあこの流れもいつものことだが、ウザイこともいつものことだ。


「レグ君はどう思う?」


「さあな〜?」


 本当はもっと深いことがあるのかも知れないが、オレは考えるのを止めていた。


 ん? わかってたようなことを言っていたじゃないかって? ああ、あれはバイスを弄るための材料さ。


 おっと、名乗るのが遅れたな。オレはレグルス。こいつらからはレグと呼ばれている。


「てかいつになったら目的地につくんだ?」


「もう少し……ほら、見えたぜ」


 運転手のおっさんの視線を追うと、まだ距離はあるが、こことはうってかわって真新しいビル群が目に入った。


「すっ凄い街ね……」


「流石に僕もビックリしたよ……」


「ふっふっふ、まさに俺様にふさわしい街じゃないか!」


 フィリィとシュノの、まあ妥当な反応とは裏腹に、このバカは相変わらずバカなことを言っていた。しかも何故か顔がにやけている。


「なに言ってんだバカ。オレがふさわしいに決まってんだろ!」


「なにぃ!? あの街の人間が俺様のようなナイスグァイ! を放っておくはずないだろ!」


 ……なぜかナイスガイが発音がいいのは置いといて、そこまで言われたら引き返せねぇな!


「はっ! なら……ナンパ勝負でもしてみるか!」


「ふっふっふ……愚かだねレグルスよ。そんなもの俺様の勝利に決まってるだろ!」


「どう思うフィリィ? 僕は両方0に昼飯一回」


「わっわたしは……うん、わたしも両方0……かな」


『あんたら酷くねぇか!?』


 くっオレとしたことが見事にこのバイスなんかと被っちまったじゃねぇか!


 まあいいさ、このナンパに慣れたオレに敵うはずもない! 街に着いたら覚悟しとけよ!












「ほい、着いたぜ」


 運転手のおっさんはそう言うと、ビル群の中にジープを止め、これからのことを説明してくれた。


「つまり、あと一時間後にあの一番デカイビルに行けばいいんだな?」


「そういうことだ。それまでは自由だから、見学するもいいし、ナンパ勝負とやらをしてもいいぜ」


「うっし! かわいい女の子見つけるか!」


「抜け駆けすんじゃねえよレグ!」


「早い者勝ちだろうがバカ!」


「誰がバカだ誰が!」


『お前』


「……ぐすん……」


 見事に満場一致で揃った一言(まさかの運転手のおっさんまで言った)でバイスの動きは封じたぜ!


 さあ覚悟しろよかわいこちゃん!












 勝負を初めて三十分、オレとバイスは途方に暮れていた。


「くっこのオレが一人も捕まえられないだと……」


「まあ予想通りだね」


 オレの気持ちなども露知らずシュノは痛い一言を浴びせてくる。


 くっ……こんな……こんなことありえねぇ!


「ていうか、レグなら成功したことあるのを聞いたことあるからもしかしたらって思ったけど、バイスはこうなることがわからなかったのかい?」


「うるひゃいうるひゃい! この街の女が見る目がないんだい!」


 こういう小物発言をするからモテないってのがわからないんかねぇ……わからないんだろうなぁ……。


「そろそろいかないとね。ほらレグ君もバイス君も行くよ」


「ちっ、しゃーねえか」


「俺は諦めないぜ! お前らは先に行ってな! 後で女連れで驚かせてやるぜぇ!」


「諦めろって……」


「いーや諦めん! んじゃ行ってくるぜ。グッドラック、お・れ!」


 そう言うと、眩しい笑顔を残して全速力でどこかに走り去ってしまった。


 これ……所謂フラグってやつだよな? まあなんのフラグかは察してくれ。


「まああのバカは放っといて僕達も行こうか」


「だな」


 あのバカがあんなんなのは前からだし、気にすることもないか。


 オレ達はそう判断すると、目的地のビルへと歩き出した。

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