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当て馬令嬢の恋

「ずっと。ずっと君だけだった。僕の心の中にいる女性は」


「チャールズ……。ありがとう。貴方だけよ。私を想ってくれる人は」


 二人は、テーブル越しにじっと見つめ合う。

 指一本触れあうことなく、公共の場で茶を飲み言葉を交わすだけ。

 紳士淑女、そして既婚者と独身令嬢としての節度は保たれていた。

 エスコートする時だけは例外で、その僅かな触れ合いの瞬間にチャールズは天にも昇る心地だった。


 だが、昼間に『元級友として』正々堂々と会うにしては、ほぼ毎日というのは節度が保たれていると言えるのだろうか。

 しかも、チャールズの妻は結婚式の直後に病の床に就いたばかりか悪化させ、死を待つばかりという噂が流れている。

 都合の悪いことから目を背け、チャールズはようやく実った恋に酔いしれた。





 ***




「当て馬令嬢、と呼ばれていたらしい」


「は?」


 病床の捨てられ妻・フランチェスカの枕元で、今日も謎の薬師はたいへん麗しい声で書類を読み上げる。


「エンダリー国の……。ああ、面倒だな。公爵家は三つあって、そのうちのA公爵子息のアダムとB公爵令嬢のエヴァは幼馴染で、幼児の頃からアダムがエヴァ迫っては振られ迫っては振られだったのが、すったもんだの末結婚」


「すっ飛ばしすぎて内容が今一つわからないのですが。そこでどうパトリシア嬢が絡むのですか?」


「少し詳しく言うと、振られ続けて闇落ちしかけたアダムを更生させるために、A公爵がここ、ヨド国への短期留学をさせ、そこでパトリシア嬢と知り合った。当時はただの同級生だったが、アダムの帰国時にパトリシア嬢が今度はエンダリー国への交換留学生となり一緒に旅立ち、あちらで彼が面倒をみるうちに婚約することに」


「……ちょっと待ってください。私の夫はどこに出てくるんですか」


「私の夫って、いったい誰? そんな人知らないなあ」


 書類を懐に入れて立ち上がるそぶりを見せる男に、フランチェスカは頭を抱えて「あ゛-っ」と叫びたい。


「ああもう、本当にめんどくさいですね。チャールズ・ブリッジはどういう立ち位置だったのかお聞かせ願えますか、シャルル様」


 名前を呼ばれて機嫌を直した第二王子殿下は素直に答えた。


「チャールズ・ブリッジはヨド国立貴族学校で、パトリシアのとりまきだった男たちの一人だ」


「とりまき? 恋人だったのではなくて?」


「パトリシアの美貌……私は美しいとこれっぼっちも思わないがな。とにかく彼女に吸い寄せられて周りでぐるぐる回っていた男子学生が数人いたらしい。そのうちの一人がチャールズだ」


「はあ……。だんだん読めてきました。キープだったのですね、彼」


「まあ、そういう感じかな。彼女は自己肯定感が高く、承認欲求と上昇志向のかたまりだと情報部が分析していたよ」


 ジュネール国の精鋭部隊をこんな無駄情報の収集と解析に使ったんかい。

 またもやフランチェスカはここの中で「あ゛-っ」と叫んだ。

 彼らにいつ滅されてもおかしくない存在への階段を、目の前の至宝のせいで自分は一歩一歩上っているのだ。


「あ、そういやヨドの王子様たちって、みんな生まれた時にとっとと婚約者を決めちゃいましたね」


 そこで、ポン、と手を叩いてサラが合の手を入れる。


「そう。それに倣って上位貴族も青田買いしたようだな」


 この国の王はなんだかんだで好色で、王妃に双子と第一側室に一人、第三側室に二人、あと愛妾に数人男子を作ってしまった。

 後ろ盾になる家柄の女児は全てあてがわれ、パトリシアがどれほど美少女と評判が高くとも継承権争いに対して役に立たない生家ゆえに、格上との縁に恵まれることがなかった。

 そこで飛んで火にいる他国の公子アダムの登場だ。


「ええと……。つまり、格上のアダムが現れたのでロックオンしてめでたく婚約にこぎつけたけれど、最後の最後でエヴァに横取りされて、婚約解消になってしまったと言う事ですか?」


「そうだ。そもそもアダムとエヴァのツンデレケンカップルぶりは、昔から有名だったから、わざわざヨドから当て馬を買って出た奇特な令嬢と……」


「うわあ……」


「殿下。やっぱり、アレですかね? 元鞘のきっかけって、どっちかが重い病に罹るとか、馬車にひかれるとか、賊に襲われるとかで死にかけて、『貴方を世界で一番愛しているの!』って手を握って絶叫したら、急に生き返ってピンピンするやつですか?」


「お見事だな、サラ。その通りだ。ちなみに正解は一番だ」


「わ~。重病シチュなんだ」


「ちなみに二枚貝中毒だそうだ」


「まあ! 最近似たシチュありましたねえ。お坊ちゃまは飛び込んできませんでしたけど~」


 パチパチとサラが手を叩くと、重々しくシャルルは頷き、ソファセットで医師は呑気に茶をすする。


「ああ……。世の中、バカップルばっか……」


「それをフラン様が言いますかねえ」


「──サラ、君に特別報酬をやろう」


「やった☆ ありがとうございます。雇い主さまあ」


「ああ、もう。好きにして」


 とにかくも。

 不運なことに国葬で喪に服したり様々な事情が重なって結婚式がのびにのび、パトリシアはなんと五年近く待たされての、婚約解消である。

 さすがに慰謝料はたんまり貰ったが、失った時間は戻ってこない。

 既にパトリシアは二十三歳。

 ヨド国は十五歳から婚姻が認められており、母国のキープたちのほとんどはそれぞれ家庭を持って落ち着いてしまった。


 つまり、パトリシアは当て馬令嬢かつ、婚約破棄された傷物令嬢、かつ売れ残り令嬢という、不名誉なあだ名を三つも冠してしまうことになってしまったのだ。

 密かに帰国してからは屋敷に引きこもる日々だったらしい。


 そんななか。

 あの、チャールズ・ブリッジがとうとう結婚すると言う噂が耳に入る。

 そこで、パトリシアはチャールズの妹・ウェンディに連絡を取った。


 あとは、フランチェスカの知るとおりである。


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