婚約者へのサプライズを計画しただけなのに
エドガーは悩んでいた。
婚約者であるクラリッサの誕生日まで、あと一か月。
今年は何を贈るべきか。
去年は簡単だった。クラリッサを宝飾店へ連れていき、好きなものを選んでもらったからだ。
彼女は喜んでくれたし、エドガーも悩まずに済んだ。
ところが、その話をした母と妹の反応はよくない。
「それは、贈り物を選んだとは言わないわね」
母が紅茶を飲みながら言った。
「金は俺が払った」
「そこではありません」
妹のセシリアにも否定された。
「では、どうすればいい」
「ご自分で選んだらいかがです?」
「だから、それが分からないから聞いている」
エドガーはクラリッサと五年の付き合いになる。
十三歳で婚約し、十八歳になった今でも関係は良好だ。月に一度は二人で出かけるし、クラリッサは月の日、水の日、風の日と一日おきにこの屋敷へ通っている。
結婚後に必要となる家政や領地経営の実務を、母から学ぶためだ。
「クラリッサは何が欲しいんだ?」
「それを私たちに聞いてどうするのです」
「お前たちの方が詳しいだろう」
「お兄様の婚約者ですよ?」
「知っている」
知っていれば、こうして誕生日の贈り物で悩んではいない。
「好きな花は?」
母に聞かれ、エドガーは考えた。
「……花?」
「ええ」
「花は好きだと思う」
「何の花が好きなの?」
「そこまでは知らない」
「好きな色は?」
「青だったような」
セシリアが首を傾げた。
「クラリッサ様、青より淡い紫がお好きでは?」
「そうなのか?」
「この前そうおっしゃっていましたよ」
聞いた覚えがない。
「あなたたち、普段は何を話しているの?」
「いろいろだ」
「たとえば?」
「先月は領地の橋の補修について話した」
母とセシリアが黙った。
「何だ」
「いえ」
「何でもありません」
何か言いたそうだったが、二人とも言わなかった。
「でしたら今年は、贈り物だけでなく、お祝いそのものを用意したらいかがです?」
「祝い?」
「クラリッサ様には秘密で、お料理やお菓子を用意して、お部屋も飾って。最後にお兄様が選んだ贈り物を渡すんです」
「本人には知らせないのか?」
「知らせたらサプライズにならないでしょう」
なるほど。
贈り物だけで喜ばせる自信はないが、料理や花も合わせれば何とかなるかもしれない。
「悪くないな」
「では、絶対にクラリッサ様には気づかれないようにしてくださいね」
「分かった」
エドガーは頷いた。
◇
誕生日まで二十七日 月の日。
クラリッサは朝からエドガー邸へやって来た。
いつものようにアンナも同行している。
クラリッサが母との勉強を始めたあと、エドガーはアンナを呼んだ。
「お嬢様のお好きなお料理、ですか?」
「ああ。できれば菓子も知りたい」
「もちろん存じておりますが……どうしてでしょう?」
「それは言えない」
「……そうですか」
「クラリッサにも黙っていてくれ」
「お嬢様にも?」
「ああ。絶対に知られたくない」
アンナの返事が少し遅れた。
「……かしこまりました」
肉料理なら香草を使った仔牛のロースト。魚なら白身魚を葡萄酒で蒸したもの。菓子は柑橘を使ったものを好み、甘すぎるものはあまり食べない。
「嫌いなものは?」
「特にはございませんが、香りの強すぎる香草は苦手でいらっしゃいます」
「最近、体調を崩したことは?」
「いいえ」
「食べ物で具合が悪くなったことは?」
「幼い頃に一度だけ、木の実で」
「何の木の実だ?」
「胡桃です。今は召し上がっても問題ございませんが」
「念のため使わないようにしよう」
アンナがエドガーを見た。
「他には?」
「……ございません」
エドガーは一つずつ書き留めた。
午前中の勉強を終え、昼になるとエドガーも食堂へ顔を出した。
「お疲れさまです」
「ああ。今日は何を?」
「領地から届いた今年の収支報告を見せていただいていました」
「難しくなかったか?」
「最初よりは慣れました」
料理が運ばれてくる。
白身魚に香草を添えた一皿を、クラリッサが口に運んだ。
エドガーはその手元を見る。
もう一口。
「……何でしょう?」
クラリッサが顔を上げた。
「何が?」
「先ほどから、こちらをご覧になっていますが」
「いや」
エドガーは皿へ目を落とした。
「それは好きか?」
「お魚ですか?」
「ああ」
「好きですけれど」
「香草は?」
「こちらも好きですよ」
「香りが強くても?」
「……種類によりますね」
「なるほど」
「エドガー様?」
「何だ?」
「いえ……」
クラリッサが魚を見て、それからエドガーを見る。
「本当に、何でもありませんの?」
「ああ」
「そうですか」
向かいで母が額に手を当てていた。
◇
誕生日まで二十四日 木の日。
エドガーはセシリアと宝飾店を訪れていた。
「髪飾りはいかがです?」
セシリアの提案に、エドガーは少し考えた。
「去年も装飾品だったぞ」
「去年は首飾りです。髪飾りなら別でしょう」
「そういうものか」
「そういうものです」
いくつか見せてもらい、最終的に候補は二つに絞られた。
一つは淡い紫色の石を使ったもの。もう一つは真珠を小さな花の形に並べたもの。
「クラリッサ様なら、こちらだと思うんですけど」
セシリアが紫の方を指す。
「そうか?」
「そうです」
「髪に合わせたら違うかもしれない」
「では、どうします?」
本人を連れてくるわけにはいかない。
ちょうどそのとき、店の奥から若い女性が出てきた。
「あら、セシリア?」
「マリアンヌ!」
セシリアの友人だった。
髪色もクラリッサに近い。
エドガーは彼女の髪を見た。
セシリアも見た。
「マリアンヌ。少しお願いがあるんだけど」
◇
紫色の石を使った髪飾りは、暗い金髪によく映えた。
「ありがとうございます。助かりました」
「いいえ。クラリッサ様への贈り物なのでしょう?」
「はい」
「素敵ですね」
「ただ、本人には内密にお願いします」
「もちろんです」
店主が髪飾りを受け取り、細工を確認する。
「こちらの意匠で仕上げます。完成しましたら、もう一度髪に合わせて位置を調整いたしましょう」
エドガーはマリアンヌを見た。
「受け取りの日にもお願いできますか?」
「ええ。構いませんよ」
店を出たところでマリアンヌと別れ、エドガーはそのまま屋敷へ戻った。
夕方、予定表を確認していた手が止まる。
「……間違えた」
「何をです?」
近くにいたセシリアが覗き込んだ。
「髪飾りの受け取りだ」
職人本人が最終調整をするため、三週間後に来るよう言われている。
その日付を指す。
「あ」
月に一度、クラリッサと出かける日だった。
「変更してもらえば?」
「職人が翌日から王都を離れる」
「では受け取りを後日に」
「誕生日に間に合わない」
セシリアが予定表を見たまま黙る。
「……クラリッサ様との予定を変えていただくしかありませんね」
◇
誕生日まで二十一日 太陽の日。
エドガーはクラリッサへ話した。
「次の木の日の約束なんだが」
「はい」
「別の日に変更してもらえないだろうか」
クラリッサが少し驚いた。
「何かございました?」
「外せない用事が入った」
「まあ。それでしたらもちろん」
「すまない」
「お気になさらないでください。翌週はいかがです?」
「空けておく」
「では、その日に」
クラリッサはいつものように笑った。
ただ、カップへ伸ばした手が一度止まった。
◇
誕生日まで十七日 木の日。
クラリッサは母と街へ出ていた。
エドガーとの予定が空いたため、買い物に付き合うことになったのだ。
馬車を降り、店へ向かう途中で見慣れた横顔が目に入った。
エドガーだった。
声をかけようとして、足が止まる。
隣には若い女性がいた。
女性の髪へ、髪飾りを当てている。
「クラリッサ?」
母に呼ばれ、視線を戻した。
「……参りましょう、お母様」
歩き出してから、もう一度だけ振り返った。
エドガーはこちらに気づいていなかった。
◇
誕生日まで十三日 月の日。
クラリッサはいつも通りエドガー邸へ行った。
午前の勉強を終え、昼食の席でエドガーと顔を合わせる。
「先日のご用事は、無事お済みになりました?」
「ああ」
「それはよかったです」
「すまなかったな」
「いいえ」
クラリッサはスープを一口飲んだ。
「街へいらしていたのですね」
エドガーの手が止まった。
「……なぜ知っている?」
「偶然、お見かけしました」
「どこで?」
「宝飾店の近くです」
髪飾りまで見られただろうか。
「女性とご一緒でしたね」
「…………」
「どなたです?」
「セシリアの友人だ」
「そうですか」
「その方と、何を?」
「それは言えない」
クラリッサの手が止まった。
「言えない?」
「ああ。君にはまだ言えない」
「……まだ」
「ああ」
「そうですか」
クラリッサは微笑んだ。
エドガーは息をついた。
浮気。
その言葉が一度だけ頭をよぎった。
すぐに決めつけるつもりはなかった。女性と二人でいたからといって、それだけで何かあるとは限らない。
ただ、わざわざ自分との約束を変更した日に会っていた理由を聞いても、教えてはもらえなかった。
◇
誕生日まで十一日 水の日。
クラリッサがエドガー邸の廊下を歩いていると、使用人が長い紐の束を抱えていた。
「ずいぶん長い紐ですね」
「はい」
「何に使うのです?」
「こちらは……」
使用人が口を閉じる。
「何かございました?」
「いえ。その……エドガー様から、クラリッサ様にはお話ししないようにと」
「私に?」
「申し訳ございません」
使用人は頭を下げ、そのまま去っていった。
クラリッサはしばらく背中を見送った。
◇
「お兄様」
「何だ」
「クラリッサ様、何か気づいてません?」
その夜、セシリアがエドガーの部屋へやって来た。
「やはりそう思うか」
「やはり?」
「最近、妙に俺の予定を聞いてくる」
「…………」
「この前も街にいたことを知られていた」
「それは……」
「危ないところだった」
セシリアは兄をじっと見た。
「お兄様、クラリッサ様に何て言いました?」
「何も」
「何も?」
「何をしていたか聞かれたから、言えないと答えた」
「…………」
「何だ」
「いえ。もう少し普通に振る舞った方がよろしいのでは?」
「普通にしている」
「そうですか……」
◇
誕生日まで九日 風の日。
クラリッサはエドガーの母と、翌月に予定されている晩餐会について話していた。
そこへ使用人が入ってくる。
「奥様、先ほど注文していた品が届きました」
「あら、もう?」
「はい。ただ、量が予定より多いようで」
「どのくらい?」
使用人がクラリッサを見た。
伯爵夫人も見る。
「ああ……それは後で確認するわ」
「かしこまりました」
使用人が去る。
「お義母様」
「なあに?」
「今の品は?」
「大したものではないのよ」
「量が多いとおっしゃっていましたが」
「そうね」
「帳簿には?」
「載せなくていいわ」
「昨日、不明な支出をそのままにしてはいけないと教えていただきました」
「…………」
「…………」
「後日記載するから、今はいいわ」
「分かりました」
伯爵夫人の笑顔が少し固かった。
◇
誕生日まで六日 月の日。
クラリッサがエドガー邸へ向かう支度をしていると、アンナが思い出したように口を開いた。
「そういえば先日、エドガー様からお嬢様のお好きなお料理を尋ねられました」
「私の?」
「はい。お菓子や苦手なものまで」
「どうして?」
「理由は教えていただけませんでした」
「……そう」
「木の実で具合を悪くされたことまで確認されまして」
クラリッサが顔を上げた。
「そこまで?」
「はい。絶対にお嬢様には知られたくない、と」
「…………」
「お嬢様?」
「何でもないわ」
自分が口にするものを、秘密に調べている。
少し嫌な考えが浮かんだが、さすがに飛躍しすぎている。
◇
誕生日まで四日 水の日。
エドガー邸では、使用人たちが何度も庭と屋敷を往復していた。
大きな容器へ水を入れて運んでいる。
「何かあったの?」
クラリッサが尋ねると、若い使用人がびくりとした。
「い、いえ」
「ずいぶん水を運んでいるけれど」
「エドガー様からのご指示で……」
「どこへ?」
「それは……」
「私には言えない?」
「申し訳ございません!」
謝られてしまった。
「分かったわ」
クラリッサは道を譲った。
使用人は水を抱えたまま足早に去っていく。
またエドガーだ。
◇
誕生日まで二日 風の日。
その日はエドガーの母との勉強が早く終わった。
クラリッサは帰ろうとして、厨房の前を通る。
中から話し声が聞こえ、足を止めた。
「刃物はこちらで用意する」
エドガーの声だった。
「分かりました」
「彼女が来る前に準備しておいてくれ」
「かしこまりました」
クラリッサは、そのまま玄関へ向かった。
◇
帰りの馬車で、クラリッサは窓の外を見ていた。
エドガーには別の女性がいるのかもしれない。
自分との約束を断り、その女性と会っていた。何をしていたのかは教えてもらえない。
屋敷の者たちも、自分に何かを隠している。
好きな食べ物だけならまだいい。
体調を崩した食材まで調べる必要があるのだろうか。
丈夫な紐。
大量の水。
刃物。
「…………」
自分がいなくなれば、エドガーはあの女性と結婚できる。
そこまで考えて、クラリッサは眉を寄せた。
「いやいや」
婚約を解消したいなら、そう言えば済む。
両家の関係は良好だが、婚約解消が絶対にできないわけではない。エドガーが殺人などという手段を選ぶ理由がない。
それに、方法が多すぎる。
食べ物に何かを入れるなら刃物はいらない。
刺すなら紐はいらない。
紐を使うなら、あの大量の水は何なのか。
毒殺して、刺して、絞めて、沈める。
私に何の恨みがあるのだろう。
ない。
少なくともクラリッサには心当たりがなかった。
「考えすぎね」
口に出すと、急に馬鹿らしくなった。
◇
誕生日まで一日 大地の日。
エドガーがクラリッサの屋敷を訪れた。
「明日なんだが」
「はい」
「夕方、うちへ来てほしい」
「分かりました」
「一人で」
「…………」
「どうした?」
「一人で、ですか?」
「ああ」
「侍女も?」
「できれば連れてこないでほしい」
「護衛は?」
「必要ないだろう」
「…………」
「クラリッサ?」
追い出したばかりの殺害説が、こんにちはと戻ってきた。
帰っていただきたい。
「必ず来てくれ」
「……はい」
「途中で予定を変えたりしないように」
「…………はい」
◇
誕生日当日 太陽の日。
クラリッサはエドガー邸へ向かった。
殺されると思っているわけではない。
そう思っているなら、そもそも行かなければいい。
ただ、完全に何もないと言い切るには、少々材料が物騒だった。
「私は一人で入るわ」
「はい」
「あなたたちは外で待っていて」
三人の護衛が頷いた。
一人で来いとは言われた。
一人で屋敷まで来いとは言われていない。
たぶん問題ない。
エドガー邸へ着くと、使用人に案内された。
いつもの応接室ではない。
奥の部屋だった。
「こちらです」
「……ありがとう」
使用人が去っていく。
クラリッサは扉を見る。
毒。
刃物。
紐。
水。
そして、別の女性。
「…………」
大丈夫。
何かあれば叫べばいい。
護衛はすぐ外にいる。
扉を開けた。
「お誕生日おめでとう!」
声が響いた。
「…………」
クラリッサは動かなかった。
部屋いっぱいに花が飾られている。
天井から下がる飾りを見上げる。
テーブルの中央には大きなケーキが置かれていた。
エドガーの母とセシリアもいる。使用人たちも笑っている。
そしてエドガーが、自分の前に立っていた。
「驚いた?」
「…………ええ」
「成功だな」
満足そうである。
クラリッサは笑った。
「そうですね」
◇
「こちらを」
食事のあと、エドガーから小さな箱を渡された。
開ける。
淡い紫色の石を使った髪飾りだった。
「まあ……」
「気に入った?」
「ええ。とても」
クラリッサは石へ触れた。
そして止まる。
「エドガー様」
「何だ?」
「こちらを選ぶために、女性と?」
「ああ。セシリアの友人だ。君と髪色が近かったから、実際に合わせてもらった」
「……そうでしたの」
「それがどうかしたか?」
「いえ」
クラリッサは髪飾りを箱へ戻した。
「では、アンナに私の好きな料理を尋ねたのは?」
「今日の料理を決めるためだ」
「苦手な食材まで?」
「誕生日に具合を悪くさせるわけにはいかないだろう」
「そうですね」
「他にも何かあるのか?」
「丈夫な紐は?」
「紐?」
エドガーが天井を見る。
「あれか?」
飾りが吊られている。
「途中で切れると危ないから丈夫なものを頼んだ」
「大量のお水は?」
「花だ」
「刃物は?」
「ケーキを切るためだが」
今度こそ、殺害説には帰っていただいてよさそうだった。
「他には?」
「いいえ」
「さっきから妙だぞ」
「気のせいです」
「気のせいには見えないが」
そのとき、扉が開いた。
「お嬢様」
護衛の一人が顔を出した。
「お時間がかかっておりますが、問題ございませんか?」
「大丈夫よ」
「何かございましたら、すぐに」
「本当に大丈夫だから」
護衛はエドガーを一度見てから扉を閉めた。
エドガーが扉を見る。
それからクラリッサを見る。
「……なぜ護衛がいる?」
「念のためです」
「何の?」
「…………」
セシリアが口元を押さえた。
「クラリッサ様。もしかして……」
「…………」
母もクラリッサを見る。
エドガーだけが分かっていない。
「何だ?」
クラリッサは少し迷った。
「エドガー様」
「ああ」
「私、もしかすると殺されるのではないかと思っておりました」
「…………」
エドガーが固まった。
セシリアが吹き出した。
「なぜ!?」
「お兄様、声!」
「なぜ俺が君を殺すんだ!」
「私もそう思いました」
「ならなぜ!」
「ですが、好きな食べ物を調べられ、刃物を用意され、丈夫な紐と大量の水まで運び込まれたうえで、一人で来るように言われましたので」
「…………」
「さらに私との約束を取り消して、別の女性と会っていらっしゃいました」
「…………」
「婚約が邪魔になった可能性も、一応考えました」
「待ってくれ」
エドガーが額を押さえた。
「毒を盛られるかもしれないと?」
「少し」
「刃物は?」
「刺されるのかと」
「紐は?」
「絞められるのかと」
「水は?」
「沈められるのかと」
「…………」
エドガーはしばらく黙った。
「なぜ俺は君を四回殺す必要があるんだ」
「ですから、私もおかしいと思ったんです」
セシリアがとうとう声を上げて笑い始めた。
母まで顔を背けている。
「笑い事じゃない」
「だって、お兄様……全部ご自分で……」
「俺は誕生日を祝おうとしていただけだ!」
「存じております。今は」
セシリアの笑い声がさらに大きくなった。
エドガーは何か言おうとして、やめた。
「……来年は、欲しいものを聞く」
「そうしていただけると助かります」
「店にも一緒に行こう」
「ぜひ」
「月に一度の約束も取り消さない」
「それがよろしいかと」
クラリッサはもらった髪飾りを手に取った。
「でも」
「何だ?」
「今年の誕生日も、忘れないと思います」
「……そうか」
「ええ。とても驚きましたから」
エドガーは複雑そうな顔をした。
「それなら、サプライズには成功したことになるのか?」
「そこだけなら」
セシリアがまた笑った。




