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38話 おねんね

♢♢♢


休憩室の引き戸を開けて西城を中に入るよう促す


「どうぞ、西城さん」


「えぇ〜!先輩ってば気が利きますねぇ〜」


めっちゃ上からやんけコイツ。接客数の差でここまで大きく出るか?…


いや、違うな。俺なら怒らないと信頼してくれているんだろう。だからこんな態度のはずだ、たぶん


だが流石に説教したんねん…


おまえが勤務時間中に俺を見捨てて休憩室に避難していた事をな。何があっても許してやらん


西城は休憩室に入るなり、突然ソファに腰を下ろした。………いや帰る準備しろよ


「少しお話ししませんか?」


「さっさとエプロン取っとけ」


エプロン取ってくれたら説教してサクッと帰らせて終わりなんだがなぁ…


「えぇ〜先輩は寝てただけじゃないですかぁ!いいじゃないですか〜!ぶぅ〜」


頬を膨らまして抗議とか…完全に調子乗ってやがる。今はそれやめろ。…あかんイライラしてきた


こんな奴は無視してとりあえず自分のエプロンをロッカーの中に閉まう


「先輩ってば聞いてますか〜?」


「はぁ……先に手洗ってくる。念入りにな」


「念入り?なんで念入りなんですか?…」


ビキビキと青筋が立ちそうですわ。ジジイの肩をアホみたいに長時間掴んでて気持ち悪いからだよ


「いや、おまえな。…俺がどれだけ「早く行って来て下さ〜い!」


コイツゥ……手洗いから帰って来たら絶対に泣かす。そんでもって投げ飛ばす


「………分かってんよ…」



♢♢♢



「よいしょ」


ゆっくりと休憩室の扉を開けてただいま


すぅ…すぅ…すぅ…


「いや寝てるし…」


うん。こんな短時間で寝れるとかめっちゃ羨ましいな。初日だから疲れたんだろうか


だが俺は容赦しない。叩き起こして説教だな


引き戸にある鍵穴に鍵を差し込んで鍵を閉める


カチッ


うおっ!結構音デカいな。ビビるわ


俺怒ってます的な感じを出して、雑な足取りでソファにもたれ掛かった西城の前まで歩く


「おい起きろ。…説教の時間だ…」


すぅ…すぅ…すぅ…


うんめっちゃ寝てる、ぐっすりんこ。だが一言でも言わないと気が済まないんだよな……


いや、そもそもこんな短時間で普通寝るか?寝たフリじゃね?……


「ホントは起きてるだろ。起きろやコラ」


すぅ…すぅ…すぅ…


反応なし。しかも凄い静かだ。外の音もほとんど聞こえない


だからなのか、安らかに寝息を立てている。うーん、なんかもうどうでもよくなってきたな……


ソファに腰を下ろして、隣に座る西城を抱き寄せて頭を撫でた


え?なんでこんな事してるかって?説教の代わりに報酬を貰うことにしたってだけだな


「ったく。説教する気失せたわ……お疲れさん…」


甘ったるいシャンプーの匂いを感じながら、ゆっくりと頭を撫でる


抱き寄せた西城の寝顔を見ると、安らかに眠っているが、ほんのり顔が赤くなっている気もする


いや、気のせいか?てかやばいな俺も眠くなって来た。ちょっと寝よ…抱きしめたままだけどいっか


キレてきたら逆ギレすれば問題ないだろ。それにしてもいい抱き枕だ。もっと深く抱きしめとこ

 

「あぁ…柔らか…至福…」



♢♢♢



何を隠そう、私は起きている


私は気付いていた。あのくっさすぎるおじさんから逃げ出した事に対して先輩が怒っていることに


いや、多分私が同じ立場でも怒る


接客している人間が1番被害を受けてるのに、厨房の人間が避難とは何事ですか!?って感じに…


でもあのおじさんが悪い。なんたって臭いし…


あとそれだけじゃなくて、ちょっと煽ってもみた。イライラしてるのに私が寝てたらどうするのかなって


襲われたらどうしようかと思ったけど、結果は怒りを鎮めて私に労いの言葉を掛けてきた


試した甲斐があった。先輩は他の男達とは違う。いや、投げられた時に薄々気付いてはいたけど…


そもそもここまで男の接近を許したのは人生で初めてなんじゃ?…


なんでここまで許してる、どうしたの乃愛?


「あ、あの〜…起きてますか?……や、やば…」


やば。いい匂いがする。いや、正確には私の好みの匂いがする。この人は気付いてないと思うけど…


初めて会った時に自転車の後ろに乗った。あの時、すぐに私の好きな匂いだって気付いて距離を縮めた


「あの時の反応からして、私が距離を縮めたことには気付いてましたね…」


それにしてもあんな雑な態度を取ったのに話しかけてくれるとは思わなかった……


「ふふ。しょうがないから触らせてあげますよ…今回だけですからね?」


あんな態度の私に価値はないと思ってたけど、先輩にとってはそうじゃないみたいですね


先輩が背中に手を回して抱きしめるなら、こっちは首に腕を絡めておねんねします…


「少し…報われました…」


すぅ…すぅ…すぅ…


すぅ…すぅ…すぅ…


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