序章-2
この日、シンは通い始めてから半年以上経つ専門学校の授業が全て終わった後に、友人4人とでカラオケにいっていた。
シンの本名は羽瀬崎 神という。
黒髪のぼさぼさした頭は、肩までとはいかないが無造作に長く伸ばされている。
がたいは175センチと長身で、細身ではあるが、頑強で逞しそうな印象を受けた。
専門学校に制服はないので、授業は毎日普段着で受けることになっている。
この日のシンの恰好は、上は白のパーカーを着て、下は黒のジーパンを履いていた。
翌日は土曜日で休みなので、日付が変わる間際まで友人らと楽しんでいた。
そのおかげで最終電車で帰ることになったのである。
専門学校は都市圏にあるため、様々な私鉄や地下鉄の駅が付近に集まっている。
友人3人は地下鉄での帰宅なので、シンは残った友人一人と私鉄の最終電車に乗っていた。
平日分の疲れがたまっているせいか、シンは車内で眠りこけてしまっていたが、友人が降りる駅に着いたために、シンは一度友人に起こされた。
シンの降車駅は、友人が降りた駅より、急行で更に二つ先だ。
時間にしておよそ15分ほどだが、案の定、降車駅に着くまでの間にシンはまた眠りについてしまったのである。
眠りについてから暫くが経過して、シンはようやく眼を覚ましたが、窓の外の景色に驚愕した。
「しまった! やっちまった!」
トンネルだ。
電車は県境にある山脈内のトンネルの中を走っていたのだ。
学校のある都市圏から、シンが乗り降りに使っている駅の間にトンネルはない。
この時点でシンは降り過ごしたことに気づいたのである。
また、今シンが乗っている車両内には、彼以外に人はいなかった。
これは最終電車だ。引き返そうにも、都市圏側に向かう電車はもうないだろう。
「あーあ、どうすっかなー・・・」
シンはがっくりとうなだれた。
その時だった。
かーっという閃光が車体全体を覆ったように窓の外が明るくなった。
「・・・え?」
シンは唐突に声を漏らした。
トンネルを抜ける時の眩しさにしては、光量が半端ない。それに今は深夜だ。
だが、この光は真昼にトンネルを抜けた瞬間なんかよりも、度を過ぎて眩し過ぎた。異常なくらいにだ。
「なん・・・!?」
瞠目するシン。
あろうことか、光は窓の外どころか、車内までをも白く染め始めたのである。
吊り革や縦長の座席、その他車内のありとあらゆるものが、強烈な光に飲み込まれていく。
そしてとうとう光は、シンの身体をも襲い始めた。
シンは抗おうとシートから腰を浮かすが、あまりにもきつい光に眼が眩んでしまい、全身が光に飲まれるよりも早く、強烈な閃光により意識を失って、脱力したようにまたシートに腰を落としてしまった。
そして光はシンの全身も完全に飲み込んでしまい、車内全体が完全な白に染められてしまったのである。