第1章-4
交差点の信号がついてないということは、この辺一帯、いや、全国レベルで電気が止まってしまっているということなのかもしれない。
世界レベルでのMSの暴走が起こっているのだから、全国的に電気が止まっていたとしてもおかしくはない。
二人はコンビニの両扉を押し開けて中に入るが、電灯はついてるはずがなく、中は薄暗かった。
空調も動いていないので、店内は外とさほど気温差はない。
「私は食料を集めるから、シンは飲み物を集めて」
ハルナは言いながら、店内に重ねられたカゴを二つ取り、一方をシンに差し出した。
「わかった」
シンはそれを受け取ると、何か府に落ちない、といった顔で一番奥にあるドリンクコーナーへと向かった。
ハルナと出会ってからシンはずっと彼女に従いっぱなしだった。
自分よりも年下の少女が的確に動けているというのに、自分は無知で何の役にも立ってないような気がしてならなかったのである。
ドリンクコーナーの前に立ってみた。
ペットボトルのドリンクが棚の上にびっしり並べられているところを見ると、何の変哲もない、日常のコンビニ店内の構図である。
シンは炭酸系のペットボトルに手を伸ばしたが、
「・・・ミネラルウォーターだな」
隣のミネラルウォーターへ方向転換した。
常温で数日間放置されていたのだ。生温い状態の味のついた飲み物は取る気がしなかったのだ。
本当の災害時であればこんなことは言ってられないだろうが。 ・・・
ミネラルウォーターをあるだけカゴに入れると、ハルナの元へ戻った。
ハルナが腕にかけているカゴの中には、ポテトチップスを中心としたスナック菓子やおつまみ、缶詰、栄養補助用のブロック状クッキーなどが入っていた。
また絆創膏や包帯といった救急箱の中で見にするような物や、歯ブラシセット、下着等も入っていた。
「これくらいでいいわ。足りないものがあれば、またどこかのコンビニで調達すればいい」
独り言のように呟いた少女が腕にかけているカゴの中身は、言うまでもなく盛り上がる程に詰め込まれていた。
「貸してみ」
シンは嘆息しながら、ハルナからカゴを受け取った。
シンは脱帽していた。
敵うはずがない。彼女は明らかに場慣れしていた。
ここは元いた世界とは違う。
銃刀法は存在しないのだし、一般の女子高生が慣れるくらいに身近にサバイバルな生活でも存在するのだろうか、とシンは思いながら茫然としていたのだった。
シンはこのカゴの中に入っていない食料について考えてみた。
非常食と言えばカップ麺だろうかと誰もが思うだろう。
しかし、当然ながら熱湯がなければつくることはできない。
電気がないのだからポットは使えないのだ。
建設会社などが使っている発電機なんかがあれば、ポットを用意して水を沸騰させることができるかもしれないが、生憎とポットも発電機もない。それに発電機は当然ながら動力にガソリンなどの燃料が必要になる。
なら火を使えばいいじゃないか、と思うかもしれない。
鍋に入れた飲料水を、枯木か何かを燃やした火で沸騰させればいいかもしれないが、今回は周りを殺人機が徘徊しているのだ。煙りを見つけられたら即襲ってくるのではないだろうか?
AI機能の低下している今では、MSは煙りさえも無視してくれるのだろうか。その辺りは疑問である。
その他、冷凍食品やアイスクリームは言わずもがな溶けていて持っていくことはできない。
おにぎりや弁当、パン類は消費期限をとうに過ぎているだろうし、常温で置かれたままだったから、口にすればトイレに直行することになるだろう。
残った食料は、今カゴの中に入っている物のみとなる。
両手にぶらさげていたカゴ二つをトラックのコンテナに積み終えると、二人はまたトラックに乗り込み、車道に出た。
コンビニの商品をレジを通さずに持ち出すというのも、初めての経験だ、とシンは運転しながらしみじみと思った。
今いるこの世界は生きるか死ぬかの瀬戸際、言わばサバイバル生活真っ只中なのだ。
日常とかけ離れたことをしていかなければ、こちらの世界では到底生きてはいけないのかもしれない。