12話 贈り物
港の事前に指定された場所に行くと、そこにはフェリーが一隻あった。企業のロゴがあるところを見ると、このフェリーで行くみたいだな。
「まだ誰もいないわね……」
キョロキョロと辺りを見ながら言うティル。
まあ時間まであと二十分はあるし、いろいろ見て回っているんだろうな。
「まあ早くについて問題があるわけじゃねーしな」
「それもそうね……あっ!」
何故かティルは自分の右手の方を見ながら声をあげた。
なぜか、その顔は紅潮していた。
ティルにつられて目線を移すと、そこにはオレの服の袖を掴んだままのティルの手があった。
「えっえっと、その……」
「どうした?」
「なっなんでもないわよバカ!」
また顔を赤くしながらそっぽ向かれてしまった。
やれやれ……まだティルのことはよくわからないな。
「やあ、君達早いね」
「あっほんとだ」
ティルとそんなやり取りをしていると、フィリィとシュノが一緒に来た。
おそらく町のどっかで合流したのだろう。
「あっねえティル」
「なあに?」
フィリィはティルを呼び寄せると、耳元でなにか話をしていた。
「ゴニョゴニョ……」
「ななな何もないわよ! もう、どういう意味なのよ!」
なんか凄く顔を赤くしてるなティル……なにをフィリィに言われたんだ?
わからないオレは首を傾げるしかなかった。
「あとはバイスだけか」
急に聞き覚えのある声が聞こえる。
聞こえた方を見ると、フェリーに乗ったまま煙草をふかすおっさんの姿があった。
もしかしてさっきからいたのか? 全然気づかなかった……。
「ほんとに置いてくのか?」
時計を確認してみると、もう時間は指定された時間の三分前。
しかし辺りを見回しても、バイスと思われる姿はどこにもなかった。
「お前らは社会人でもあるんだ。時間厳守は基本だぞ」
確かにおっさんの言う通りだな。バイスだからといって遅れるのはよくない。
とか言ってる間に、もう出発の時間になってしまった。
あいつは……まだ来ていない。
「時間だな。まああいつは仕方がないな」
と言うと、おっさんは無情にもフェリーを発信させようと準備を始めていた。
オレ達も後ろ髪を引かれる思いだったが、仕方なくフェリーに乗り込んだ。
「バイス君、どうしたのかな……」
「あいつは……ほんと何してんだ……?」
みんなで首を傾げていた。
てか……あいつのことだから「女の子をナンパするのに夢中だったぜなはは〜!」とか言いそうだから怖い。
「……あれ何かしら?」
ティルの視線の先、そこには物凄い形相で走ってくる男が約一名。
バイスだ。
「ぬおぉぉぉぉおおお!!! 俺様を置いていくなあぁぁぁぁ!!」
すげぇスピードだな……間に合うか? だがバイスがフェリーの元に着く前に、フェリーは発進しはじめてしまった。
あぁ……こりゃあダメか……。
「とうっ!!」
間に合わないと思った矢先、なんとバイスは臆せずフェリーにダイブした。
さすがに乗ることは出来なかったが、なんとかフェリーにしがみつくことは出来ていた。
いやいやなんちゅう無茶すんだよ。下手したら海へダイブだったぞ。
「ったく、ほら捕まれよ」
「おっおう」
危うく落ちそうになっていたバイスを、なんとか上に引っ張りあげた。
……なんか顔面が赤くなってるな。どうかしたか?
「君、顔どうしたんだい? ただでさえ見られない顔なのに」
「あんたは少しは心配することを覚えたらどうですか!?」
「自業自得じゃない」
「ぐはっ!」
ティルにトドメの一撃を浴びせられたバイスは隅っこでえぐえぐ泣き出してしまった。
うん、ウザい。
「ま、なんにせよ全員無事揃ったんだ。よかったよかった」
「一名無事じゃないような……」
メソメソ泣いているバイスをチラッと見ながら苦笑するフィリィ。
あいつのことはスルーするのが安定さ。
「ま、暫くのんびりするか」
おっさんが言うには島まではまだ時間がかかるらしい。
ってことは、暫くはすることがないってことだな。
「ねえレグルス。レグルスは海って見たことある?」
海を見ながらティルはオレに問いかけてきた。
その目は子供みたいに純粋で、とても綺麗に輝いていた。
「数える程度しかないな。ティルは初めてか?」
「ええ。テレビとかでは見たことあるけど、実際に見たのは初めて!」
海を見れて余程嬉しいんだろう、いつものティルとは思えないはしゃぎっぷりだった。
「あっ魚が跳ねたわよレグルス!」
「え? くそ〜見逃した」
「ふふっ」
……楽しそうなティルを見ていて見逃した、なんて言ったらどんな反応するだろうな。
「あっそうだティル」
「なに?」
「ほら」
オレはさっき町で買ったやつのことを思い出すと、ティルに紙袋を手渡した。
「なにこれ?」
「まあ開けてみなって」
怪訝そうな表情を浮かべながら紙袋を開けると、一転驚いたような表情になった。
「これ……どうして?」
「ティルが見てた露店のおっちゃんに聞いたんだよ。なんだ、気に入らなかったか?」
「そっそんなこと! その……あっありがと……レグルス……」
ティルは優しく微笑みながら紙袋をギュッと抱きしめていた。
その仕草に思わずドキッとした。
「ねえ、つけてみていい?」
「おう」
ティルは紙袋からシュシュを取り出すと、髪を一つに束ねた。
所謂ポニーテールってやつだ。
「いいね! 似合うな」
「あっ当たり前なんだからっ……」
笑顔で誉めるといつもの強気な台詞なのに、凄い女の子らしく言うティル。
なんだか新鮮だし、やたら心臓の鼓動が早くなってやがるぜ……なぜだ?
「あれ、取っちゃうのか?」
「え、ええ」
着けたばっかりなのに、ティルはもう外してしまった。
んー気に入ってくれなかったか……?
「気に入らなかったか……?」
「そうじゃない! けど……」
「けど?」
「い、色々あるの!」
と言うと、プイッとそっぽ向いてしまった。
まあ……多分嫌ではなかったみたいだから良しとしよう。
「つけるの勿体ないなんて言えないわよっ……」
そっぽ向きながらなにかボソボソ言っている。
んー聞き取れないな……。
「わ、私用事思い出したから!」
と言うとパタパタと走って船内に入っていってしまった。
こんなフェリーなんかで用事ってなんなんだ? やっぱティルってよくわからん。
「やれやれ、君もいろいろと大変だね」
「フフッ」
「なに唐突に来て唐突に言ってんだよ」
ティルが走っていた方をボーッと見ていると、唐突にシュノとフィリィに話しかけられた。
「ん? まあ自分の胸に聞いてみなよ」
て言われてもな……うん、ようわからんわ。
「そういやバイスは?」
「バイス君なら……」
フィリィの視線の先には、海に向かってなにか叫んでいるバイスがいた。
え? なにを叫んでるかって? ……あまりにも内容が酷すぎるからここでは触れないでおくことにした。
「ティルにプレゼント渡せたんだね」
「まあな。喜んでた……と思うけど」
「やれやれ……女の子が大好きとか言っておいてレグって鈍感だよね」
はぁ、と何故かため息をしながら呆れるシュノ。
オレが鈍感だって? そんなことありえないっしょ!
「フフッちゃんと喜んでたよ」
「そっそうか? なら良いんだけど」
何故フィリィは確信を持って言えるのかはわからないけど、それがわかっただけでもなんとなくホッとした。
「それにしても、海なんて久しぶりだよね」
「確かに。前に来たのはまだみんなガキだったよな」
フィリィに促されるように昔のことを思い出した。
そうそう、オヤジが急に休みになったから海に行くことになったんだよな。
「確かバイスがスイカ代わりになってなかったか?」
「違うよ。スイカの隣にバイスを埋めて動けなくして頭だけ砂より上に出したんじゃないか」
そうそう! オレが悪ノリしてシュノとオヤジに手伝ってもらってバイスを埋めたんだよな〜! んでオレがスイカ割りをしたら、バイスの頭をぶっ叩いちまったんだよな……しかも金属バットで。
「今考えると酷いことしてたよな……」
まあバイスだからお構い無しにやれたんだけどな。
てかあんな勢いよく殴ったのに、タンコブだけで済んだよな……バイス恐るべし。
「良い思い出だよね」
「だな」
そんな昔話をしていると、急にシュノがニヤニヤし始めた。
「っと、僕たちは退散しようか」
「え? ああなるほどね。じゃあバイバイレグ君」
フィリィもなにか納得するかのように、シュノと離れていってしまった。
……なんなんだよ全く。あいつらもあいつらで最近よくわからん。
「………」
「ん?」
「………」
なにか視線を感じるような……船内の入り口の方を見ると、ティルがジーっとオレの方を見ていた。
「え、えと……ティルさーん?」
「なによ」
表情を見るだけでわかる。明らかに不機嫌だ。
とりあえずオレは、おずおずとティルのもとに歩いていった。
「ど、どうかしたか?」
「別に……」
やっぱり不機嫌だ。なにか怒らせること言ったかな……?
「ただなんか楽しそうに話してたなーって」
「………?」
ひょっとして……ヤキモチ? いやいやそれはないよな? 多分ないな、うん。
といっても不機嫌な顔はティルには似合わないし、元気付けるとしようかな。
「ほら、一緒に海でも見ようぜ!」
「ち、ちょっと!」
オレは強引にティルの手を引っ張ると、一緒に船頭に歩いていった。
「なんなのよっ!」
「まあまあ……ん? あれ……」
不機嫌そうなティルと船頭に行くと、なにかが跳ねたのを確認出来た。あれは……?
「あれイルカじゃない!?」
そう、イルカの群れだった。
結構な数が、優雅にフェリーの近くを泳いでいた。
「エヘヘッ……かわいい!」
イルカを見てティルに笑顔が戻った。ぐっじょぶイルカちゃん!
「ねえねえ、あのイルカ触れないかなぁ?」
「んー距離あるから無理じゃないかな?」
「……つまんないわね」
「しゃーないだろ?」
「まあそうだけど……」
「それに急に近づいて触ったらイルカが驚いちまうだろ?」
「そうね。あっあの小さいの子どもかな?」
……とまあ、オレは終始楽しそうにイルカを見て上機嫌のティルと一緒に過ごした――
それから暫くして、オレ達は目的地の島にたどり着いた。だいぶ時間が経ってしまったみたいで、もう太陽は沈みかけていた。
オレは島に着いてから一番に気づいたのは、オレ達の他にもフェリーがあるということだった。
ということはオレ達以外にも演習に来ている企業の人間がいるということか。
「今日は島の施設で一泊だ」
「泊まり込み? 聞いてないぜ?」
「まあ道具は全部揃っているから、お前達が用意する必要ないと思ったからな! はっはっはっ!」
……まあオレは別に問題ないけど……結構な問題発言じゃないかおっさん……普通連絡するだろ。
「まあ部屋番号は助手に教えてあるからそれに従いな」
そう言うと、いつの間にかおっさんの隣に、あのお姉さんが立っていた。
相変わらず謎の多い人だ。
「ではついてきてください」
お姉さんの後についていくと、宿舎まで連れてこられた。
どうやらオレ、バイス、シュノの三人でこの三階建ての宿舎の二階にある一部屋を使うみたいだな。ちなみにフィリィとティルは三階みたいだ。
部屋は和室で、なかなか居心地のいい部屋だった。
まあそこまではよかったんだそこまでは。ただバイスのバカが、
「なんで遠征までしてるのにむさ苦しい男部屋なんだーー!!」
とかやたら騒いでいた。
いや、そもそも万が一男女混合だったとしても、お前と同じになりたがる女子なんかいるはずないだろう常識的に考えてよ。
まあそんなバイスを宥めてしばらく。晩御飯も済ませてオレ達はのんびりしていた。
まあやることがないからと、持ってきたお菓子を賭けてポーカーをしていた。
「スリーカードだ」
「役なしだぜ!」
「フラッシュだよ」
「ぐおーまたシュノの一人勝ちかー」
「テメェズルしてねぇだろーな!?」
「そんな幼稚な真似するわけないでしょ」
……まあさっきからこんな感じでシュノが強く、バイスが博打に出て大失敗を続けている。
「さてと、俺様はそろそろ行くとしますか」
「どこにだ?」
オレが問いかけると、バイスは締まりのない腑抜けた笑顔を浮かべていた。キモい。
「バカ! レグルスのバカ!」
「お前にバカとは言われたくないわ!」
「この時間何が行われてるかわからないの!?」
何故か究極的に気色悪くおネエ言葉になるバイス。
まあそこはノータッチで……えーと確か今は……。
「ああ、女子の入浴時間か」
「そう! そのとーり! てなわけで行くぞレグ! 俺達のパラダイスへ!!」
なるほど……ノゾキか!! 確かにそれは男の専用ジョブだな! これは男として行くしかねーよな!
「……バイス」
「ん? なんだ?」
「これは重大な任務だ。コードネームを決めるぞ」
「そりゃ必要だな!」
「君達はバカなのかい?」
シュノにすげぇ哀れに見られたがそんなのは関係ない。
男にはやらなければならない時がある! そして……今がその時なのだ!
「まあコードネームはいいか」
「俺はコードネームスネークな!」
「だからいらねーっつーの」
相変わらずバカなバイスをお供に置くと、オレ達は夢の桃源郷へと駆け出していった――
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