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第1章-5

 ハルナの道案内でしばらく走っていると、住宅街のど真ん中を突っ切るようにある、大通りに入った。



 ここはシンの住む街の隣町にあたるのだが、シン自身はあまり立ち寄ることがないため、ここの土地に詳しくはなかった。



 この町はベッドタウンだ。

 今走っている大通りからどの脇道へ逸れたとしても、住宅が密集した細い車道に入ってしまうことが常だと言っていい程である。

 それ程にたくさんの住宅が密集しているならば、もしかすると、どこかの屋内に生存者がいるかもしれない。

 先述したが、仮にいたとしても、MSから身を隠していることは必至。それはこちらから探すのも困難だということだ。やはり、かなり骨を折ることになるようだ。



 ここでシンはふと、MSの立場になって思案してみたのだが、楽に生存者を見つけたいのなら、文字通り、家屋に火をつけて焙り出してやればいい、などという残虐な案を思いついてしまい、



「どうかしたの?」



 無意識にしかめっ面になっていたらしい。ハルナに怪しまれて、シンは肘鉄砲を食らったように全身を揺らした。



「な・なんでもない」



 ただ、今の案はMSは実行することはできないはずだ。



 ハルナは言っていた。



『暴走と同時にどういうわけか、AIの機能が低下したらしい。だから、今は武器は疎か道具も火も使えないみたい』



 原因不明の機能低下により、MSは火を使えないのだから。



 大通りを暫く走っていたら、



「ここを左折して」



 ハルナが指示を出した。



 言われた通りに脇道に入ると、車がぎりぎり往来できる車幅の道が奥へと続いていて、その左右を十数軒もの住宅が並んでいた。



「あの駐車場に停めて」



「りょーかい」



 大通りから100メートル程入ったところに、ハルナの言う駐車場があった。



 よく見かけるごく普通の青空駐車場だ。

 周りを2メートル以上の高さのあるブロック塀に囲まれていて、地面には右手側に8台、左手側にも8台の計16台が停められるように白い枠線がいくつもひいてあった。



 駐車場の周りには、いくつもの民家が建ち並んでいた。道を挟んだ向かい側でも、民家の塀が続いていた。



 駐車場には軽自動車やワンボックスなどが合わせて5台止まっていた。

 車は全て真ん中を向いて止まっていたが、その全てがボロボロな様相を呈していた。



 駐車場左手側で連なって止まっていた軽自動車2台は全焼。



 右手側、手前より4番目に止まった白のワンボックスは窓ガラスが全て割られ、枠に残ったガラスの破片には血の飛び散った跡がある。

 また、車体が左に傾いてた。

 左の前輪と後輪が、豪快にもがれたらしく、タイヤが二つ車体の傍に倒れていた。



 一台分あけたその奥にも、似た大きさのシルバーのワンボックスが止まっていたが、運転席側の左右の扉はどちらもアスファルト上に落ちていた。

 中にいた人間を捕まえるためにMSがやったのだろう。扉が引きちぎられた付け根部分を見れば、MSの怪力具合が窺えた。



 残る一台は白のセダン車で、駐車場右側の一番奥で止まっていたが、遠目で見る限りでは、周りと同じように窓ガラスが割られているようだ。



 シンは全焼した軽自動車が2台ある、駐車場の左手側にトラックを頭から突っ込んで停めた。



 ハルナが外に出たので、続いてシンも外に出る。



「ここからは徒歩で向かう」



「いったいどこに行く気なんだ?」



「私が通っていた学校」



 シンは彼女の着ている制服から、咄嗟にその学校名を思い出した。

 学校のある町の名前の後ろに『高等学校』とついた、よくあるパターンの名前である。



 しかし、どうして直接行かないのか、とシンは疑問に思ったため、ハルナに尋ねてみた。



「学校の校舎内にもMSは言うまでもなく巣食っている。そんな場所へ車で乗り込んだらすぐさま見つかって、大群で襲ってくる。だからここに停めた。道端に停めなかったのは、念のため」



 と、ハルナは淡々と答えた。



 ハルナはコンテナの扉を開けると、一番奥に伏せてあったボストンバックを引っ張り出してきた。そしてそれをコンテナ内で開けると、コンビニで調達した食料や飲料水、その他入手したものを詰め込んでいく。

 とは言っても、調達したもの全部をつめているのではなく、ハルナが自身で持ち運べる重さに量を調整していた。

 そして彼女がボストンバックを持ってコンテナから下りたのを見計らって、シンはコンテナを閉めた。



 その時である。二人は瞬時に身体を強張らせた。

 駐車場の中ほどから物音がしたのだ。



 ハルナはボストンバックを静かに地面に置いた。



 二人は拳銃を手に、音の発生源である、左右のドアをもがれたシルバーのワンボックスへと足音を忍ばせて近寄る。

 そしてワンボックスの前部に背中をつけた。



 物音は、駐車場入り口からは死角となって見えない、ワンボックスの右側面から聞こえてきた。



「準備はいい?」



 ハルナは小声で確認をとると、閉口したままシンは首肯した。



 ハルナは空の左手を胸元まで上げると、親指、小指と順々に曲げていく。

 飛び出すためのカウントダウンだ。



 シンはそれを心中で唱えるように数えた。



(3、2、1・・・)



 心中でのカウントダウンが0になった瞬間、ハルナは飛び出した。

 シンがその後に続く。



 そしてハルナが拳銃を構えた瞬間、



「・・・人間か」



 それは男の掠れた声だった。



 続くようにして射撃体勢をとるシンを、ハルナは彼の眼前に左手を上げて遮った。



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