71話 溢れる涙
「おーい!会長起きてー」
アヘ顔クッションに顔を突っ伏した会長に、せいらちゃんが呼びかけるけど反応はない
「……私……なんて事を…」
「会長…もしかして愛梨ちゃんの事を先輩の彼女さんと勘違いして酷いこと言ったとか…ですか?…」
そう耳元で囁くと、会長はビクッと震え出した。この反応はたぶん正解だと思う
「そのクッションも先輩に買って貰ったけど、自分は彼女のついでだと思って逃げちゃいました?」
ビクゥ
コレも正解と。会長は案外分かりやすい
「なに?会長は何して何言ったん?」
いきなりそれ聞いちゃうのはどうなの…せいらちゃん
「一人になりたいって…蓮くんの手を払ったわ…」
「「うわー最低」」
「でもそれなら諦められますね!ほら、先輩にこだわる必要なんてない訳ですし?」
ようやく立ち上がる気が起きたのか、会長はのそのそと体を起こしてこちらを見つめてくる
少しだけの威圧感を放っているのは気のせいだと思いたい…
「西城さん。……どうしてそんなに諦めて欲しいのかしら?」
「や、やだなぁ〜。そんな事ないですよ〜」
そんな事ないのに少しどもってしまうのが自分でも分からない
「でものあちゃんさ、バイトの話とか楽しそうにしてたよね。ちょっとメロってんなって思ったんよ」
えっ…そんな楽しそうに話してた?そんな事ないのに
「な、なに?メロってるって」
「メロメロしてるってこと」
「してないしてない!やめてよせいらちゃん!てゆーか今はそんな事よりも会長のことです!ほ、ほら!謝りに行った方がいいですよ〜」
そんな事は絶対ないのでここはちゃんと否定して、ついでに話も逸らす
「分かっているわ…謝らなきゃいけない事くらい…」
「そもそも会長って恋愛に興味あったんだね〜」
「せ、せいらちゃん…」
な、なんてハードなノンデリ発言。会長を機械かなんかだと思ってるのせいらちゃん…
「私だって恋愛に興味くらいあるわよ。卒業までに蓮くんと沢山思い出を作って、卒業と同時に……」
「「………同時に?……」」
「……………卒業と同時に結婚を考えているわ…」
「……は?…」
凄い飛躍してる事に会長は気づいてないの?好きでもない男との結婚考えるってどーゆうこと?
「おー!いいじゃん会長〜、可能性限りなく低いけど頑張って」
「……それじゃ、私は電話するから失礼するわね」
会長はよっぽどスッキリしたのか、颯爽とした足取りでスマホを取り出しながら去っていく
いや、こんな終わり方じゃ私がスッキリしないし、なんだかイライラする。もう……我慢の限界
「ちょっと待ってくださいよ!さっきから黙って聞いてればなんなんですか!付き合ってもないのに結婚考えるとかあり得ないですし、そもそも好きじゃないのに先輩じゃなきゃいけない理由とかも言ってないですし、妹さんを彼女と勘違いした挙句に先輩に酷い態度取るような人なんて、先輩が許す訳ありません!そんな冷たい人からの電話なんて出る訳ないじゃないですか!」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
言ってしまった……
聞きたい疑問も不満も、会長の事なんて先輩は相手になんてしないことを
ざわざわ ざわざわ ざわざわ
まるで教室の中心で私を取り囲む男子達の事を思い出すかの様な喧騒に、一瞬で冷静さを取り戻した
「あっ…会長……ご、ごめんなさーーー
顔を上げると、会長はただ涙を流して儚げに微笑んでいるだけだった
「えぇ…きっと……きっとそうよね…」
ざわざわ ざわざわ ざわざわ
わらわらと集まって来た人達が私達を見つめる中、私はこの状況をどうすればいいのか分からないでいた
「たいさんたいさーん!ほら二人ともいこー」
「「あっ」」
こんな時に手を引いてくれるせいらちゃんを、私は大事にしたいと思った
♢♢♢
「はぁ…駅は出たけどさ〜、もう暗いから先に帰るねー」
「「…………」」
「……はぁ…二人は仲直りして帰ってね。んじゃ」
「「…………」」
葬式みたいな空気に耐えられなかったのか、せいらちゃんは足早に帰って行った
「「………………」」
ただ私と会長の間には沈黙が流れるだけ。でもこうなったのが誰のせいかなんて分かってる
私が謝らなきゃだ
「か、会長…酷い事言ってホントにごめんなさい」
「……いいのよ。気にしないで…」
たったその一言だけで、会長はふらふらとした足取りで私から遠ざかっていった
「あ、あの!…」
会長は呼びかけてもまったく止まる気配がない。ここは先輩に任せた方がいいのかも…
♢♢♢
『おかけになった電話番号は電源が入っていないか、電波の届かない場所にーーー
「…でない……もう何度も掛け直してるのに…」
アパートに帰って、何度も電話を掛けているけど、蓮くんは全く電話に出る気配がない
『そんな冷たい人からの電話なんて出る訳ないじゃないですか!』
「やっぱり西城さんの言った通りなの?…私のこと嫌いになったの?……蓮くん…」
ベッドの上でアヘ顔クッションを抱きしめて、溢れる涙をクッションに押し付けながら眠りについた




