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第72章 闇の追跡者



 夜が明けきらぬ街を、静かな足音が忍び寄った。澪は隠れ家の暗がりで目を覚まし、窓越しに濡れたアスファルトを見つめた。外はまだ薄暗く、雨に濡れた街灯が光を散らしている。眠れぬまま手元の封筒を握りしめ、胸の奥に不安と緊張が渦巻く。


「何か動きがある……」佐伯が低くつぶやく。片倉は窓際で双眼鏡を手に、周囲の建物を警戒していた。


 数日前に公表された告発文はすでに大きな波紋を呼び、権力と宗教、企業の関係者たちは暗闇の中で反撃を準備している。澪は胸の鼓動を抑えつつ、今後の行動を冷静に考えた。


 突然、倉庫の外で金属音が響いた。足音は意図的に忍ばせたような軽さで、誰かが確実にこちらを探っていることを示していた。佐伯は素早く銃を手に取り、片倉も入口を固める。


「敵か……」片倉の声に、澪の心臓が一瞬止まる。闇の中で影が揺れ、低い声で囁き声が聞こえる。


 闇の追跡者は、権力の手先か、宗教団体の密偵か、それとも企業のスパイか。いずれにせよ、彼らは命を懸けて情報を奪いに来ていることに変わりはない。澪は封筒をぎゅっと抱きしめ、覚悟を新たにする。


 数分の静寂の後、追跡者の影は倉庫を取り囲むように動いた。佐伯と片倉は緊張の糸を張りつめ、澪を守るために慎重に動く。小雨に濡れた夜空の下、三人の呼吸だけがはっきりと響く。


「これ以上待てない……」佐伯がつぶやき、澪の手を取り、裏口からの脱出を指示した。三人は静かに倉庫を抜け、路地を伝って車へ向かう。雨に濡れた路面が足音を吸い込み、かろうじて影の存在を隠してくれる。


 車に乗り込むと、佐伯はエンジンをかけ、路地を抜けて安全なルートを選ぶ。後方のミラーには、うっすらと動く黒い影が映り、追跡者の存在を示していた。澪は手に握る封筒を見つめ、使命と命の狭間で揺れる自分を感じた。


 闇の追跡者が迫る中、彼女たちは次の行動を慎重に計画しながら、冷たい雨の中を走り抜ける。告発の炎はすでに世に広がり始めているが、命を狙う影もまた、確実に彼女たちを追いかけていた。



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