11話 港町
「今日は……遠征演習だ!」
おっさんの言葉通り、オレ達はジープに乗って移動していた。
ったく、遠出の用意しろって言うからなにかと思ったら、こういうことかよ。
「おっさん、目的地はどこなんだ?」
「港町に行ってから、船に乗り換える。船で企業が管理している島に向かうって寸法だ」
助手席に乗ってるおっさんは、相変わらず煙草をくわえながら、少しこっちを見ながら答えた。
多分その島ってのが、演習をするのに適しているんだろうな。
てか、船に乗って行くとか、どんだけ遠いんだ?
「てか腹へった!」
全く空気を読まないバカが約一名吠えていた。
まあジープに揺られて結構経つからな。
かくいうオレも実は結構腹が減ってきている。
「あっお弁当作ってきたよ」
フィリィは、足下にかわいらしいバスケットを取り出すとふたを開けた。
そこには、色とりどりのサンドイッチが入っていた。
「うほー! うまそー!」
「流石フィリィだね。料理上手だ」
バイスはえらく騒がしく、シュノは冷静に弁当の登場に喜んでいた。
ま、オレも嬉しいけどな。あ~腹減るわ~。
「……どうしたティル?」
フィリィが弁当を出してからというものの、ティルはオレの方をジーっと見ていた。
その顔は心なしか不機嫌そうにも見えた。……気のせいだろうか?
「……やっぱりお弁当とか作ってもらえると嬉しいの?」
「ん? まあな」
そりゃあオレ一人のためじゃないけれど、頑張って作ってくれたんだからな。そりゃ嬉しいって思うのが普通じゃないんだろうか?
「もう……レグルスのバカ……」
「どうした?」
「なんでもないわよ!」
何故かぷりぷり怒りながら、ティルはサンドイッチを頬張っていた。
一気に口に入れるものだから、頬が膨れてリスみたいになっていてかわいい。
「っ!?」
「ど、どうした?」
「つっつまっ……」
涙目になりながら必死に訴えかけられてしまった。
やれやれ、そんな一気に頬張るから……。
「ほら水!」
オレは水を渡しながら、ティルの背中をさすっていた。
「んぐっんぐっ……ぷはっ。あっありがと……」
なんとか大丈夫になったのか、ほっとしたようにオレの方を見ながら言うティル。
やれやれ、大事にならなくてよかったよかった。
「ねえレグ」
今まで黙って食事していたシュノが、唐突に話しかけてきた。
「なんだ?」
「いつまでさすっているんだい?」
シュノの目線の先、そこには、さっきからずっとティルの背中をさすっているオレの手があった。
「あっ……」
「ちょっと、い、いつまで触ってるの!?」
案の定ティルに怒られてしまいました。
やべー完全に無意識にしていたわ。てかティルも大丈夫になったんだから言ってくれればよかったのにな。
「もう……ばか」
ティルはオレから顔を背けると、なにか呟いていた。
んーなんか言ってるのは分かるんだけど、どうも上手く聞き取れないんだよな……まあいっか。
「やっぱフィリィの料理は最高だよな!!」
何故か口の回りをべちょべちょにしながら、バイスは笑顔を浮かべていた。
ガキかお前は。
「やれやれ、お子さまじゃないんだから行儀よく食べなよ」
「ぬわぁにぃ!? このジェントルメ〜ンの俺様がシュノなんかに行儀よくなんて言われるまでもないぜ!」
ふふん、とバイス体を反らしながら威張っていた。
……自分でジェントルマンとか言ってる時点でお察しレベルだし、そもそも口をそんなにしてる時点で説得力が皆無だ。
「おう、バイスは世の中の紳士に謝るべきだ」
「いやいやおっさん、ここはもう男全員に謝るべきだ」
「甘いよ君達。もはや生まれたことを全人類に謝罪すべきだよ」
「あんたら容赦無いっすね!!?」
おっさん、オレ、シュノの順で段々と言ってることが酷くなってってる気がするなぁ……まあ気のせいか。
てかいつもそうだけど、こいつギャーギャーうるさいなぁ。
「ふふっにぎやかでいいよね」
「私はあんまり馴れないわ……」
フィリィはにこやかに、ティルは少しげんなりしながら呟いていた。
と言っても、ティルも心の底から嫌がっている訳じゃなく、今までの境遇が境遇のせいか、戸惑ってるっていうのが強いっていうことが、オレは最近分かってきていた。
「そもそも、バイスが紳士って時点でありえないよ」
「んだとー!」
こっちはこっちで色んな意味でカオスだし、おっさんはおっさんで笑いながら高みの見物だし……収拾がつかないだろうこれ。
こんな感じでランチタイムは過ぎていった……。
あれから更に約一時間後、オレ達は目的地の中継地点とも言える港町に着いた。
企業がある町よりは都会ではないが、港町ということもあって活気に満ち溢れていた。
「へえ、さすが港町だね。賑やかだ」
「ん? シュノは騒がしいところは嫌いだったろ? そんなこと言うなんて珍しいな」
「まあ賑やかと騒がしいのは似てるけど違うからね。こういうのは嫌いじゃないよ」
まあ確かにシュノの言う通りだな。
騒がしいってのは、どこかのバカみたいなことを言うんだろうしな……。
チラッとそのバカを見てみると、ガキみたいにはしゃいでいた。
うん、バカだ、いろいろと。
「んじゃとりあえず少し自由時間だ。時間になったら港に来い。遅れたら容赦なく置いていくからな」
と言うと、おっさんは運転手の人とどこかに行ってしまった。
「さて、俺様はナンパでもしにいくとしますか!」
バイスもバイスで、鼻歌を歌いながら市街地へと歩いていってしまった。
「やれやれ、みんなどうするんだい?」
「わたしはティルとウィンドウショッピングでもしようかな」
「え? 私も?」
突然の展開に、ティルは目を丸くしていた。
ま、オレも全く予想してなかったからちょっとびっくりした。
「この前お茶出来なかったし、良い機会かなって。嫌かな?」
「嫌じゃないけど……」
少し不安そうに、ティルはチラッとオレの方を見てきた。んーオレもついていったほうがよさそうか?
「なら僕は適当に時間潰しでもしようかな」
そう言いながら、シュノはオレの耳元に顔を近づけてきた。急になんだよ気持ち悪いなぁ。
「ちゃんとお姫様を守ってあげなよ」
ニヤリと不敵な笑みを残すと、シュノも市街地へと歩いていってしまった。
へっ……言われなくても分かってるっての。
「ったく、お節介だっての」
「? あっレグ君はどうする?」
「んーオレも一緒に行っていいか?」
「うん、わたしはいいよ。ティルは?」
「え? ど、どうしてもついてきたいって言うなら別に構わないわよ!」
ったく、どうして素直にならないかねこの娘は。顔が少し笑ってるのが目に見えてるぜ。
まあ……なんで喜んでるかはわからんが。
「なら行こっか」
フィリィを先頭に、オレ達も市街地へと入っていった。
「うわ〜凄い賑やかだね!」
町を歩き出してそうそう、フィリィはニコニコしながらあちこち見て回っていた。
オレ達がいる町よりも出店が多かったり、活気に満ち溢れていたりと、やっぱ違うとこはあるな。
「きゃっ!」
夢中になっていたからか、人がいることに気づかなかったフィリィは、やたらガタイの良い男にぶつかってしまった。
おいおい、ガタイが良いだけじゃなくてなんかガラも悪そうだな。
まあなんかあったらオレが颯爽と駆けつけて助ければいいか!
そうすりゃ周りのかわい子ちゃんもキャーキャー言うこと間違いなし!!
「あっすいません!」
「おう、ねーちゃん大丈夫か! 悪かったな」
「い、いえこちらこそ」
……? へぇ見た目に反して優しそうだなあのおっさん。
オレ達のいた町よりも、ここの町の人間はなんとなく優しそうに見えるのが、ここにきて顕著になったような気がする。
……おかげでオレの計画は破綻したけど……。
「えへへ、はしゃぎすぎちゃった」
「気を付けろよ」
「うん」
とか言いながらも、やっぱりフィリィはテンションが高かった。
んー港町に来たこともないし、企業がある町以外は基本的に行ったことないから、テンションが上がるのも無理はない。
そういやティルはどこに行ったんだろう。
辺りをキョロキョロ見回すと、一つの露店の品物をジッと見ていた。
「なに見てんだ?」
「きゃあ!」
軽く声をかけてみると、思ってた以上に驚かれてしまった。
「そんな驚くなって」
「びっびっくりした……もうレグルスなんか知らない!」
何故か頬を膨らませながら、スタスタとフィリィの方に歩いてしまった。
なにか怒らせるようなことしたかな……? わからん。
「おうおう若いねー少年!」
ティルが見ていた露店のおっちゃんに思いきり茶化されてしまった。
けっこちとら若いんだから当たり前だってーの。
「なあおっちゃん、あの娘なに見てたんだ?」
「ん? 小物とかよくみてたぜ。あとこれを気にしてたな」
おっちゃんは一つの髪留めを差し出した。
いや、髪留めっていうより、ピンク色をした可愛らしいシュシュだった。
「気に入ったのかな……」
「さあな。どうだい兄ちゃん、買ってくかい?」
これ買ってプレゼントしたらティル喜ぶかな……うん、プレゼントしよう! きっと喜ぶさ。
断じておっちゃんに促されたからってわけじゃないんだからね!
「いくらだい?」
「本来はこの値段だが……兄ちゃん気に入ったからサービスだ!」
おっちゃんの示した値段は、本来の額より半額になっていた。
こっこれはサービスし過ぎじゃ……?
「まあ半分は俺からのおごりや。彼女喜ばしてやんな」
「んじゃお言葉に甘えるわ。ありがとなおっちゃん!」
オレはおっちゃんからシュシュの入った紙袋を受けとると、ティルとフィリィの元へと走って戻ってきた。
「あっレグ君戻ってきた」
「わりぃな、待たせて」
「なにしてたのよ?」
まだ機嫌が悪いのか、ぶっきらぼうに言い放つティル。
やれやれ、未だに機嫌が悪くなる理由がわからんぜ。
「まあいろいろな。それより他見に行こうぜ」
「まあそうだね」
オレが促すと、二人はまた色んな露店を見て回った。
最初はティルも戸惑ってたけど、今じゃフィリィと仲良くウィンドウショッピングを楽しんでいた。
「ねえねえティル、この帽子可愛いと思わない?」
「うーん私には似合わないかな……フィリア被ってみれば?」
んー女の子が仲良くしているのを見るのは和むなぁ〜なんかこう、平和だ〜って感じがする。
「ん〜色々見れたね」
あれから結構歩き回り、ようやく一息と言わんばかりに、フィリィは一つ伸びをした。
「そろそろ時間も迫ってきたな」
時計を確認すると、もうすぐ港に行かないとマズイ時間になっていた。
「そっか。あっ私もう一個みたい所があるから二人は先に行ってて」
フィリィは手を振りながら、オレ達の前から去っていってしまった。
おいおい、あいつ時間大丈夫なのか?
「まあフィリィのことだから大丈夫か。ってティル?」
「ちょっレグルス!」
いつに間にか、ティルがいなくなっていた。またどっかいっちまったのか?
辺りを見回すと、ティルは人波に流されてオレから離れてしまっていた。
やべっ……いや、まだ追い付ける!
「ティル!」
オレは急いでティルの元に走ると、ティルの手を掴んで引き寄せた。
「きゃあ!」
「おっと」
勢いよく引きすぎたか、ティルは引っ張られた勢いのままオレの胸に突進してきた。
といっても所詮は華奢な体のティル。オレは優しくティルを受け止めた。
「あっ……ありがと……」
オレの胸にすっぽり収まったティルは、微かに聞こえるかどうかぐらいの声でお礼を言っていた。
……しかも上目遣いで。
……かわいすぎる。オレは思わずティルから目を反らしてしまった。
「ほら、行こうぜ」
「う、うん」
オレはティルを放すと、先に歩き出そうとした。
刹那、腕に少し違和感を感じで振り向くと、ティルが控え目にオレの服の袖を掴んでいた。
「ティル?」
「はっ……はぐれたら困るから……勘違いしないでよ!」
あたふたと汗を飛ばす勢いで言うティル。
まあはぐれたら困るしこのままでいっかな……そう判断したオレは、そのまま港へと歩いていった。
……やたら緊張したのはここだけの話だ。
次は金曜の20時に投稿予定です




