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第2章-3

「来るな! あっちいけ!」



 セイカは背後から赤髪パンチに、両脇から腕を通されておさえられ、身動きがとれなくなっていた。



「変態! ひとでなし!」



 三人に罵声を浴びせるも、こんな崩壊しかけた世の中で、しかも理性を失った男らには到底通用しない。



「ああ、俺ら3人とも変態さ!」



 赤髪は、自分の後ろにあったフォークリフトの後部へセイカを投げつけた。



「きゃっ!! ぐっ!!」



 車体に背中を打ちつけ、セイカはそのまま地面にへたりこんでしまう。



 金髪ボブが、獲物を見つけた蛇のように舌なめずりしながら、セイカに迫る。

 その右手にはバタフライナイフ。そして両隣に赤髪パンチと黒髪オールバックが立つ。

 3人が3人とも、欲望にとらわれた目をしていた。



「でけえ乳してるな。こいつはうまそうだ」



 金髪ボブは、セイカのワイシャツのボタンにナイフの切っ先を引っ掛けた。



 その瞬間、どうしたことか、セイカは不敵な笑みを浮かべたのだ。



「・・・チャンス」



 セイカは3人組みの背後に人影のようなものを捉えていた。



「は?」



 ナイフを突き付けた金髪ボブが間の抜けた声を漏らした。その瞬間、



「なんだ!? うわっ!!」



 黒髪オールバックは近くに段積みされた木製パレットに叩きつけられ、



「まさか!? えむえぐっ・・・」



 赤髪パンチは鳩尾に左拳を捩込まれ、その場に崩れ落ちた。



 どちらも動かない。気絶していた。



「いいとこに現れやがって、タイミング良すぎだ畜生!」



 残された金髪ボブは持っていたナイフを振りかざす。



 が、振り下ろされたナイフは、影に左手で掴みとられた。



 影は男だった。

 茶縁の眼鏡の下に微かに浮き出たほうれい線や、黒髪に白髪が少し交じっているところを見ると、30代後半と思われる。

 真白なカッターシャツを着ていて、両腕は肘までまくっていた。そこからは褐色の引き締まった腕が伸びている。下は真っ黒のスラックスを履いていた。

 身長は黒髪オールバックよりも高く、足はすらりと長かった。



 そして刃を握りしめた左手の皮膚からは・・・血は流れない。

 更に、U字をつくるように、刃が半分に折り曲げられてしまった。



「くそったれ!!」



 曲げられたナイフを手放して逃げようとする金髪ボブに、間、髪を容れずに男は右の拳を少年の左頬めがけてたたきつける。



「ぶわっ」



 金髪は殴られた勢いのまま、地面に倒れ込んだ。

 こちらも完全に意識を失ったようだ。



「お前ら3人で乳繰り合ってろ!」



 男は嘲弄を込めて言い放った。

 こんな乱暴な台詞、MSが使うはずがない。



「あなた、MS・・・なの?」



 セイカは面食らっていた。



 当然、彼女はMSの手にかかることを覚悟していた。

 だが、返された言葉は予想だにしていないものだった。



「いいや、俺は普通の人間だ」



「でも・・・だって、ナイフの刃を曲げたし、血も流れてないし」



「ああ、そのことか? 俺の左手は義手なんだ」



 セイカは依然地面に座り込んだままで、仰いだ目をぱちくりさせた。

 その眼前で、男は左腕を軽く持ち上げ、手を開いたり閉じたりを二度繰り返す。



「ようするに、左手にだけMSと同じものがついてるわけさ」



 男は、倉庫入り口を入って左にある、鉄骨の階段の真下にある台の上にあった縄と鎌を持ってくると、三人の両手両足をそれぞれ縛り上げた。



 それから折り畳み式の白い引き戸を開けると、倉庫の外へ気絶した三人を運び始めたのである。



「何をしてるんですか?」



「MSへの生贄・・・なんてな」



 セイカは立ち上がることを忘れたかのように唖然たる面持ちで硬直したまま、三人を外へ運び出す男の動きを見つめていた。



 3人を追い出した男は、パンパンと両手をはたいて埃を落とすと、入口を閉めた。



 少し気の毒だとセイカは思ったが、かける情けなどない、と自分に言い聞かせて扉から目を逸らすと、ようやく立ち上がる。



 残った縄と鎌を元の台に戻すと、男は機械と機械の間にできた道に入ろうとしたが、そこで思い出したようにわざとらしくセイカに振り返った。



「ついて来るか? 別にあいつらみたいにとってくったりはしないよ」



 対し、セイカは眉根を寄せて険しい面持ちになる。



「・・・信頼できない」



「俺はれっきとした既婚者だ。娘もいる。といっても、今はもう妻も娘もいないがな」



 どういういきさつで妻と娘がいなくなったのかは、複数の予想ができるだろうが、セイカは無言を保ち続けた。



「ま、こんな話題出したところで信じちゃくれないだろうが。あとは自分で判断しな。俺の後をついてくるのもいいし、別行動でここに居着くのだって構わない」



 男はそう言い置いて奥へと進んでいった。



 一人取り残されたセイカは、暫し立ち尽くしていたが、



「はあ・・・もうなんなのよ!」



 なぜかイライラ気味に嘆息をついた。



 そして男の後を追いはじめたのだった。



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