6話 世話の焼ける後輩
屋上へ続く最後の階段を登りきると、鉄の扉が鍵で閉じられていた。
ここの狭い踊り場には陽が差し込んでいて、心地よい……ので早く座りたいんだが…
「そんなところで突っ立ってどうした?」
「……そこは人気が全くないです…」
俺の左手のサポーターを見据えながらそう言っている。まさか俺が誰なのか気付いているのか?
「だからいいんだろ?」
「……いえ、先輩がどういった人間なのかまだ分からないので辞めておきます。私では手も足も出ないくらい、先輩は鍛えてらっしゃるので」
こりゃ驚いた。いや、コレが普通か…
だがコイツの見た目は如何にも遊んでそうって感じだが…人は見た目で判断しちゃいけないってのを学んだわ
小悪魔後輩が俺の分析をしている様に、俺もコイツを分析していた。高校に入って部活動以外で初めて人に興味を持ったかもしれんわ…
「な・の・でぇ〜!ココで食べますね?」
真面目な表情はすぐに消し飛んで、小悪魔後輩は階段の一段目に腰を降ろして背を壁に付けてニッコリとしていた。
「名前は?」
もうコイツをメスガキと心の中で呼ぶのは失礼だと思った。少なくとも高校2年生とは思えないくらい軽率な行動をしない、慎重な人間だ。
俺の中で一種の尊敬の念のような物が芽生えた瞬間だった…
「西城乃愛でーす!ようやく興味持ってくれて嬉しいですよ。ざぁこなせんぱぁ〜い?」
このメスガキがぁぁぁぁ!
俺は座り、パンをもしゃもしゃしながら頭の中でメスガキ呼ばわりしていた。
「で、西城…「待ってください!」
「ん?どした?」
俺がなんの気もなしに聞くと、頬をぷくっと膨らませて俺を見つめてくる。まるで何かを訴るかのように、はよ気付けみたいな
「フグ目指してんのか?」
「ちがいましゅ…」
「なんでもいいけど弁当食べた方がいいぞ…」
それから弁当箱を開ける西城を俺はじーっと観察していた。茶髪にうっすらピンクのメッシュが光に透けている
「弁当手作りなのか?」
「まあ…はい」
小さなサンドイッチをつまみながら、返事をするがまた不機嫌になっている……
コイツどうした…分からん
「……こういう場所、よく見つけましたね」
「昨日校内案内してもらった時にな、おまえも案内されたろ?」
「…てへっ!断っちゃいました!」
「…いや、断るなよ。おまえ友達すぐ出来るとか言ってたけどもう危うくなってきてんぞ」
俺がそう言うと、口に近づいていた卵焼きが端からポロッと弁当箱に落ちる。
まだ私不機嫌ですってアピールしてるのかと思ったけど違うな。顔も沈んでいって何かを思い詰めた顔になる。
「……友達が欲しいです…」
「じゃあなんで断ったんだよ?」
「………えっと…全員男だったんで…」
「…………」
極力だが、男と2人きりにならないようにしてんのか。それだけじゃない、周りに同性が寄ってこないのか……だがこんなに男ウケ狙った見た目してたらムリだぞ
「はぁ…おまえが欲しかったのは同性の友達だったのか。転校したら人間関係リセットできるしいけるだろって思ったがムリだったってそんな感じか」
珍しく俺がこんなに喋ってんのに弁当食いながらコクリと頷くだけだ。
だが疑問が浮かんだ。コイツが恐ろしい程にガードが硬いのは理解したが、俺も男だが?……
「なぁ俺も男なんだが…」
俺がそう言ってもモグモグと顔をパンパンにしてご飯を食ってやがる
「へぇんぱいはへりがし「食ってから話せ」
「「…………」」
パンパンな頬が萎んでようやく口を動かした
「最初に出会った時、あまり私に興味がなさそうでしたので。後、………」
「後?…」
ちょうど弁当を食べ終えて、箸を指先でそっと弁当箱の上に乗せて硬直する…
「………ぱんつ…」
「え、なに?」
全く聞こえん。ウィスパーより聞こえんくてびっくりした
顔を赤く染めて、瞳は覚悟を決めた人間のそれになる。その瞳はまるで、俺が試合に臨む時のそれだった。
何を言うつもりなんだコイツーーー凄い覚悟だ!
「パンツ脱がすって言われたのでぇーーーー!!」
目を瞑って大声でそう叫んだ。そう…大声だ
「おい!声デけーよ!感情のコントロールくらいしろよ!」
すると突然ザワザワと校舎から音がする。多くの人間の噂話が1つの意思にのようなになっめ俺の耳に届いた事をすぐに理解した。
ーーーちょっと待て
西城の声は結構特徴的だし、多くの人間が気付いたかもしれん。俺が西城のパンツを脱がすくらいの関係性だと誤解している奴も出てくるだろう。
お前分かってんのか…転校初日で股が緩い女って認知になるんだぞアホか
女友達どころかワンチャンあると思って毎日おまえに男共が擦り寄ってくるんだぞ
「いいからさっさと脱げえー!」
俺がそう叫ぶと西城の体はビクッと跳ね、そのままそこから逃げ出した。
多くの人間が屋上に向かう俺達を見ていた為、
この日を境に俺の仇名はレイパーになった。
はぁ…マジで世話が焼けるわ