57話 やっちゃった
♢♢♢
少し前。先輩が二人の女の子の接客をしている時の、私の心境を話そうと思います
結論から言うと、私はかなりイラついている
1週間一緒にバイトをしてきて、先輩の事が段々と分かってきているからだと思う
先輩はお金を落とすお客様に対してはホントにしっかりしている
店長も"助かっているよ"ってよく私に言ってくる。小心者だから、先輩には言えないだろうけど……
だからこそ接客態度をバカにするのは許せないし、ましてや先輩はもしかしたら…
佐藤蓮っていう凄い人かもしれないし…たぶん…
「「はーい」」
席の方から返事が聞こえて、私は視線を再び2人に向けた
金髪の子は身長が低いわがままボディのあの子。ウチの高校の校門で見かけた子だ
先輩のブレザーを上着にして、自転車の荷台に乗って大声で叫んでたから覚えてる
もう片方の子は初めて見る子で、少しだけ先輩に似ている気もする?…
それから少ししたら先輩が厨房までやってきた。接客態度をバカにされて怒ってるかと思ったけど……
先輩は怒ってなかった。私は先輩のことをバカにされて結構ご立腹なんですが……
「はぁ…」
ため息を吐いて先輩のことを見つめていると、先輩はすぐに口を開いた
「どしたん店長。話聞こか?」
「いや、何がそんなに面白いのかなってね…」
よかった。そう思ってるのが私だけじゃなくて。店長も先輩をバカにされてご立腹だったんですね…
「いやまあ……そっすね」
でも先輩は本当に気にしてなかった。それどころか揶揄われる事に少し慣れている様にも見えた
「あ、お客さんに水出してき「せんぱぁ〜い!私が行きますよ〜!」
「ん?なんでだ?」
そこまでバカにする理由が聞きたいからです
「最終日くらいは接客したいなって思ってたんですよ〜!たまには先輩もゆっくりしてて下さいね?」
「えっと…そ、そうか。ありがとな」
少しだけ困った顔をしてるのはなんでだろう?
「いえいえ、気にしなくて大丈夫ですよ〜」
「おう」
先輩はそう言って、カウンターにもたれ掛かって目を閉じた
OFFモードに入るの早すぎませんかね!?
まぁいいです。とりあえず水を出さなきゃなので…
私はすぐに2人分の水をコップに注いでお盆に乗せた。それからゆっくりと席まで足を運ぶ
歩きながらチラッと後ろを振り返ると、先輩はウトウトしていた
…少しだけ可愛いかもしれない
「お水ありがとうございます!」
「ありがとね〜」
先輩を見ている場合じゃない。とりあえず接客態度をあんなバカにした理由を私は知りたい
「あの、お客さ「ねぇねぇ〜今どこ見てたのー?」
「えっと…なんの事ですか?…」
「あーちがうや。正確には誰の事を見てたの?」
「同じバイトの人を見ていました。それよりもお客様。先程はどうしてあんなに笑っていたんです?」
敢えて圧を込めて、見下ろすように言い放つ
それにしても金髪のこの子……近くで見るとお人形さんみたいに可愛い。化粧はしてないのに…
「…は?それよりも?それよりもって何?意味分かんない。あと知らないなら教えてあげるけどさ〜」
教える?何を?……ううん。そんな事より話が脱線してる気がする
「ほらあれ」
金髪の子は、腕を組んで目を瞑ったままの先輩を指さしてそう言った……
「えっと、えっ?先輩が……なに?…」
「あれルナのだから。勝手に触ったりするの禁止ね。あっ!あとマーキングももうしちゃダメだよ?」
マーキングももうしちゃダメ?まるで私がそんな事をした様な言い方ですね…
「ルナちゃん。そ、そーゆう事を外で言うのはやめた方が……」
「えっと、どーゆう意味ですか?…」
さっきからこの子が変な事を言うものだから、胸の奥がザワザワしてる…
「えぇ〜分かんなぁ〜い?バイト初日でルナのモノ
に触ったでしょ〜?もう触んないでねぇ〜?」
「先輩はモノじゃありません。取り消して下さい」
「ルナの話聞いてる〜?返事くらいしたら〜?」
「あ、あの2人とも…落ち着いて…」
「先輩の接客を笑ってバカにするような人間に返事なんてする必要ありません」
「別にバカにしてないし?普段とのギャップっていうのがあるでしょ〜?…あっ!店員さんは普段関わってないから分かんないかぁ〜ごめんねぇ〜」
「普段から関わっていたからこそ、先輩がバカにされたのがイヤなんです。先輩に謝って下さい」
「なんで彼女気取りなの〜?泥棒猫のくせに〜」
「ッ!…」
『ウチの彼氏に色目使うのやめてくんない?泥棒猫かなんかなの?』
『おまえ男に媚びってんなよ』
『どうせ男に体売って守ってもらってるんでしょ?』
ほんの一瞬、転校する前の学校で耳にした言葉が聞こえた気がした…
気付いたら私はテーブルに置いたコップを手に取って、金髪の子の頭に勢いよく垂らしていた
ビチャビチャビチャビチャ
♢♢♢




