十日島の古城
「なんだあれ?城か?」
港を出て1時間ほどなく到着したその離島は深緑に覆われ、まるで外界から遮断された場所に思えた。
開発された道もなくどこか寂れていて真新しい船着場だけが浮いているようだ。
それ以上に目を引くのは木々の間に隠れるようにそびえ立つ古城のような建造物だった。
西洋を思わせる美しい造りの屋敷もこの島には不似合いで、かえって陰鬱とした雰囲気にさせている。
「な、なぁ大ちゃん、予想してたのと随分違うんだけど…大丈夫なのコレ?」
「あー…うん、多分。予定通りだろ…?」
蘭は恐る恐る大樹の顔色を伺うが大樹もまた動揺していた。
そもそもここへ来ることになったあらましは1週間前にさかのぼる。
夏休みの旅行先を考えていた際、大樹があるツアーの話を持ち出した。
旅行会社に努める大樹の叔父が定員に満たないツアーの参加者を募集しており、参加してくれたら各安で提供してくれるのだというものだ。
金銭面であまり贅沢できない学生にとっては願ってもない話だったので2つ返事で参加を決めたのだが。
「クルーザーでの快適な船旅!青い海!白い砂浜!三ツ星ホテルでの豪華海鮮ディナー!…って文句じゃなかったっけ?うち3つは潰されてるから嫌な予感しかしねーんだけど」
「まぁ、そう言うなって。地元の旅行会社だからこういう事もあるだろ?」
叔父の面子もありなんとか取り繕うとしているが大樹の表情はやはり申し訳なさそうだった。
「お兄ちゃん…大丈夫?鈴花、お兄ちゃんと蘭お兄ちゃんとロウお兄ちゃん…みんな一緒だったら楽しいとおもうよ?」
大樹と蘭の様子を伺い取ったのか、鈴花もまた不安そうな顔で2人を見上げていた。
折角楽しい旅行に来たのに幼い彼女にまで気を使わせてはいけない、2人は顔を見合わせると先ほどまでの陰鬱な気分を振り払い鈴花に笑顔を向ける。
「いい事言うな~鈴花ちゃん!そうだな、皆で遊べば何でも楽しいもんな!
大ちゃんの失敗なんか気になんないくらいにさ」
「おいおい一言余計だぞ蘭~?こうしてても何だし、あの城まで行ってみるか。パンフだと集合場所あそこになってるからさ」
案外行ってみたら城っぽいのは外装だけで中はちゃんとしたホテルかもしれないし、島の反対側には青い海や白いビーチがあるかもしれない。
そう思えば出鼻をくじかれただけで不安になるのも馬鹿馬鹿しくなってくる。
お互いできるだけ明るい話題をふりながら4人はその屋敷まで行ってみる事にした。
「ってか、こういうの関心なさそーなのにロウがついてきてくれるとは思わなかったなー…てあれ?」
蘭が振り返ると1人遥か後方に立ち止まっているロウの姿が見えた。
視線はこちらではなくどこか別の方向を見ているようだ。
「ロウー、どうしたー?」
蘭が大きな声をかけて近づくもロウの視線はまだ何かに釘付けになっている。
「誰か…見てた…」
「えっ」
ぽつりとつぶやいた言葉の意味がすぐに理解できず蘭が聞き返すとロウはこちらを振り返った。
「なんでもない、行こう」
蘭はロウの視線が向けられていた先を見渡してみたが、そこには鬱蒼と覆い茂った木々が並ぶばかりだった。