7話 ギネス保持者
俺は生徒指導室の硬い椅子に座っていた。まぁ当然だが
そこには厳しいが思いやりのある表情の毛梨先生が椅子に腰かけて待っていた
生徒指導も担当してんのかよ……
「まずは、今日の昼休み誰といた?」
まずは?………まずはってなんだ。
「あぁ…まあ、転校生と居ました…」
「転校生に脅しを掛けるような言葉を大声で言わなかったか?多くの人間が佐藤ではないかと言っている。そうなのか?」
脅しなら隣の席のアイツにも言ってんな俺。
「まぁ言いました…」
「はぁ…佐藤。そんな事言っちゃいかんだろう。いいか、男ってのは突然女の子を好きになる生き物だが女の子は時間が掛かるんだぞ。ましてやコレはコメディー作品だぞ」
………ん?めっちゃメタ発言じゃないか?それ
「うっす…」
「それが気に食わんなら突然女の子に恋愛感情が芽生える恋愛ジャンルの方を…じゃなかった。とにかくおまえにとっても最後の青春だろ?ゆっくり過ごせ」
「はい…」
毛梨先生は俺の左手を見てそう言った。ほとんど指導になっていないが、それでも言いたい事は分かった
「あとプロになったらサインくれ」
「………え?」
「先生もおまえの試合を見た。ギネス記録に載るのも頷ける。だが……アレだな」
「アレとは?」
「もう金輪際どの国にも産まれないだろうな……先生も若い頃にお前と同じ競技をやっていたから分かる…」
「そうっすか…」
そこまで俺の事を評価してくれるとは……素直に嬉しかった。その為か、気付いたら自分の左手を見つめていた。
動かす事は出来てもまだ少し、握ると痛い…
この一年間の休養期間だけは楽しく平和に過ごそうと決めている。俺の夢の為にも。
「それと、分かったならちゃんと謝って来い。高校を卒業したら関わる事はないが、それでも謝るべきだ」
アイツの為にやった行動で、俺が謝るのは癪だがまぁ仕方ない
「……わかりました。ちゃんと謝ります…」
毛梨先生は俺の返答に満足したのか椅子に深く腰掛けたままニッコリしている。
「お前のこれからの未来に期待している。それと話は変わるんだが…」
「はい?」
ここに来て不穏な気配がするわ
「進路について話すつもりはないから安心しろ。部活もやれとは言わん、ちょっと頼みがある」
そう言って机の引き出しから、手書きの地図を取り出す。もう私物化してないか?引き出し
「駄菓子屋だ。古民家をそのまま使っててな。もうかなり年季が入ってる」
「へえ……けど、それと俺になんの関係が」
俺にバイトしろって言ってんのか?…察しはつくが自分から言うわけない
「実はそこに今、一人だけ高校1年の女の子が入ってるんだが……まあ、癖が強くてな〜。新しく入るバイトが続かない。今まで5人辞めた。どれも初日でな」
「……それと俺になんの関係が…」
「……俺の言いたいこと…佐藤なら分かるな?」
椅子に座って俺を見つめるその瞳はまるで懇願するかのようだった。スキンヘッドの懇願なんて俺は今まで見たことがなかった…ので見入ってしまった
「なぁ頼む佐藤。俺の友人が困ってるんだよ」
「……まぁ…やりますわ」
良いもの見せてもらったしな
「バイトの子は仕事は真面目だし、店はきっちり守ってて子供にも人気はある」
「へえ…すごいっすね」
「お前の冷静な頭ならイラついても何とかなると信じてる。俺はすぐ冷静さを欠いてしまうからな…いい子なんだがもう2度と会いたくない」
教師がそこまで言うのかよ。しかもイラつく?…
ヤバいぞ嫌な予感がしてきた…降りよ
「やっぱりやめ「そいつはいつも休憩時間になると、裏の部屋のソファに座ってずっと膝抱えてんだとさ。バイトがすぐ辞める原因は自覚してるみたいだ……」
はぁ…しょうがねえな。孤立ちゃんの相手してやるか。歳下の相手は慣れてるしな
「……了解。まぁやるだけやってみます。俺がすぐ辞めても文句はなしでお願いします」
「ははは!期待してるぞ。あの店の裏には、古いソファとちゃぶ台がある。お前が座る場所もちゃんとあるからな」
「はい」
「今日早速行ってきてくれ!では解散!」
「…まじか」