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連らなる者

ギルドを背にすると町を横に貫くようにアーチを造るように環状街路が伸びている。ギルドは内側に建っている為後ろに曲がっていく感じだ。

良く見ると町には人間以外の姿が良く見えた。虎の頭をした者や耳の長い者。獣人や亜人が普通に生活してるのがフォンでもすぐにわかった。


「色々なのがいるもんだな。まるで魔物みたいなのからよくわからないものまで」


獣人と亜人。この世界での生存頂点はこの二つになっている。古代に魔物と血を結んでその体を変化させた者で、獣の姿を半分以下に抑えている者を獣人と呼ぶ。

亜人とは人に似た存在でエルフやドワーフといった種族を指す。

フォンにしてみれば数日前まで両親と自分以外、ここ数日にしてみればチノとギナン以外にと見たことが無かったので此処までの人数を見るのも初めてだった。

目まぐるしく行きかう人々を見て視線をいったりきたりさせて足を止めては周囲の環境を留めていく。適応しているとはまだ言えないぎこちなさがあるが周囲の人々の行動を見てまねるくらいの事は出来ると自負もある。でなければ父の狩りを隣で見て覚えることなどきっと出来なかっただろう。こんな所で役に立つとはその時には思わなかったが。


「色々と見ることは多いな。これ全部覚えきらないと駄目か……駄目か」


出掛けにチノにいわれていた事があった。出来るなら町の様子を見て覚えて来る事を薦める、と。

今戻ったところでギナンの治療の邪魔になる。チノの仕事の邪魔になる、と判断したフォンはそれなら、と街の散策にあてようとした。

すれ違う人々を見ながら興味深く観察し、何をしているのか推測し、観測する。

通りには武器屋、道具屋、宿屋、鍛冶屋などが立ち並び、人の出入りが激しい店が何軒も見れた。武器屋などではギルドの受付嬢が言っていた、長めのナイフ──剣が中々に狩りに役立ちそうだとも思えた程に惹かれたものだ。

外から見るだけで、それだけでも充分に得られるものはある。何せフォンにしてみれば初めてのことばかりなのだ。店の外から見える売買の仕方もチノが軽くだが馬車の中で教えてはくれたが、実践まではまだ遠い。なので、金銭も持っておらずにただブラブラと歩いてるだけだ。だが、それでも充分なのだ。知識とはそういうものである。

得ようとしたものはまるで濡れたスポンジのように吸収していく。2,3見ていればその理屈を覚えてしまう。


「なるほど。行動は覚えたからあとは覚えた者に名前を照らし合わせるだけか」


狩をしながら育った身としては知識も文明も遅れを取っていたフォンにとっては街中は目覚しいものだった。

何をどうしてこうなる。という理屈は覚えられるが、それが何を意味しているのかまではまだ理解が遠いので、そこはチノにまた教えてもらおうと考える。頼るべきは教師役を担ってくれたチノに感謝を。


「でも人が多くて酔いそうだ……結構きついな。ギルドに戻ろうか」


ギルドの戻ろうかと思ったが既にそこそこの距離を進んできてしまっていたり、初めての人の多さにその熱気に中てられたのか眩暈を覚える。が、それもすぐに持ち直して環状街路を一周する。時間にして30分ほどか。ゆっくりめだったがそのくらいの時間でギルド前まで辿り着いて一周出来た。


「これで一周か。どのくらい歩いたかな」


時間の概念ないフォンにしてみれば30分がどの程度なのか見当もつかないが右側にある建物の中からは未だに喧騒が絶えず続いている。

入り口から見えるのはさっきも見た面子だ。どうやら常駐している面子らしく、そういう面々からの話も聞いてみたいと思ってギルドの中に入る。

ギルドに入ろうとしたときにタイミングを同じにして金髪の女性と肩がぶつかった。


「あ、すまない」

「と、悪い」


お互いに顔を合わせて謝罪をして、このままでは入れそうにないしそんなに急いでるわけじゃない、と考えて一歩下がって女性を先に促すと、ほう、と目を見開かれて薄い笑みを向けられてからギルドへと入っていった。綺麗な人だ、と思いながら、その心は違う方向に向けられていた。戦闘力はかなり高い。おそらく、この建物の中で一番強い、とも。

ずっと狩をしてきたフォンならではだが、相手の力量を測る技量はついている。こんなのがいるのか、と。

フォンも一拍遅れてギルドへと入る。一歩、中へ入るとギルドの中から聞こえた喧騒が更に拡大されて騒ぎが聞こえた。



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ミハの町の上部階層にある貴族街は獣人亜人構わず、求められるステイタスの高さを確立した者だけが住まうことを許されている。

とはいえ、貴族だから偉いということはこの街には無く、領地の自治の為という名目である。

翼の生えた者や獣の頭部の者がひしめく中、ひとつの建物から金紗の髪を軽くウェーブにして靡かせた一人のエルフが出てくる。ライトプレートアーマーに腰の剣が高い金属音を奏でる。

右耳にはカフスをつけていて、それだけで高貴であることを漂わせている。


「全く。家に居るとすぐ見合いだなんだと……あたしはあたしのやり方で生きているんだから他の事を求めないで欲しいものだ」


同居している相手の言葉に深く溜息をついて街路に出ると貴族街の環状街路へと足を伸ばす。中央から外門までは南側に向いている一本の坂道で貫き繋がっている。北側に居を構えているこのエルフはまずは南側まで歩かねばならない。


「……引越しでも考えればよかったな。こうも毎日続くと面倒でかなわん。今度は南側……いや、いっそ他の街はどうだろうな」


昼も近いこともあり貴族たちで溢れている街路を、腕を組んで思考を巡らせながらぶつからないように気をつけながら歩く。

意識は向いては居ないが、無意識で避けている所は今まで冒険で培ってきた技能だろう。


「まずは何にしてもギルドか。いい仕事や刺激があればいいが。この前の魔獣退治は中々の刺激だったな」


歩くたびに風によって長い髪が揺れる。数日前に請け負った魔獣退治を思い出しながら口端に笑みを浮かべる。スリルと隣り合わせ。これは貴族のままだったりエルフの故郷でもある森の中では得られなかった感情である。


「お、こんにちはソニア。今日もギルドかい?そろそろ依頼がなくなってくるんじゃないか?」

「こんにちは。日に日に依頼は入ってきてますから尽きる事も無いでしょう。尽きればまた探しに動くのみですが」


通りを歩いていると恰幅の良い体型の男が声をかけてくる。ソニア、と呼ばれたエルフは首だけ向けて足を止めた。出身故郷でもあるエルフの森を出てからずっと闘い続けてきた。寿命の長いエルフの中でもソニアはまた別格のハイエルフだ。だがハイエルフといっても外見はそんなに違わないし、わざわざ説明しなおすのも面倒という事でソニアはエルフ、としか名乗らない。

実際には魔力の桁や運用などの効率がノーマルエルフよりは上手いという位だ。戦闘も得意であったり、本来なら自国防衛の兵士になったりする。エルフの女王もハイエルフである。

グランヴィニアの森にコロニーを配しているが迷いの森とも呼ばれていて立ち入り事が困難になっている為、見かけるのも希少であったりする。


「はは、流石だねぇ。冒険貴族階級を得ておいてまだ最前線にでるたあ、Aランクも馬鹿にはできねぇってか」

「私は唯、自分で何処までできるのかを知りたいだけなんですけどね。その道の途中にAランクになったというだけで。ああ、でも。貴族を馬鹿にしてるわけではないです」

「わかってるさ。ソニアはそんなこと考えないってな。だからこの街の貴族はお前さんを蔑ろにしないだろう?皆気に入ってるのさ。それに、この街の貴族は殆どが辿っていけば冒険者だ。同じ境遇のソニアを見ても何もいわないだろう。代が違うってだけで」


ミハの街の貴族の半分は貴族として居るが、その大元を辿れば元冒険者に辿り着く。Aランクまで上れば望めば国から爵位は低いが貴族階級を得られるのだ。それを当代で得たソニアを爪弾きするものも居なかった。むしろ、快く迎え入れただけでなく、住居の提供まで行ったのだ。ともすれソニアの容姿にも関係があるだろう。エルフが森から出てくるのは珍しい。

ミハの街でも定住しているエルフは数えて指が戻ってくることは無いだろう。


「まあ、依頼を受けるなら気をつけな。最近は危険な奴が出てきたって噂もあるしな。それで下のほうじゃピリピリ雰囲気が悪い」

「危険な奴?」

「ああ──巨獣さ。ここらじゃ希少だろ?なんでも北の通路で見たって商人がいてな。ギルドじゃ近いうちに依頼を出すって話だ」

「巨獣か……ベースタイプが気になるが確かに放って置く訳にも行かないですね。巨獣という時点でAランク相当ですし」

「おう。だからさ。Aランク冒険者のソニアにはきっと声がかかるだろうさ。だから気をつけろってな」

「心配かけてくれて助かりますよ。あたしはどうもそこらが希薄で。ええ、必ず戻ってきます」


おうよ、と短く男は答えて手を振ってソニアから離れていく。こうした情報のやり取りも毎度の事であるが必要不可欠だ。

視線で見送ってからソニアは再度歩き出す。向かうのはギルドだ。今得た情報──巨獣に対しての情報と依頼があれば請けなければ、という思いが逸る。

一般的には魔物とは違うがその大きさと気性の荒さは途轍もない。他国だが巨獣を魔物が引き連れていたという報告もある。姿としては家畜の格好に近いが総評的には知能がずば抜けて高くなっている。どのタイプかにもよるが、大抵はその主の長として君臨していることが多い。

何よりも周囲への被害が多く大きく、田畑を荒らす事もあり害獣扱いとしてギルドでは発見されてから準備が整えばすぐにでも討伐の依頼が近隣の街のギルドの冒険者へと向けられる。

単体でAランク。パーティ申請していればその人数に比例して対応ランクは落ちていくものである。


「巨獣か……大層な物が現れたものだ。また臨時でパーティを組んでいくしかないな」


腰の剣に視線を向けてから前を向く。一本坂を下りながら思案する。巨獣が出たというなら一週間以内には依頼が出るだろう。ならギルドに詰めていればすぐにでも動けそうだ。

貴族自治階と下層を隔てる内壁にある門を抜けて下層街へと。

下層部は貴族層とは違い、賑やかさがある。朝の市場のような喧騒が通りのあちこちから聞こえてくる。通りに店を出している面々もソニアの顔を見ると気軽に声をかけて商売しようとしたりだ。

軽く手を振って答えて、急いでるからと短く断ってギルドに向かう。ギルドへの道は足が勝手に向かう程に覚えている位に通っている。

幾度も依頼を請けては周囲の安全を作り出した冒険者としてソニアの名前は売れていった。Aランクにあがったのもつい二ヶ月前、このギルドでだ。その時にはささやかながらパーティまで開いてもらったのをまだ覚えている。

今日も依頼を見てから色々情報を聞き出そうと思い、中へと入る時にちょうど同じタイミングで入ろうとした男と肩がぶつかった。


「あ、すまない」

「と、悪い」


口の悪い、と言うのが第一印象だった。だが一歩下がって入所を譲った所を見てその印象を消した。笑みを向けて礼に変えてから譲られたのならば先にギルドへと入る。

カツン、と靴の音を鳴らすだけでギルド内の視線が一気に集まる。何度もこういう場面は体感してきたがソニアには慣れないものだった。

少しだけ気後れしそうなのを心の中に押し込めてギルドの中央を抜けるように歩く。


「ようソニア。お前も聞いたか?アイツが出たぜ」

「巨獣だろう?さっき聞いた。状況を聞きに来たんだ。どうなってる?」

「今、討伐の状況を洗ってる。被害と照らしあわせてるところだな」


少し歩いたところでなれなれしくローブの男が近寄ってきた。簡単な会話を交わす。


「まだ板には貼られてない。だがすぐにでも声はかかるだろ。何せAランク冒険者に知らせないなんてないからな。今回は俺も参加する予定だ。お手柔らかにな」

「あたしの邪魔さえしなければいいんじゃないか?邪魔なら斬って捨てるだけだ」

「ハハッ、その姿でそういう勝気なのが受けてるんだ。もっと周りにこびてもいいと俺は思うけどね……っと。また後でな?」


言うだけ言ってローブの男が去っていく。依頼板にまだないのなら受付で直接聞くだけである。








「巨獣が出たと聞いた。Aランク・ソニアが情報の詳細を求める」














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