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『守護の鬼』  作者: あや
8/8

-日常-

あの夜、彰が玉を飲み込んだ夜から、

次の日の夕方まで見るに耐えない程苦しんだのを悠は見た。

やがてそれが止まると、ぐったりと彰は布団に沈んだ。

死んでしまったのかと思ったがかろうじて息をしている事に

安堵し、乗り越えたのだと理解すると

悠は気が抜けたのかそこでぷつりと意識が途切れた。


目を覚ませば、自室だった。

悠は跳ね起きると時計を見る、時間は夜の22時だった。

まだ疲れの取れない体を引きずるように起き上がらせる。

急いで彰のいる部屋へ向かうと、そこには誰もいなかった。


足音を耳にすれば悠は後ろを振り返る。

佇んでいたのは、悠の母親だった。

「彰は…」

戸惑う口調で悠は母親へと問い掛ける。

「朝には、もう…姿が無かったわ」

申し訳無さそうにそう口にする。

完治していない体でどこへ行ったのだろうか。

悠は早くなる鼓動を鎮めて冷静になろうとした。

ふと、彰が行きそうな場所を思いつく。

彰の家だ。


思いついたと同時に家を飛び出していた。

玄関を出れば鮮明に蘇る記憶。

長い石段を降りて暗い夜の中、悠は彰の家へと走った。


上がる息をそのままに悠は彰の家へと辿り着いた。

家の前には、一つの影…彰の姿だった。

悠の気配に気付いたのか、彰は悠の方へと視線を向けた。

「悠、大丈夫か?体は…」

「俺の台詞だ!」

思わず声を張り上げてしまってから今の時間が夜だと理解し

声を抑えるようにゆっくりと何度か呼吸を繰り返した。


「俺は平気だ、もう体の中にいない」

彰はそんな声に少し驚いたもののいつもと変わらぬ笑みを見せた。

どこかやつれて見えるのは、十分苦しんだせいだろう。

そんな顔で笑わないで欲しい。

彰が佇むその家の中には、もう……。

もう枯れたと思う程泣いたのに、じわりと目頭が熱くなった。


「…家族の人は…」

問い掛ける声は震えていると悠自身にも分かる。

彰は返答の言葉を考えているのか少し沈黙すると目の前の家を眺めた。

「気配が、消えてるな…どこにもない」

直接的な言い方では無かったが、再会が出来ない事は明らかだった。

悠が何かを言う前に彰は悠へ歩むと片手でそれを制した。

「ごめん、は聞きたくない。後悔はしてないから。俺も、母さんも」

「……、…ありがとう」

少しの間の後、蚊の鳴くような声で悠が声にした。

謝罪の言葉でなければ、掛ける言葉はこれしかない。

彰は嬉しそうに微笑むと片手でくしゃ、と髪を撫でた。


母親の気配が無くなったものの、

家は完全に無傷の状態だったのが唯一の救いだった。

完治していない体を考慮してか悠は自分の家に来るように勧めたが

彰は少し休めば平気だとそれをやんわりと断った。

時刻は日を跨ごうとしていた。

明日学校で会う約束をして、その日は二人別れた。




疲れていたはずの体だったがいつもよりも早く目を覚ました。

冬の朝、冷たい空気。

悠はまだ人があまり通っていない通学路を学校へと歩いた。


教室に入ればしんと静まり返っていたが

窓際、いつもの席に鞄を置くその後姿にほっと息を着いた。


「おはよう、彰」

「ああ、おはよう」

悠の声に振り返ると片手を振って彰は挨拶を返した。

いつもの光景、それが悠には嬉しかった。

カーテンの隙間から朝の光が教室を明るく照らしていた。


「そう言えば…聞きたかった事があるんだけど」

悠の問い掛けに何、と視線で彰は悠を見つめた。

「俺の中からあの…妖蟲、をどうやって取り込んだんだ?」

ずっと疑問に思っていた事だった。

彰は目の前の悠の首筋に指先を伸ばすと制服の襟を軽く退けた。

「ここを噛んだ。少し…痕が残ってるな」

そう返せばよく見ないと分からない位の

二つの傷を眺めながら見て瞳を細めた。


指先を離せばふと悪戯に口元を上げて彰は言葉を続けた。

「まぁ、悠がやってくれた方法の方が手っ取り早かったかな。

 その時は思いつかなかったけど」

言われれば悠はその場面が脳裏を過ぎる。

彰の中から自分の中へ妖蟲を取り込もうとした場面だ。

あれしか思いつかなかったとは言え、冷静に考えれば恥ずかしい。


「『こういうのは、もう少しロマンチックにしたいもんだな』」

あの夜と同じ台詞を口にすると、

彰は徐に悠の片方の手首を取って自分の方に引き寄せた。

「…っ!?」

唐突な出来事に悠はバランスを崩して彰との距離を縮めた。

目の前に彰の顔がある。

同性のはずなのに、悠はそれだけで気恥ずかしく思えて顔を赤く染めた。


「言いたい事があるって言っただろ」

「…え…?ああ…」

「お前をどうしても守りたかった。守護する身だからじゃない。

 俺は…悠が、好きだから」

悠は瞳を見開いた。

守護する者、される者としての立場を理解した。

親友という関係から変わってしまったそれは

悠にとってどうしても距離を感じる事しか出来なかった。


けれど。


彰にとってはそれ以外の想いがあった。


「気持ち悪い?」

「そんな事は……」

悠は慌てて首を左右に振る。

彰からの好意はとても嬉しいものだった。

ただ、突然の告白に思考が混乱してしまっている。


「嫌なら、突き放していいよ」

彰は腕に悠を抱き締めると

指先で眼鏡のフレームに手を掛けそれを外した。

悠の視界には深い海のような青い瞳。鬼の血族の証。

その瞳が悠を見つめ返している。


あの夜と同じように、二人の唇が近付く。

悠は、ゆっくりとその視界を閉ざした。



-終-

やっと…完結しました。

BLとか言っておきながら温くてすみません。

シリアス展開だとこれが限界みたいです…。


読んで下さった方、本当にありがとうございました。

何か思いつきましたら番外編でも書きたいと思います。

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