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第2章-8

 車の横を戦闘機のようにすり抜けていった蒼白の光。



 轟音が轟いたその一瞬後には、仕掛けられていた爆弾が爆発したかのように、もくもくと黒煙が視界を覆っていた。



 セイカは止められたワゴンの中で、茫然とそれを見つめていた。



 T字路の突き当たりにあった3階立てのアパート。

 噴煙が晴れ、鮮明になったフロントガラスの先に、惨憺たる姿と化したアパートの様相が広がった。

 鉄筋コンクリート製のアパートの壁面は、まるで乱暴にえぐったケーキの断面のよう。

 断面から露になっていた鉄筋は、子供が弄んだ後の針金のように、熱でいくつもひしゃげていた。



「全く、何を考えてるのかわからんね」



 九条は何かを思案しているかのようにそうぼやいた。



「逃げましょうよ! 早く!」



 レイが顔を引きつらせて、運転席側へ必死に訴える。

 ジュンもケイトも、それにつられて後部座席から身を乗り出してきた。



 しかし、九条は険しい面持ちで返答した。



「いや、無駄だろ」



「え?」



 セイカは目を見開いた。



「おっと、今のは語弊があるか。彼女さんは俺たちを殺すつもりはないだろうから、逃げるまでもないと言いたかったんだよ。あの女が別れ際、俺になんて言ったと思う? 10秒やるからさっさと失せろと言ったんだ。それに今の攻撃だってどうして外したんだ? こんな一直線の道でよ」



 不良らは意味が理解できないと言わんばかりに、それぞれ顔を突き合わせる。



 セイカは、九条の顔と目の前のアパートを左見右見し、



「そういえば・・・そうですね」



「だから、何考えてるかわからないって言ったんだ」



 面倒そうに呟く九条。



「生殺与奪は自分の思うがまま。まるで悪魔だ」



「ゴスロリなのに・・・」



「ホントだよ。俺のツボにぴったりはまってたのに」



 ケイト、レイ、ジュンと、順々にまたも銀髪少女のことを批評している。

 セイカはそれに耳を傾けず、九条に尋ねる。



「彼女、やっぱりMSだったんですか?」



「ああ」



 セイカの冷静な問いに、九条は首を縦に振った。



 後に続いて、ジュンが思い出したように言った。



「そうだ。あのMSはきっと愛玩用のMSなんだ。だからあんな恰好してるんだ」



「じゃあ、人間に玩ばれすぎて、そのうらみつらみで・・・」



 ジュンとレイは顔を突き合わせて口々に言う。



「愛玩用かどうかは知らんが、あんなとんでもない剣をどこで手に入れたのかが謎だな。まさか、標準装備だったなんてことはないと思うが・・・」



 言いながら九条はバックミラーを覗くと、嘆息をつく。

 セイカも不良も振り返るが、そこに銀髪少女の姿はもうなかった。



「深く考えても仕方がない。気にせず、当初の目的に戻ろう」



 九条は車を再度発進させた。



 アパートから飛んできた瓦礫の散らかったT字路を左折して、しばらく走っていると片側2車線の国道に出た。



 国道を走っていると、セイカはその先にある交差点を示した青い標識を見つけた。

 その標識の中の、緑色の枠内に高速道路の名前が入っていた。

 指し示す方角は右。

 ワゴン車は交差点を右折した。



 それから500メートル程走ると、高架の下を走る片側2車線の道に出た。

 この上が高速道路だ。

 高架下の道を暫く走り、高速の入口を見つけると、ワゴンは入口からスロープを上がり、高速道路の車線に合流する。

 言わずもがな、車道には車は一台も走ってはいない。

 綾静町までは距離にして50キロ、飛ばせば1時間とかからない。



 そう。何もなければだ。



 いつの間にやら後部座席の椅子が倒され、車内後ろには簡易の座敷が広がっていた。

 そして不良3人は、のんきにトランプでポーカーを始めていた。

 それを傍目に、昨日はこんなマイペースな人らに追われていたのかと、セイカは溜め息をついたのである。



 高速を走り続けて30分が経過。



「う~ダメだ。リバースしそう」



「ちと休憩しましょうよ」



 ジュンとレイは乗り物酔いに襲われていた。

 なら最初からポーカーしなきゃいいじゃん、とセイカは何度目かの溜め息をつく。



「たく、しょーがねーな」



 九条は呆れながらハンドルを回し、路肩にワゴンを寄せて止めた。



 止まった途端に、我慢の限界と言わんばかりに二人は外へ飛び出す。



 ケイトは乗り物酔いには強いらしい。涼しい顔で携帯ゲーム機を出して遊び始めた。

 おそらく、このまま目的地に着くまでゲームをし続けそうだ。



 セイカは、ワゴンの後ろで事を行っている二人を極力見ないようにして、周辺を見渡した。

 こちら側の車線と反対の車線の間には中央分離帯がある。

 こちらの車線には何も止まってないが、中央分離帯を越えた反対車線には、白のセダン車が一台、同じく空荷の白のトラックが一台止まっていた。



「ん?」



 九条は突然声を漏らした。

 彼の視線の先にはバックミラー。



 訝しそうに背後を見やったセイカは、ダイナマイトでも見つけたかのように目を見開いて絶句した。



 接近してくる一台のダンプ。

 それは横幅、高さともに2メートルを超える、最大積載量9トンの大型ダンプトラック。



 MSはウイルス感染による低機能化によって、車の運転はできない。

 ならばあの大型ダンプトラックは人間が乗っているということだろうか?



「・・・生存者?」



 ぽつりとそう漏らすセイカ。



「いや・・・違うっぽい」



 落胆する九条の額には、次の瞬間には目頭に幾重もの皺を刻んでいた。



「下りるぞ!」



「え? ちょっと待って! どういう・・・」



「早く向こうの車線に移るんだ!!」



 言われて、セイカは血相変えて、ケイトは腑に落ちないといった面持ちで、それぞれ外へと飛び出した。

 九条は後部座席から荷物を抱え、反対車線へと走った。



 背後から接近してくるダンプに気づいたのだろう。ケイトはワゴンの後ろに回り込むと、中腰になっていたジュンとレイの腕を掴んだ。



「なんだよ! どうしたってんだよ!?」



 機嫌悪そうに顔を上げるジュンに、ケイトが怒鳴る。



「後ろを見ろ!」



 言われた通りに後ろを見やった二人は、途端に凍りつく。



「固まってる場合か! 走れ!」



 ケイトに急かされて、二人は反対側の車線へと駆ける。



 セイカと九条は既に中央分離帯の向こう側に立っていた。

 そしてその時には、ダンプカーは残り50メートルにまで迫っていた。

 止まる気配は・・・、



 ない。



 なにしろ、誰が見てもそのダンプカーは、100キロを超過して走っているのが明らかだったからだ。



 不良3人は助走をつけて中央分離帯を飛び越える。



 刹那、がしゃんっ、という金属音とともに、飛散した車の部品が路上に散らばる音が響き渡った。



 路肩に止めていたワゴンへ、ダンプカーは減速することなく衝突したのである。



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