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金色の閃光

遅れました。だんだん文字数が減っていくことに衝撃を隠せない




「巨獣が出たと聞いた──」



受付嬢はそれだけでこのエルフの女性が来た理由を察した。この国でも群を抜く冒険者であるソニアだ。すぐさま書類を準備して受け渡すと「ありがとう」、と礼を言ってカウンターから離れた。依頼板にまだ貼られていなくても冒険者の間では既に話題になっているのだから耳に入っているのも頷ける。

渡された書類に目を通すと、いくつかの項目を頭に入れていく。初期出現場所及び現在出現場所、平均出没時間、被害規模、募集人数、開始日時。

その中でも目を認めたのは開始日時。期限は一週間とあるが、日程的には後四日後といった所。討伐団を作るとしてその準備にかかるということらしい。各自装備と道具は用意することともあ


るので馬車や各地点のビバーグの確認等なのだろうとソニアは推測した。距離的にも二、三日馬車で進んだ先にある場所だ。


「これはまた大変だな。規模が大きすぎるだろう……だからこその巨獣でもあるけど」


丁度受付横に置いてある依頼申請書置き場に巨獣討伐の依頼申請書が加えられたので名前と依頼内容を書いて先程書類を受け取った受付嬢に渡す。


「はい次の方──あ、やっぱりソニアさんも参加なさるんですね。これでこの依頼での戦闘力も跳ね上がると思いますよ」

「いつもながらなんだがそう挙げないでくれ。あたしは何時も通りにやってるだけに過ぎないんだ。たまたま上手くいってきたってだけさ」

「それでも大きな怪我も無く、Aランクまで上がってきた実力はギルドとしても賞賛に値すると思いますけどねえ……わかりました。受理の方向で」


申請書を受け取った受付嬢もフランクな笑みで他愛も無い会話をしてる所を見ると、仲は良いのだろう。受理されれば「後は宜しく」と言って離れていく。


「四日か。結構長いな……だがその分準備も確りと出来る。世の平和を乱すならそれを正すのもあたしたちの仕事だ」


後は時間を待つのみとなった以上、長居する必要もない。

しかし、ソニアの視線が無意識に横にスライドした。その方角には一人の男──否、少年が立っている。先程ギルドに入ろうとしたときにぶつかりそうになった少年、フォンだ。

何故か視線を外す事が出来ずにその動向を追っていた。此処最近では見た事の無い顔。新参者か。

そんな相手に一抹の興味が加わる。彼の行動は何も可笑しくないが可笑しいのだ。あのくらいの年で何も隙が無いという可笑しさ。

彼はただ、立っているだけだ。なのに他者を引き付ける力を感じ取る。全方向に意識を張り巡らせて、まるでこんな場所でも獲物を狩る獣のように力強い印象を周囲に撒いている。


「まるで抜き身の刃物だな」


思ったことを素直に口にする。その場に良く研ぎ澄まされた刃物を立てているかのように立っている。


「あれ程ならランクもすぐに上がるだろうな。まあ今回の依頼とはまた別だし。興味は尽きないが今は関係ないだろう」


肩を大きく動かして息を吸い、ゆっくりと吐いていく。恐らく彼の気に中てられていたのだろう、体が緊張で硬直していたのがわかる。首を回して肩を回す。それだけでも十分に体の奥底で軽く音が鳴ったが周囲の喧騒で誰にも聞かれることは無かった。




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入り口で少しばかりあったが、フォンがギルドに入るとついさっきの事もあるのか視線が異様に向けられた。

視線の端に留めたのは先程の私闘の痕跡が周囲立ち入り禁止とばかりにロープで囲いを作られていて床にまだ残っていた。

特にこの町でする事は無いのだが──だからと言ってすぐにギナンの所に行くわけにもいかなかったので街中をゆっくりと散策していたのだが。


「なんか嫌だな。この空気」


冒険者が集うスペースの中央で半眼で立つ。本来なら目立つ行為だ。すぐにでも先程のように誰かに目をつけられてしまうだろう。

だが、今は違う。今まで生きてきた森の中で得た、周囲への威嚇を行ったのだ。


自然体。


まるで狩をする猛獣が大人しく草叢に隠れて獲物を見定めているような。実際には堂々と中央に立っているのだがそんな雰囲気を作り出す。

しかしその格好はみすぼらしかった。獣の皮をなめして作ったような簡素な衣服。腰のベルトには短剣をさしてあるのみ。まるで遅れた文明人がやってきたかというような印象だ。

軽い気持ちで見ている者は威嚇されればすぐに視線を外した。だが血の気の多い猛者レベルの冒険者は手出しはしないものの強い視線で睨み付けている。


「やっぱりこなけりゃよかったか。おとなしくギナンの所に……」


ギルドに再度訪れた事を悔やみながら引き返すかどうか考えていると、受付カウンターの方から近づく気配があった。金紗の髪を揺らした女。まっすぐフォンを見つめて歩いてくる。


「入ろうとしたら一緒になったやつ、か」


まだ記憶に新しいその姿を認識すると目の前まで歩いてきて、足を止めた。身長差で少し女の方が見上げる感じ。いつの間にか視線が集まっている。今の今まで騒がしかったのにいつの間にか静かだ。


「あまり此処で威嚇しない方がいいな。君の為でもあるぞ。第一その格好は……なんというか。すごいな」

「好きでいるわけじゃない。それに向けられて嫌な気分になってるのはこっちが最初だ」


一回目の時に騒ぎを起こしているからという理由もあるが、現状ギルドの中では当たりが強い。いきなり現れた新顔に向けていい顔をするのも少ない。

そういう者もまだどういう奴なのかを見極めてる状態なのか口出しすることがないのだ。そういう視線を向けられて普通にしている事など出来るはずもない。


「そうか。まあここにいる奴らはプライドが高いからな。見たところ新顔だろう?新人相手にはどういうものか見極めてるのもいるんだ」

「単に気に食わないから。ってのもあるんじゃないのか?」

「……。 そう突っかかるな。我々は命を賭けて仕事をしているんだ。命を軽く見てる馬鹿には教えてやらないといけないしな。悪気があってやったことじゃないのは理解してくれ」

「……わかった」


一度目を閉じて一拍おいてから返答する。周りに向けていた威嚇も其処で閉じさせる。

圧力を感じていたがそれを解除された事で周囲から重いため息が聞こえた。誰もがこの威嚇による圧力に圧迫されていたのだから。


「君が何かする気がなければ誰も君には手を出さないだろう。言葉を交わせばわかるやつらばかりの、はずだ」

「それなら別にいいんだけどな。向かってくるなら対処するだけだ」

「そうか。だがあまり無茶をしてくれるなよ?血の気の多いのが暴れれば誰も止められなくなる」


そこで会話を止めてフォンを避けて歩き出す。すれ違いざまに肩を軽く叩いて数歩いったところで軽く振り向く。


「これから冒険者を始めるというなら覚えておくと言い。ギルドの有る様を。一人では出来ることも限られ無茶だと言うことに」

「ん。覚えておくよ。何せあまり知識がないもので」

「そうか。それなら僥倖。何か困ったら誰かに聞くのも手だよ。少年──」


手をぷらぷらと扇いで返して返答にして女はギルドの外へと去っていった。このやり取りの中、ギルドの中にいる全員誰もが近づかずに見守っていたのだが、女がギルドから消えてからまた思い出したかのように喧騒が訪れる。

いつものように騒がしいギルドへと戻るとフォンも此処に用は無い、とばかりにギルドの中央から外れるように移動する。

特にもう、今日はギルドに意味は無い、と判断したのか、そのまま出入り口へと向おうとした所で急激に両肩に重さを感じとった。

急なギルドの賑わいに油断したのか近づいてきた気配が解らなかったのは悔しい気持ちが心に灯った。首だけ振り向くと最初に来たときにも見た魔法使い風の男がフォンの肩にひじを乗せながらそこに立っていた。


「へへ、やるじゃないか。あの金色の閃光に一歩も引かないでいるたぁ」

「金色の……?」

「そう。金色の閃光。色はあの髪の毛からだな。金色のきれいな髪だろ?そこからついたのさ。異名ってやつだな。閃光ってのはあいつの剣捌きがあまりにも素早くてそういわれたわけだが」

「……強い、のか?」

「そりゃあな。何せAランクだ。フリーのAランクなんてそういないしな。お前、さっき登録したばっかだろ?ランクの説明受けたか?」

「あぁ。順番になってるってのは聴いた」

「そういうことだ。で、現状Sランクってのは度外視しても天辺がAランクって言っても過言じゃない。そんな中でずっとAランクを保ってどの国にもつかずにフリーでいるってのはそれだけ力があるからって事だ。今はこの町の上部……貴族領に家を持ってるわけだけど」

「へえ……つまりやっぱり強いのか」

「ま、そういうこった。彼女……ソニアはほとんど一人で依頼をこなすからな。それに会話もあなまりしないんだが、君は運が良かったんじゃないかな」

「アンタの言うことが正しけりゃそうなんだろうな。だが俺には興味ないし知らないでいい事だ」

「へぇ──っとと」


一歩前に出れば魔法使い風の男がバランスを崩して蹈鞴を踏んで踏ん張る。ローブが風に煽られて靡くが裾とフードを直して向きなおす。


「なあ少年。君の名は?」

「──フォン。」

「いい名前だな。俺はミスティっていうんだ。何かあったらいつでも声かけてくれよ?」


背中越しに声が聞こえるのを耳に入れておいてギルドを出て行くことにした。結構時間をつぶしていたのか、陽が傾いてきてる。そろそろギナンの家に戻ろうと決めて商業区の方へと向かっていく。

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