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第1章-10

 不敵な笑みを浮かべるシンの右手中指に、金色の光が灯りはじめる。



 そしてまた稲妻を放った。



 命中したのは、塀を登る際に世話になったセダン車だ。



 指先と車との間で、再び雷光が空気を裂き続ける。



 シンは右腕を肘から曲げて、空を仰いだ。

 まるで何かを手繰り寄せるように。



 その瞬間、信じられないことが起きた。



 子供が手放した風船のように、セダン車はふわっと地面から1メートル程宙に浮いた、刹那、新幹線にでも引っ張られるかのようなスピードで、シンの元へ向かってきたのである。



 未完成の高速道路の寸断された場所からフルスロットルで飛び出したような車が、シンの頭上すれすれを飛び越していき、彼を押さえ付けていた2体のMSと、周りを囲んでいた2体のMSがその車体に激突、車ごとシンの後方へ飛んでいった。



 背後で4体のMSをひき連れたセダン車が何かに激突したのだろう、轟音が辺りに反響した。

 それと同時に、シンとセダン車とを結んでいた稲妻は消えた。



 シンはようやく立ち上がり、背後を振り返るが、砂煙が一帯に漂っていて、MSがどうなったのかはわからなかった。



 シンは改めて自分の右手を見た。



 シンの持つ不可思議な能力。

 それは、指先から放った稲妻に当たった物体を自由自在に操り、振り回せるというものだったのだ。



「ハルナに当たらなくてよかったー」



 アスファルトに半分埋まったMSを見て、シンはほっとため息をついた。



 シンが拳を振り上げた瞬間、ハルナに馬乗りになっていたMSは上空へと舞い上がった。

 そしてアスファルトに拳を振り下ろしたと同時に、MSは空から地面へと叩きつけられたのである。

 もしMSの落下地点がずれていなかったら、ハルナの上に墜落していたかもしれない。



 しかし、このまま安堵することはできない。

 名も知らぬ少女がまだ複数のMSに捕まったままなのだ。



 シンはすぅっと息を吸い込むと、右腕をブロック塀に翳した。

 そして親指を除いた全ての指先を塀に向ける。



 すると、4本の指全てが金色に発光を始めたのである。



「こんな芸当はできるのか?」



 不敵に微笑みながら、シンは指先から稲妻を放つ。



 稲妻は塀のブロック一つ一つにランダムに命中した。

 そして指先と4つのブロックが雷光で結ばれたことを確認すると、空間を裂くように腕を薙ぎ払った。



 瞬間、4つのブロックは塀から飛び出し、まるでそれぞれに意思があるかのように、少女を囲繞していたMSに飛来したのだ。

 そのスピードはシン自身の眼で捉えるのも難しい程に速い。

 まるで巨大な弾丸だ。



 ブロックは次々とMSを弾き飛ばしていく。



 そしてようやく少女の身体も解放され、地面に力なく横たわった。



 シンは倒れた二人に視線をやった。

 ハルナも少女も、果たして無事だろうか?



 それから砂煙の晴れた駐車場の入口を見やる。



 入口の向こう側には、道を挟んだ向かい側に建つ家屋の塀があったのだが、そこへセダン車は頭から突っ込んでいた。

 4体のMSはその下敷きになっている。

 火花が散っていたり、機械の断面が見えていたりと、どうやらMSには致命的なダメージを与えているように思えた。



 一方で、4つのブロックに弾かれ、反対側のブロック塀の袂へと叩きつけられたMSも、火花を散らして朽ち果てていた。こちらもMSに確実なダメージを与えたように見えた。



 シンが稲妻をあてたブロック塀には、歯が欠けたように4箇所穴が空いていた。



 シンは呆気にとられていた。

 銃弾を何十発もあてないと壊すことのできないMSを、シンの不可思議な能力はいたって簡単に破壊してしまったのだ。



 彼の口端がつり上がらないわけがない。



 さて、残るは手持ち無沙汰で群れをなしている6体のMSだ。



 左前後のタイヤの抜かれたワンボックスへ、シンは右手で放った稲妻をあて、右腕を高く振り上げた。



 瞬間、ワンボックスは爆風で吹き上がったかのように天高く舞い上がった。



 残るMSの大群を睨み据えて、シンは空気を裂くように右腕を振り下ろすと、ワンボックスは浮力を失ったヘリコプターのようにかくんと下を向いた。



 と、同時にだ。



「ちょっと待て! まずいって!」



 シンは突然取り乱し始めた。

 まるで自分の手で火をつけた導火線が、実は自身の背中につながっていたことを直後に知ったかのように。



 ワンボックスはビルの側面を走るような姿で、4体のMSの真上に迫る。



 10メートル、5メートル。



「やばい! やばいって!」



 シンは慌ててハルナの上に倒れ込む。

 名を知らぬ少女より、ハルナの方が巻き込む範囲に近かったから、彼女を庇おうと判断したのだ。



 刹那、ワンボックスはMSを挟んで地面に激突。爆発。

 鼓膜が破れるかと思う程の爆音に、峻烈な爆風がシンの背中を襲う。



 と、その時、



「あがっ!?」



 シンの後頭部を何かが襲い、彼はハルナの上で意識を失ってしまった。

 シンの頭に直撃したのは、爆風に紛れて飛んできたワンボックスのハンドルだった。



 程なくして爆風がやみ、砂煙が晴れると、ワンボックスが墜落した地点が鮮明になっていく。



 ワンボックスの墜落に巻き込まれたMSは鉄の破片と化して辺りに散らばり、全滅していた。

 その真下のアスファルトには、深さ50センチくらい、直径3メートル程の穴が出来上がっていた。

 元はMSの骨格を形成していたであろう、機械の塊や鉄片は、主にその穴の中で散らばっていた。



 一方、穴から数メートル離れたところで、シンとハルナは重なりあったままどちらも動かなくなっていた。



 しかし、上で倒れたシンの重みを感じたのか、ハルナは少しだけ身じろぎした。

 それでも、どちらも目を覚ますことはなかった。



 二人から少し離れた所で横たわっていた少女が、唸り声を漏らしながら、今ちょうど上半身を起こした。



「う~・・・頭痛い」



 彼女もどうやら無事のようである。



 少女は立ち上がり、二人の元へ覚束ない足取りで寄った。



 彼女の視界には、変わり果てた駐車場の様相が映し出されていることだろう。



「ねえ? 二人とも? これは・・・げっ!?」



 少女は突然嫌悪感いっぱいに顔を歪めた。



 ハルナの上にシンが倒れていて、どちらも気絶している。それは前述した通りだ。

 しかし、まだ述べていなかったことが一つだけある。

 偶然にも二人の唇までもが重なっていたのだ。



「・・・いいや、放っとこ」



 少女は二人に背中を向けると、嘆息してそこから距離をとった。



 かくして、3人は危機をなんとか脱したのだった。



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