断罪イベント365ー第20回「ファッションリーダー令嬢、春夏コレクションへようこそ!」
断罪イベントで365編の短編が書けるか、実験中。
婚約破棄・ざまぁの王道テンプレから始まり、
断罪の先にどこまで広げられるか挑戦しています。
「では、断罪を――」
王子の右手が天を指しかけたその時だった。
「あら、王子。ご挨拶もそこそこに、
わたくしの新作ドレスにはお気づきにならないの?」
黒幕令嬢が、優雅に裾を翻した。
そのドレスは金と赤を基調に、
スパンコールがこれでもかと散りばめられ、ま
ばゆいばかりにギラギラしていた。
観衆は一瞬目を細めた。
「まるで、歩くシャンデリア……」
誰かがつぶやく。
「このドレス、王都の最高級ドレス工房に
“王子とのご婚約祝い”として特注したものですわ。」
そして王子の隣、断罪されるはずの令嬢は――
「ごめんあそばせ、観衆のみなさま。ご歓談中、失礼いたします」
ふわりと一礼した彼女のドレスは、
やわらかな風に乗って広がった。
淡いライラック色の薄絹が重なり合い、まるで花の精の羽衣のよう。
肩から流れるシルクのリボンは朝露を受けた藤の蔓のようで、
足元のサンダルは繊細な刺繍で彩られていた。
「わたくし、先日、南の村を訪れましたの。
そこの娘さんたちが織った絹と、森の草木で染めた糸。
すべて手仕事で仕立てた一着でございます」
そう言って令嬢は、くるりと回って見せる。
観衆のどよめきが広がった。
「春夏コレクション、始まりましたわね……」
「いやこれ、もう断罪じゃなくてファッションショー……」
司祭がぼそりと呟いたが、誰も聞いていない。
「王子、貴方は……どちらの装いを選びますの?」
黒幕令嬢が挑発する。
「ま、まばゆい方……」
王子がうわごとのように答えると、
令嬢はそっと笑った。
「では、わたくしはこちらの世界に戻りますわ。
自然と共にある暮らしへ――」
ぱちん、と扇子を閉じた音が、断罪の幕を静かに閉じた。
残されたのは、ギラギラの黒幕と、茫然とした王子と――
「今週のベストドレッサーは……!」
観衆の誰かが叫ぶ。
「そこは、断罪だろ!」
だれかが突っ込んだ。
断罪イベントはドレスも重要。
読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m