第1章-9
「なんできたんだ!?」
唖然とするシンに、ハルナはいつにない荒らげた口調で言い返す。
「こんな事態に陥って、一人で逃げ出すなんてできない!」
ハルナは50口径の弾を、少女を取り囲むMSの胴体へ次々と撃ち込んでいく。
1体、2体と弾いていくが、しかし、数が多すぎた。
彼女の射撃は、反動で一発一発に間隔が空いてしまうため、4体全てのMSを少女から遠ざけることはできない。
シンは3体引きつけた所で、ハルナは残り4体を対処できず、少女の危機は迫る一方だ。
そしてハルナもシンもほとんど同時に弾切れに陥ってしまった。
ハルナはスカートのポケットからスペアのマガジンを抜き取り、空になったマガジンを落として、スペアマガジンをグリップの下に差し込み、遊底側面のスライドストッパーを下ろした。
シンも持っていたスペアマガジンに交換しようと、ホールドオープンした拳銃からマガジンを抜き取ろうとしたが、
「シン! 後ろ!」
「え!?」
シンの左手首になにかが巻きついた。
振り返ると、また別の大男が二人立っていて、片方の男がシンの手首をつかんでいたのである。
弾切れなので反撃できず、シンはMSの怪力のなすがままにされ、そのまま地面におさえつけられてしまった。
「くそっ! 次から次へと」
地面に伏したまま切歯するシン。
その背中を、背後から現れた2体のMSがおさえつけ、シンが今まであしらっていた3体のMSが周りを取り囲む。
「シン!!」
ハルナはボンネットから飛び降り、シンを囲繞するMSに走り寄ると、至近距離で銃を乱射した。
しかし、混乱に陥っていたのか、彼女はMSにあまりにも近づき過ぎていた。
だから一体のMSに大股で急速に突撃され、腕を掴まれ、
「くっ、きゃっ!」
押し倒されてしまったのである。
そのままハルナの上にMSは馬乗りになり、彼女のか細い喉に手をかけた。
「ハルナ!! くそっ!!」
シンは唇を噛み締めた。
ハルナまで犠牲になることはなかった。
(死なせてなるもんか!!)
自分はどうなってもいい。ただ、ハルナだけは助けたい。
しかし、地面におさえつけれたシンにはどうすることもできない。
左腕はMSにおさえられていたが、右腕は俯せのシンの眼前に伸ばされていて動かすことはできた。
だが、その一番先で握られたままの拳銃はホールドオープンしたまま。
もはや、なすすべはなかった。
そこへ、団体がやってきたかのような大群の足音を、シンは耳にする。
シンは咄嗟に一縷の望みを抱いた。
特殊部隊のようなものが影で動いていて、見つけた生存者を助けだし、安全な区域まで連れていってくれるのではないか、と。
しかし、その足音の正体が更にシンを絶望に陥れる。
MSが6体、また新たに現れたのだ。
計15体ものMSが、駐車場の中で我先に3人を始末しようとうごめく。
シンは呆れを通り越しても笑みを浮かべることはできなかった。
握っていた拳銃も指からずれ落ち、手の平から離れた。
(これで終わりだ・・・)
死を覚悟したシン。
その時、
「・・・シン、ごめん・・・ね」
微かに届いた、ハルナの掠れた声。
彼女の顔はのしかかったMSの向こう側にあるため見えない。
だが、その声を聞いた瞬間、シンは体中が燃え上がりそうなくらいに高熱を覚えた。
「・・・まだだ。まだ、あるだろがっ!」
シンは自身に発破をかけるように言い聞かせる。
伸ばした右腕の先で拳をつくり、人差し指を伸ばし、親指を立てる。
「何が起こるかわからねぇ、不便利極まりねぇ切り札があるじゃねぇか!」
人差し指の指先が、金色に発光を始める。
そして照準を、ハルナにのしかかったMSの後頭部に定めた。
「奇跡でも悪夢でもなんでもいい! なんでもいいから何か起こしてくれ!」
刹那、指先から金色の稲妻がMSに向けて放たれた。
が、直後の予想だにしない現象に、シンは少しの間絶句した。
MSの後頭部には確かに稲妻は命中した。だが、MSがダメージを受けた様子はなく、ハルナのか細い首をじりじりと締め続けている。
問題はそこではない。
「・・・どうなってんだ?」
指先から放たれた稲妻は、MSの後頭部に命中した後も消えることなく、電極間を電気が走るように、指先とMSとの間でスパークし続けていたのだ。
しかし、それがなんだというのか。
ハルナも、名も知らぬ少女も、刻一刻と死に近づいているのだ。
「なんだよ!! このへっぽこ能力はっ!!」
憤慨したシンは、怒りに任せて右腕を振り上げ、地面に叩きつけた。
その一瞬後である。
地面に巨大な鉄の固まりでも墜落したかのように、地響きが起きた。
シンはまたも言葉を失った。
握り拳にした人差し指の関節からは、依然雷光が放たれている。
そして地響きの原因は、シンの目先で起きていた。
さっきまでハルナの上で馬乗りになっていたMSが、どういうわけか、シンとハルナの間で倒れていたのだ。
しかし、ただ倒れていたというわけではない。
MSの下のアスファルトは輪郭をつくって陥没していて、そこに半分程埋まっていたのだ。
まるで高い所から転落したかのように。
そして依然指先とMSをつなぐ稲妻はシンの目の前でスパークしていたが、人差し指を曲げた途端、稲妻はふっと消えた。
「・・・そういうことかよ」
右手を鼻先まで近付けたシンの顔に、段々と苦笑いがつくられていく。
「ははっ・・・どうやらへっぽこ能力発言は訂正しなきゃいけないらしい!」
シンは狂ったような不気味な笑みを口元につくり上げた。