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Chain  作者: のの村。
6/9

向けられた悪意

扉を開けた先のラウンジには壷やら蜀台やらの装飾品が丁寧に飾られていた。

どれも古めかしいものばかりで高いものなのかどうかもよくわからない。

窓はほとんどなく陽の光が差さないためか灯りがともっていても少し薄暗く感じる。

着きあたりには大きく開かれた扉があり、奥に談話室のような部屋が見えた。

一同が談話室へ進むと部屋には数人の先客が各々にくつろいでいるようだった。



「あら、まだ始まってなかったみたいね。間に合ってよかった」



祥子は談話室を見回し、丁度よさげなソファへ腰掛けた。

いらっしゃい、と手招きをされ入り口で佇んでいた5人も近くの椅子へ腰掛ける。

談話室の中央には蜀台とレースのクロスで飾られたゴシック調のテーブル。

それを囲むようにアンティークの椅子やソファが並べられている。

入り口から見て奥には大きな暖炉があり、その造りはイギリス貴族の屋敷のようだ。

それぞれパンフレットを見たり軽いおしゃべりをしていると談話室の入り口に人影が現れた。

浅黒い肌に真っ黒な髪、足首まである長いスカートのメイド服を纏った2人の女性がこちらを見てお辞儀をする。

まったく同じタイミング、同じ姿勢、同じ顔で。



「ようこそいらっしゃいました。わたくしどもはこの屋敷を管理させていただいておりますリンダ・リー、エイダ・リーと申します。本日より1週間、皆様のお食事やお世話をさせていただきます。どうぞ宜しくお願い致します」



そう言って向けられた笑顔は完璧で、まるで人形のようだった。

管理人のうち1人は台車に乗せられたティーセットを準備し、もう一人は参加者を回って部屋の鍵を渡し始めた。

それぞれにお茶を配り終えると、また入り口で一礼をする。



「それでは皆様、これよりお食事まではご自由にお過ごしください。お時間はパンフレットに記載の通りでございます。予定では懇親会ということでしたのでしばしご歓談をお楽しみくださいませ」



そしてまた一礼 ――、出番を終えた役者のように同じ顔の管理人2人は談話室を後にした。



「すげぇ、双子か?何人だろうな?」



ぽかんとしたまま扉を見つめる大樹が蘭の袖をちょいちょいとつつく。



「さぁ…?てかメイド?メイドいんの?」


「メイドさん?すごいね!鈴花初めて見た!」



鈴花はソファで足をぱたぱたとさせ、関心を抱いているようだ。

3人がこそこそと雑談を始めた横で祥子は持っていたティーカップをテーブルに置くと小さく咳払いをした。



「ねぇ、折角ですから自己紹介しません?懇親会ですし、ね?」



その言葉に先客達は少々面倒そうな顔をしたが、祥子はさぁさぁと牧野を促す。



「あ、えっと。ま、牧野真一です。法律事務所で働いております。こちらにはその…知人の勧めで。宜しくお願いします」



相変わらず額の汗を拭いながらたどたどしい言葉で挨拶をした。

牧野の挨拶が終わると、恰幅のいい中年男性がすっと立ち上がり軽く一礼してきた。


「旗山玲治(はたやまれいじ)と申します。ホテルとか飲食店とかの経営を少々やっております。宜しくお願い致します」


「ホテルハタヤマのオーナーですね。よく利用させていただいてますわ」


「いやいや!オーナーだなんて。ただの世話役ですよ!」



祥子の言葉にハッハッハ、と部屋中に響く声で照れ隠しをしてみせるが旗山はどこか嬉しそうだ。

しかしポロシャツにベージュのスラックスという恰好はあまり経営者らしくない。

どちらかというと休日のサラリーマンのような見た目である。

旗山はひととおり優越感に浸るとどっかりとソファに座り直し、隣の男性に目をやった。

旗山の隣にだらしなく座っている痩せ型の男性はアーミーベストに迷彩のバンダナ、そしてグローブ…今からサバゲーにでも行くかのような恰好だ。

目つきはお世辞にも良いとは言えず、鈴花は目が合って怖かったのかすぐに下を向いてしまった。



「蔵元明人(くらもとあきと)。…ライターだ」



溜め息混じりにぼそりとつぶやくとそれ以上蔵元は何も言う気はないようだった。



「…じゃあ、次は私ね!」



固まった空気をほぐすかのように祥子が自己紹介の続きを始める。



「華村祥子です。小説やエッセイなどを書かせていただいてるわ。私も牧野さんと同じで知人の紹介、といったところかしら。宜しくお願いするわね」



そう、言い終わるか終わらないかで黙んまりを決め込んでいた蔵元が口を挟んできた。



「あんた知ってるぜ。作家先生よぉ。最近稼いでるみたいじゃねーか?あ?いい話があったら聞かせてくれよ」


「なんだアイツ…華村先生に向かって馴れ馴れしいっつか失礼だろ」



我慢できなかったのか大樹がぼそりとこぼしたそれを蔵元は聞き逃さなかったようだ。

凶悪な三白眼でこちらをギッと睨んできたが大樹も負けじと睨み返す。

2人の様子を見た祥子はんんっ、と咳払いをした。



「そういうお話でしたら後ほどアポを取って。今はツアーの懇親会ですからね」



次は貴方よ、と大樹に目で促し紅茶を口に含む。

大樹はまだ納得いかない様子だが祥子になだめられ仕方なしと言った感じだ。


「向島大樹(むこうじまだいき)です。常進大語学科(じょうしんだいごがくか)の友人2人と…あとこっちは妹の鈴花です。ほら、鈴花挨拶」



大樹にぽんと肩をたたかれ、鈴花はおどおどしながら小さく口を開いた。



「えっと…向島鈴花(むこうじますずか)です…小学5年生…です」



知らない大人ばかりで恥ずかしくなったのか鈴花は大樹の袖をぎゅっと掴んで彼の背中に顔を隠してしまった。

そんな鈴花を微笑ましく見ていた蘭に次は君よ、と祥子が目配せしてきた。

緊張する必要もないのだが、蘭は思わず背筋をピンと伸ばしてしまう。



「あ、東雲蘭(しののめらん)です。宜しく…」



次の言葉が出る前に蘭は異常に気付いた。

気のせいじゃない。

その場に居る友人達以外の全員が蘭を見ている。

まるでおぞましいものでも見るような、そんな目で。



「シノノメ…だって?」



三白眼を限界まで見開き、蔵元がこちらを睨みつけている。



「え?」



名乗っただけなのにこの人達の態度は一体何だ。

状況を掴みかねて固まっている蘭に蔵元が悪態をついてきた。



「冗談じゃねぇ!!なんでテメェみたいなのが…!!クソッ!!」



蔵元は座っていた椅子を蹴り飛ばすと踵を反し談話室を出ていってしまった。



「な、なんなんだよ…意味わかんねぇ」



蘭は蔵元が出ていった後を唖然と見つめることしかできなかった。

それ以上誰も話そうとしない談話室の空気は重たく張り詰めているようだった。

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