72話 ドッペルゲンガー?
♢♢♢
「ただいまっとな…」
ようやく着いた。やっぱり駅から歩きだとだいぶ時間掛かるな…
玄関のドアを開けて、手早く靴を脱ぐ。さっさとリビングに直行だ
今日の沈んだ気分を慰めてもらう為に、今日は愛梨をとことん抱きしめるとするか
ジタバタ暴れても問題ない。俺の学生鞄の中にあるブサクマちゃんを渡して無抵抗にさせるだけだ
「おかえり〜」
「…ん?」
玄関の段差を上がったタイミングで愛梨が目の前に居ることに気付いた
こんな所で俺のことを待ってくれてるなんて、俺の妹可愛すぎないか?……
でもちょっと気になる事がある。なんでか真っ暗だ。でもこのちっこい身長は間違いなく愛梨だ
「遅すぎれんれ「今日少しだけ疲れちゃってさ〜…癒しが欲しすぎるんだわ」
ぎゅっ
「ッ……へっ…」
俺は吸い込まれるように愛梨を抱きよせた。今日の俺は無敵だ。さぁジタバタしてみろ
「………え?…え?…」
「…………いやおまえどうした?…」
なんか…….こんな感触だったか?…愛梨の胸がつっかえて上半身が密着しきれん
それにしても全然ジタバタしない。『キモ!離せざこにぃ!』がデフォルトのはずなんだが?
暗すぎてシルエットしか分からないが、100%愛梨のはずだ
「………」
いやホント何も反応ないとか怖すぎるんだが…
「……おい…全く暴れないじゃん…」
まさか愛梨のやつ。俺で遊んでるな?今日は俺が愛梨で遊ぶつもりなんだから辞めてくれよ
くだらない事を考えている間に、愛梨は背伸びをして俺の首に両腕を絡めてきた
暴れるどころか受け入れる愛梨に、俺は戦慄した
「…ど、どうしたんだよおまえ。顔近いぞ…」
こんな暗闇の中、抱き合う兄妹って世間一般ではもうアウトなんじゃないか?
もっとアウトなのは、キスでもする距離まで顔を近づけてくる愛梨の方だが…
しかも愛梨は両腕に力を入れ、体重を掛けながら俺の首を下に下げようとしてくる。だから今はお互いの吐息が感じられる距離にまでなっていた
このままではいけない。こうなったらこの甘い雰囲気をぶち壊すしかない
「…お、おまえ俺とキスでもしたいんか…」
それでも何も喋らず、ただ唇を近づけてくるだけだ
「お、落ち着けって」
全体重を俺の首に掛け、キスしたいが為に背伸びまでして……どうしたんだ愛梨…
そして一瞬、互いの唇が触れ合った時だった
ガチャッ
突然リビングのドアが開く音がして、俺はすぐに視線を向けた
「あれ、ざこにぃおかえりー…………ってルナちゃんの事抱きしめてないで早く晩御飯食べてよねー」
「へ?…あ、愛梨?…ドッペルゲンガー?……」
いやそんな事はないはずだ。えっ…じゃあ俺が抱きしめてたのって……
ゆっくりと顔を下に向けると、そこには俺の白Tシャツを勝手に着ているルナが居た
相変わらず胸だけは主張が激しく、胸の下だけかなりダボダボだ
しかも太腿しか見えてなくて、何も履いてない様に見える
「ドッペル?…変な事言ってないではやくー」
「お、おう…」
そして気付けば俺の首に絡みついていた腕は解かれて、ただ俺がルナを抱きしめているだけだった
でも俺を見上げる瞳には、もっと先の事がしたいと言わんばかりの期待が込められていた
コレはもうさっさと離したほうがいいな…
「今いくわ」
「あ………」
抱きしめていた腕を離した時、一瞬だけ寂しそうな声が聞こえたが、ここは聞こえてないフリだ
「さぁめしめしー」
愛梨と思って抱きしめてたとか言えん。一言でもどこかで愛梨って言ってればこうはならんかったしな
リビングを通り抜けて食卓机の椅子に座った時、バレないように視線だけで暗い玄関に居る人間を見る
そこには、ただ黙って自分の唇を指で何度もなぞるルナが居た
♢♢♢
「なっ………充電できていない……だと?…」
いつも通りご飯を食べてお風呂にも入った。しかしここで事件だ
風呂に入っている間にリビングでスマホを充電していたはずが、俺のスマホは全く充電出来ていなかった
「どったの?ざこにぃ」
「緊急事態だ。俺のスマホが充電出来ていない」
「ふーん。でも誰からも連絡ないから良くない?」
「そんなん分かんないだろ?もしかしたら着信が100件くらい来てるかもしんないだろ?」
「ぷぷ。そんな日来ないのにねー」
「当たり前だろ。来てたらもうそれはホラーだわ」
完全に内部バッテリーがイカれてるんだろうな。もう結構長い間使ってたし仕方ない
まぁでもアレか?別に明日の黒瀬との勉強の後に修理出せばいいか。俺に電話してくる奴なんて居ないし
「俺さ、明日ちょっと桜丘学習図書館ってトコ行ってくるわ」
「え?明日はルナちゃんとお出かけするんじゃないの?」
「いやそんな話聞いてないし決めてないな。……まぁ行くとしても日曜だな…」
本当は行く義理すらないんだが、まぁ行ってやるか
「ふーん……ちゃんとルナちゃんに言っときなよ〜」
「へいへい。てかアイツは?」
「ルナちゃんならもうお部屋に居るんじゃない?」
「念の為聞くけどさ、………どっちの部屋だ?」
「えっ、ざこにぃの部屋でしょ?」
「お、おう…」
まるで俺の部屋に居るのが当然。みたいな言い方だ
「じゃ、愛梨もう寝るから〜。おやすみ〜」
「あいよ、おやすみ」
当たり前の事を聞かれてめんどくなったのか、愛梨は適当な態度で話を切り上げてリビングから出ていった
「……完全に感覚麻痺してんな。愛梨の奴…」
年頃の男女が抱き合いながら寝てる事に違和感なしってか………
ちなみにブサクマはもう渡した




