第十三章 裏社会の交錯
議員会館からの脱出後、遼と澪は一時的に都心の雑踏に紛れ込み、互いに息を整えた。手に入れた証拠は膨大で、どれも永光会と政界、司法、メディアを繋ぐ決定的な証拠となり得る。しかし同時に、彼らの行動は裏社会の者たちにも感知されつつあった。
その日の午後、港区の裏通りにある古い倉庫で、永光会の影響下にあるヤクザ組織「侠和会」の会合が開かれていた。組長の大岩は重々しい声で報告を受ける。「港湾での物資の動きに異常があった。誰かが情報を持ち出した可能性がある」
大岩の側には、右翼団体「郷誠会」の中堅幹部もいた。彼らは表向きは街宣活動を行っているが、実際には永光会の地下資金の警備や搬送を請け負う役割を持つ。「誰がやった? 誰だ、港でカメラを回したのは?」幹部の声には怒気がこもる。
一方、遼と澪は安全を確保するため、秘密裏に倉木海斗の事務所へ向かっていた。海斗は既に複数の証拠ルートを確保し、匿名の第三者機関にデータを送信する準備を整えていた。「このままでは、表に出る前に潰される可能性が高い」と海斗は言う。「だが、動かさなければ何も変わらない」
澪は手元のタブレットで、港湾倉庫から撮影した映像を確認する。黒塗りのワゴンや、物資を運ぶ黒服の姿。映像の一部には、かつて二人が観察した国会議員の影も映っていた。「やはり、政治と裏社会は密接に結びついている…」澪は静かに呟く。
遼は地図を広げ、港区から議員会館、通信会社、さらには永光会本部までを結ぶラインを指でなぞる。全てが一つの巨大なネットワークとして絡み合い、どの地点も安全ではないことを示していた。「俺たちは、今この網の中にいる」
夜になると、侠和会と郷誠会は港湾周辺で合同の監視を強化する。監視カメラの映像や無線連絡で、遼たちの動きはすでに察知されつつあった。しかし、彼らは逆にそれを利用して、偽のルートに敵を誘導する作戦を立てる。敵に正体を悟られず、情報を確実に次の段階へ運ぶためだ。
暗闇の中、遼は澪に低く囁く。「次は通信会社。あそこを押さえれば、永光会の情報ルートの核心に触れることができる」
澪は頷き、二人は慎重に都市の影に身を潜めた。街灯に照らされる影の向こう、ヤクザも右翼も、そして永光会の幹部も、すべてが同じ盤面に駒として置かれているかのように見えた。
その夜、都市全体が眠りにつく一方で、遼と澪の行動は裏社会の網目をすり抜け、次の大きな一手へと動き始めていた。これが、永光会、政界、司法、そして裏社会を巻き込む壮大な動乱の序章であることを、二人はまだ知る由もなかった。




