37話 閉店
「早く持ってこんかい若造。待ってやってるんだぞ。おん?」
俺が西城へのお仕置きに闘志を燃やしていると、くせぇジジイが煽って来やがった
「暫くお待ちください…」
さっさと食わしてさっさと帰らす。それに限るぞこんな奴
「…ん…」
店長はその一言で、焼き色のついたトーストとコーヒーをお盆に乗せて俺に手渡してくる
「あいよ、ありがと」
もう友達感覚になってきたな、まぁいいか
「はよぉ持ってこんかい」
ウゼェ…このジジイをなんとかして分からせられないものか…二度と来ないようにさせなければ
無視を決め込んでお盆を両手で受け取り、そのまま席まで歩いていく
バターがトーストにとろけて染み込んだ匂いが俺にとっては唯一の癒し。俺は今から地獄に向かう
「はいよジジイ…食ったら速攻帰れ」
「言われなくても帰るわい。おまえみたいな若造が居たらメシも不味くなる」
それ俺のセリフなんだが…コイツは自分の悪臭に自覚がないのか
「なぁジジイ、おまえ臭い」
そう言って机にトーストとコーヒーを置いてやる
「ここの店長もそんな事いっとったの。匂いなんて人それぞれじゃて。気にするでないわい」
コイツゥ…自分の匂いで嗅覚がイカれちまったのか?人の発する匂いに関心が無さすぎる
「ジジイ、他人の匂いを感じたのはいつだ」
「今まで黙っておったが若造。歳上にはもっと敬意を「早く答えろよ」
「………忘れた。匂いはもうしない」
やっぱり嗅覚がぶっ壊れてたか。だがどうやったらここまでの悪臭を放てるんだ
「おまえ風呂入ったのいつ?」
「最後に風呂に入ったのは…3年前じゃ。もうどうでも良くなったんじゃ。確か……そうアレは「もういいや食え」
「………言われんでも食うわ」
回想に入ろうとしやがって。させるかっつの
だがコーヒーはゆっくり飲むだろう。それまでココに居んのかよ俺……
くちゃくちゃ
「…………」
くちゃくちゃ
「………なぁ、奥さんに食べ方とか匂いとか注意されないのか?」
ジジイはトーストを食べ終え、それから一息入れた後にコーヒーを口に運んだ
「はは、3年前はよく注意されていたものだ。だが今はもう……そう、確かアレは「いいから飲め」
回想に入ろうとすんな。経緯聞いてもいい事ないしな
「帰ったら風呂入れよ?毎日風呂入れ。そしたらここに来ていいからさ」
「……わしの回想話を聞いたら風呂に入ってやる」
「え?…」
コイツ…この歳でなんて事いいやがる。風呂くらい言われなくても入れよ
「おまえ…ただ寂しくて話相手が欲しいだけじゃねえか」
「……知らん。前座れ若造」
病院が混雑する原因の多くがコレだ。コイツも混雑に貢献するタイプだな
「ハァ…わかったよ……聞いてやる…ゔっ」
鼻が壊れる。…クッソなんで俺がこんな目に
「そう…3年前…確かアレはーーー
♢♢♢
「起きて下さ〜い、せ〜ん〜ぱ〜い〜?」
揺ら揺らと体を揺さぶられて意識が徐々にだがハッキリとしてくる……え、誰だ?
気になって机に突っ伏していた顔面を上にあげた
「先輩ってば何寝てるんですか〜?ダメじゃないですか!勤務時間中におねんねだなんて!」
「…………」
寝てねーよ。人間ってのは防衛本能で意識飛ぶんだよ……悪臭もそのうちのひとつだっての
「聞いてますか〜?先輩がおねんねこちゃんしてたせいで今日は私が接客したんですよ〜?」
「…………」
おまえは休憩室に避難してただろうが…俺はバケモノと戦ってたんだぞ。何度吐きそうになったことか
「客は何人来たんだよ…」
「2人です!先輩より1人多いんですから、感謝して下さいね!えっへん」
あのジジイ1人の方がよっぽどハイレベルだっての。100人分のインパクトはあったぞ…
「…そうかよ。で、今何時だ」
「16時。もう閉店時間です」
そんなに意識ぶっ飛んでたのかよ……相当体にダメージ受けた証拠だな
「片付けすっか…お?」
厨房で既に店長がコーヒーメーカーを洗っていて、ガスの元栓をしっかり締めていた
帰る気まんまんだな。手伝うか
「よいしょ」
椅子から立ち上がってモップを取り、床のパンくずを払い落としていく
俺が視線を西城に向けると、ガラス戸を静かに閉めていた
「今日はお疲れ様。では戸締りよろしく」
「「え?」」
店長はそう言って鍵を俺に渡し、厨房の隣にある
小さな引き戸を引いて階段を上がって行った
あんなところに引き戸なんてあったのか。壁と同化してて分からなかった
「なんだか隠し通路みたいですねぇ〜!凄いです」
いや、おまえは今から休憩室でもっと凄い目に遭うけどな
「休憩室に荷物取りいくか……」
「は〜い」




