69話 鬼が来た
「…………」
アヘ顔クッションを抱きしめる九条に声を掛けて暫く経つが、無言で俯く時間が続いている
「えーと、大丈夫か?…」
俺達は未だにUFOキャッチャーの前に棒立ちだ。そしてこの空気もあまり良くない気がする…
「……蓮くん……」
もしかして甘々の九条は今日で見納めなのか?…
「なんだ?」
俺の時だけ態度が柔らかいと鎌田くん達が言うもんだから、これからもそうであって欲しかったが…
「愛梨さんのこと……大事なの?…」
何故か愛梨のことだった件
「まあ、そりゃ大事だな」
妹を大事にしない兄なんてそうそう居ないはずだ
「………そう。大事なのね…」
さっきとは違い、声音すらも段違いに沈んでいた。まるで生きる気力を失っている様にも見える
「そんな事より大丈夫か?体調悪いなら休むか?」
「そうね……体調が悪いから、今日はもう帰る事にするわ…」
それだけ言うと、九条はふらふらとした足取りでエレベーターに一歩、また一歩と脚を進めていった
「待て待て、送っていくに決まってんだろ」
流石にそんな状態で放っておける程、俺は人間終わっていない
「大丈夫よ…今は少し、一人になりたいだけだから」
「いやそうは言ってもな。ふらふらじゃねーか」
俺が引き留めようと肩に触れようとした時、思いがけない事に九条は俺の手を振り払った
「一人にして欲しいと言ったわ…」
どうしてこうなったのか分からないが、九条の目つきは俺以外の人間と話す時の鋭いものに変わっていた
何故こうも女の子という生き物は突然不機嫌になるんだ?…俺には分からんぞ…
いや、九条がそーゆうなら放っておけばいいか
「そうかよ….…」
でも歩く後ろ姿がふらふらで目も当てられないんだよな。…いやそもそも見るべきじゃないな…
「はぁ…反対側から帰るか…」
ピロンッ
俺が歩き出した時、スマホの通知音がした。スマホを開くとRINEは黒瀬からだった
黒瀬
『明日は私の家で勉強する?時間は何時にしようか?』
「………マジか黒瀬の奴……」
ちょっと頭を撫でた程度の俺を家に招くとかどんだけガードガバガバなんだよ……
いよいよ本格的にこの子が心配になってきた…
てかバッテリー残量が1%しかない。サクッと返信するか
『明日は近くの学習図書館でいいだろ。時間は13時くらいで』
学習図書館はホントに便利だ。学生が勉強する為の環境が揃えられている
ピロンッ
『それなら桜丘学習図書館だね。お昼ご飯はどうしようか?』
なんかRINEだと全然別人だな。どもったり、指もじタイムが無いからか…
「あー……バッテリー無くなった……」
返信しようとしたら、結構大事なところでRINEが途切れた。……まぁ家帰って充電すればすぐか…
「そもそも桜丘学習図書館ってどこだ?……」
暫くして駅を出たが、学校まで自転車を取りに行く気分になれず、俺はそのまま帰路に着いた
「…俺の初デートは失敗という形で終わったな。間違いなく」
まぁ…これも学びってやつですかね…
♢♢♢
「誰が泥棒猫だってんですかぁー!」
掛け声と共に全力でパンチングマシーンを殴った。もちろんあの時の事を根に持っているから
私は今、桜坂駅のゲームセンターに来ている。ここは帰るついでに寄れるのがホントにいい
「のあちゃんってキレてる時も敬語なんだね〜」
近くの壁にもたれ掛かって話しかけてくるのは、先輩がレイパー扱いされた時に友達になった子
名前は川島星羅ちゃん
いつも軽いノリでテキトーな事を言う星羅ちゃんは、ノンデリだけど裏表がなくて相手をしててラクだと私は思う
「私はもう敬語が癖になってるからねー」
「まぁそこはどうでもいいや!てゆーかのあちゃんまだやんの?はやく帰ろー!」
聞いといてどうでもいいって言うなんて。星羅ちゃん。……私は悲しいよ
「もうちょっとだけ殴らせて。まだスッキリ出来てないから」
あの時の私は店員であったのと、頭に水を垂らした事で完全に飲まれていた……
あの悔しさを、私は目の前のコレにぶつけている
「………や、ヤバいよ……もう帰った方がいいよのあちゃん…」
星羅ちゃんはぷるぷる震えながらそう訴えてくる。もしかしたら私の気迫に押されているのかも?
つまり今の私は誰にも止められない!
そして私にはもうひとつ不満があった…
バイト中に誰もお客さんが来ない時、先輩の話がほとんど妹さんの話だったことだ
「愛梨愛梨って!いい加減うるさいんですよー!」
ドンッ!――勢いよく拳がボール状のターゲットに命中して私の心はかなり軽くなった
「126…はぁはぁ…私の新記録……更新…」
「のあちゃん今すぐ帰ろ!ほらはやく!」
星羅ちゃんは私の腕を引っ張って、ゲーセンから連れ出そうとしてくる
「ちょちょ!星羅ちゃんってば!」
「ささ!かえろかえ「待ちなさい貴女達」
…ん?この凛とした綺麗な声。私はどこかで…
「ぎゃー!鬼が来たー!」
そんな言葉に反応して振り向くと、星羅ちゃんは私の腕を掴んで震えていた
「私は鬼じゃないわよ。そんな事よりさっき気になる事を言っていたわね?」
「え……生徒会長?……」
私の目の前には生徒会長が居た




