運命の日
「蘭、バスの時間大丈夫なのか?」
Yシャツネクタイにエプロン姿の紳士が朝食の片付けをしながら居間で外出の支度をする少年に話しかけた。
「んー、もう行くー」
蘭と呼ばれた少年は振り返ることもなく間延びした返答をし、使い込まれた旅行バッグをごそごそと漁っている。
「保険証は持った?」
「入れたー」
「パスポートは?」
「国内でーす」
「携帯の充電器は?」
「あるある」
「ああ、あと救急箱も持っていきなさい。何かあったときに役に立つから」
「とーさーん、俺もう18なんすけどー」
世話を妬く父親を蘭は振り返り溜め息をつく。
心配をしてくれているのはわかっているのだが子離れしない父親を少々鬱陶しく思うこともある。
大学の友人に誘われ十日島という離島へ行き、そこで夏休みを過ごす予定なのだが旅行の話を持ち出したとき父親はあまりいい顔をしなかった。
「遠出をするのは初めてだから」
という父親の言い分に対し、高校の修学旅行で北海道行ったのに…と蘭は内心呆れていた。
何も一人で行くわけじゃないし学校の友人や幼馴染も一緒だから、とようやく説得したのが昨日の夜の話だ。
行く前から疲れるような思念を振り払い、蘭はそそくさと居間を後にしようとする。
「蘭、母さんにちゃんと行ってきますはしたかい?」
「あー…うん」
背中ごしにかけられた父親の言葉に足を止めると荷物を降ろし、正座をして手を合わせた。
「母さん、行ってくるよ」
蘭は仏壇の写真で優しく微笑む女性にそうつぶやくと再び荷物を担ぎ、家を後にした。
自サイトのお絵かき掲示板にて挿絵付きで連載しているものです。
そのため容姿に関する記述はあったりなかったりです(´・ω・`)
挿絵付きで投稿も考えたんですがとりあえず保留…。
サイトへのリンクは一応貼ってあります。