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第2章-5

 入口に向かうと、二人して引き戸に埋め込まれた、腰までの高さの小さな扉の隙間から外を覗いた。



 不良3人は縄で両手足を縛られていて身動きはとれない。

 その周りを3体のMSがかこんでいる。



 一体は警察の恰好をしている、見た目20代前半の好青年のようなMS。

 もう一体は黄色いエプロンをつけた、古本の店員の恰好をした、同じく20代前半と思われる青年MS。

 最後の一体は女性で、赤いエプロンをつけた10代後半の容姿を持つMS。

 この近くに洋菓子店があり、おそらくそこの店員として活動していたのだろう。



 ついでに述べると、警官MSは拳銃を所持していない。

 機械だけに正当防衛など関係ないので、使う理由はないのだ。



「3体もいるのか。ちと厄介だな」



「もう、助けられないのかな」



 気落ちしたセイカの胸には、先ほど渡されたショットガンが抱かれていた。



「よし、俺が背後から忍び寄って、一番近くにいるエセお巡りに攻撃する。それを合図に君は二番目に近い黄色エプロンにショットガンを撃ち込んでくれ。その隙をついて俺がそいつに攻撃する」



「攻撃って、素手でですか?」



「俺の左手には、MSと同じものがついてるのをお忘れか? しかも、ある仕掛けも備わっている。MSの動きを一時的に麻痺させる仕掛けがな」



 セイカは目をぱちくりさせたが、左腕を軽く持ち上げた九条は、誇らしげに笑みを浮かべた。



「二体を麻痺させれば、残るはあの赤エプロンのみ。後は俺が一人で相手しよう」



「でも私、銃を使ったことない」



「大丈夫だ。MSに砲口を合わせて引き金を引くだけ。はずしたなら弾をつめ直してフォアハンドを引けばいいだけだ。案ずることはない」



 と九条は言うも、はずした際の予備の弾をセイカに渡さなかった。



 不良らはもうMSの手にかかろうとしているのだ。

 外した時は弾をどこからつめたらいいか、そんな細かな説明をしていられる程の猶予、今はなかったのだ。



 九条が告げたのは、セイカの心中から、一発でMSにあてないといけないというプレッシャーを取り除いてやるために、咄嗟に出した方便だったのだろう。



「準備はいいか?」



 セイカはショットガンの銃身前方にあるフォアハンドを握り、引き金に指をかけ、答える。



「は・はい!」



「じゃあ、行くぞ!」



 九条は小さな扉から外へと飛び出した。



 その刹那、九条の左腕に変化が生じる。



 左腕の肘から下全体を稲妻のようなものが走っていたのだ。



 MSを麻痺する仕掛け。

 それは、強烈な電撃を流し込み、MSを誤動作させて動きを封じることだった。



 1体の警官MSの間合いへと、3メートル以上ある距離をたった2歩で攻め入る。

 機能低下したMSの動きは緩慢だ。

 振り翳した電撃の走る左手を、警官MSの鳩尾へと叩き込む。

 その瞬間、警官MSの全身へと電撃が伝わり、稲妻に覆われたMSは全身を震動させ、3秒と経たずに地面に崩れ落ちた。



「今だ!」



「はい!」



 セイカは持っていたショットガンを、もう一体の黄色エプロンのMSへ、間近にまで迫って撃ち放つ。

 見事それは命中し、弾かれた黄色エプロンは、よろめいて3歩後ずさった。



 この時、周りにいた者は誰も気づかない。いや、気づく余裕すらなかっただろう。

 ショットガンを撃ち放った時のセイカの瞳には、微かな怨恨が込められていたことを。



 よろめいた黄色エプロンの隙をついて、九条は稲妻を纏った左手を、黄色エプロンの顔面に被せる。



 MSはそのまま仰向けに倒れ込んだ。それでも九条は左手を離さずに高圧電流を流し込む。



 2秒程で手を離すと、MSは陸に上げられて放置された魚のように、ぴくりとも動かなくなっていた。



 2体目のMSを麻痺させ、左手を離した九条の背後に、3体目の洋菓子店店員の赤エプロンMSが襲い掛かる。



「やあ。そっちから絡んでくれるのかい?」



 笑顔で振り向き様、緩慢な動きで両手を投げ出す赤エプロンMSの間合いに九条は踏み込むと、見た目華奢なその胴体へと左手を押し当てた。



 バチバチと電流を浴びた赤エプロンは、最後には凍りづけにされたように硬直し、仰向けに倒れ込んだ。



「ふぅー」



 九条は安堵のため息をついた。

 その隣では、ぴくりとも動かなくなった3体のMSを、セイカが不思議そうに見下ろしていた。



 九条は金髪ボブと黒髪オールバック、セイカは赤髪パンチの縄を解いてやると、



「ひーっ、ホント死ぬかと思った」



「生きてる! 俺生きてるよ!」



「すげー、MSがみんな倒れてる」



 口々にぼやいたり感動したりする不良たちだったが、3人同時にぴたっと動きが止まると、突如九条の前で横並びし、



「ありがとうございます!」



 打ち合わせも何もないのに、3人同時に平身低頭。



「一生ついていきます! ししょー」



 金髪ボブが一歩踏み出して、憧憬の眼差しで九条を見上げる。



「師匠やめい!」



 九条は嘆息してそう言い置くと、何事もなかったかのように倉庫の中に戻っていった。



 九条を見送った不良3人は、今度はショットガンを両手で抱えて突っ立っていたままのセイカの前で、また横並びに整列する。



 眉間にシワを寄せて、3人を睨みつけて威嚇するセイカ。



 しかし、金髪ボブが言ったのは、



「追い回したりしてすいませんでした」



 続いて赤髪と黒髪が同時に、



「すいませんでした」



「え? ええ?」



 3人の変わり様にセイカは目を丸くしたのだった。



 その直後、倉庫の入口である引き戸ががらがらと音を立てて開けられた。



 再び現れた九条が持っていたのは、車のバッテリー上がりなどに使われるブースターケーブル。しかも、3組。



 左手にぶらさげたブースターケーブル二組は短く、輪っか状に束ねられていて、そこに腕を通されて引っかかっている。そして右手に持った長いブースターケーブルは引きずられていて、その後ろを辿ると、倉庫の中へと続いていた。



 実は倉庫の中、入口を入ってすぐ右側には配電盤があった。

 九条が持つケーブルの反対側は、その配電盤につながっていたのだ。



「ちょっくらごめんよ。感電したくなきゃ離れてな」



 九条は今にも鼻歌を歌い出しそうな、不気味な微笑を浮かべている。



 セイカに同じく、不良3人組も首を傾げていたが、金髪ボブが先陣切って質問した。



「それは・・・?」



「交流200ボルト。これでMSの頭ん中の回路を焼き切っちゃうんだ。わぁー、僕って恐ろしい」



 4人誰もが思っただろう。

 この人にはサディストの血が流れている、と。



 しかし、突然微笑は消え、九条は鋭い眼差しで4人を見やる。



「見ない方がいい。中で待機してな!」



「わ・わかりました」



 金髪ボブが答えると、言われた通りにセイカと不良3人組が倉庫に入っていく。



 その後しばらくして、九条も倉庫の中に戻ってきた。



「さあ、これから花火の時間だよ」



 そう告げると、九条は配電盤にある、ブースターケーブルをつないだブレーカーをオンにした。



 刹那、バチバチという耳障りな音が、外から聞こえてきたのである



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