第1章-2
二人はトラックのリアバンパーを踏み台にしてコンテナの中へと入った。
少女がコンテナ内にあった小さなスイッチを押すと、コンテナの前後2箇所に備え付けられた電球に明かりが点った。
それからコンテナの扉を閉めた。
閉めたと言ったが、内側からではロックはかけられない。単に外から見られないように隙間を閉じただけである。
コンテナの中は、段ボール箱がいっぱいに敷き詰められていたが、ちょうど真ん中だけは何も置かれておらず、一本の道ができていた。
その奥、運転席のすぐ裏側にグレーのボストンバッグがくたびれたような様相でそこにあった。
少女はそのボストンバッグの中をあさり、掴み取ったある物をシンの前に差し出したのである。
「あの・・・えっと・・・俺に?」
少女は無言のまま首を縦に振った。
シンは戸惑いながらも、自分に差し出された物を手に取った。
一丁の黒い拳銃だった。
拳銃の遊底側面には、角張った字で『INFINITY LIMITED』と刻まれてあった。
凹凸がほとんどなく、近未来的なデザインと言い表すことができるだろう。45口径の弾丸を扱う拳銃だ。
続いてリュックサックから出された、弾丸の詰まった箱も受け取った。
「・・・もしかして、俺が使うのか?」
「そう」
少女は無表情を保ったままごく自然に頷いた。
「次に誰かに出会ったら私が先に傷を入れる。もし血が流れなかったら、その時はあなたも一緒に狙い撃ちして。その方が効果的にMSを破壊できる」
シンは渡された拳銃を見下ろしたまましばらく固まっていたが、
「・・・わかった」
呆れたような面持ちで渋々承諾した。
その後、少女から肩掛けホルスターを受け取りながらシンは呟いた。
「それより、こっちの世界には銃刀法は存在しないのな?」
「・・・じゅうとうほう?」
少女は初めてMSの話を聞いたシンのように、おうむ返しに尋ねてきた。
「その言葉は初めて聞いた」
「ええ?」
先とは逆の構図だった。
銃刀法・・・正確に言えば、銃砲刀剣類所持等取締法。1958年より施行されている。
治安の維持や犯罪抑止を目的とした、国内に遍く知れ渡っている法律の一つだ。
少女はそれを知らないようだ。しからばそれは、こっちの世界の日本にはその法律は存在しないことを示している。
「じゃあ、昔からずっと日本には拳銃やら刀やらが散らばってたのか?」
「散らばってはいない。ちゃんと管理はされていた。今持ってる銃だって、元は学校で管理されていたもの。MSが暴走した時、学校から持ち出してきた」
「そういえば、どうして拳銃を2丁も使ってるんだ?」
デザートイーグルとM92FSを左右の手に持って射撃するとなると、相当な反動があるだろう。
デザートイーグルは大の大人であっても両手で握ってやっと射撃の反動に耐えれる代物だ。
だったらM92FSまで所持するより、デザートイーグル1丁だけ持っている方がいいとシンは思った。
「ベレッタは相手がMSかどうかの確認用で、デザートイーグルはMSの破壊用。50口径の弾は貴重だから」
ベレッタとはM92FSのことだ。使用する弾丸は9ミリパラベラム弾という。
デザートイーグルは、やはり50口径のものらしい。
「もう一つ質問だ。MSは武器を使えるのか? 車は運転できるのか?」
国内に拳銃やナイフなどが遍いているなら、なぜ先程のMSは武器を使わなかったのか? 単に持ち合わせていなかっただけなのか?
そして車の運転だ。先のMSらが、停めてあった車でシンたちを追ってきても不思議はない。
しかし、後方から車が走ってくる気配はなかった。
「当然MSは武器も車も使える。けど、暴走と同時にどういうわけか、MSに搭載されたAIの機能が低下したらしい。だから、今は武器は疎か道具も火も使えないみたい」
「なるほど、そいつは好都合だな」
シンは少しだけほっと胸を撫で下ろせたような気がした。
「最後の質問だ。君の名は?」
「私は・・・」
彼女の名は聞きそびれてしまった。
なぜなら閉めていたコンテナの扉が錆びた音をともなって開けられたからだ。
二人は同時に顔を強張らせ、それぞれ所持していた拳銃を構えた。
扉の隙間から垣間見れたのは、二人組の男。
どちらも身長はシンと同じかやや低め。二人とも着ていた服はボロボロで、ところどころに穴があいていた。
早速少女は銃をぶっ放す。
どちらの男も、弾がかすってできた頬の傷からは血は流れなかった。
MSだ。
この瞬間、本当に相手が武器を使えなくて助かった、とシンは思った。
今の二人には逃げ道も隠れる場所もないのだ。
この時点でMSが拳銃を持っていたら、シンも少女も蜂の巣にされてしまっていただろう。
「撃って!」
「お・おう!」
少女とシンはそれぞれ持っていた銃をMSへ向けて構えた。