26話 ぺんぺん
「なぁ西城、スマホしまってくれ」
「……………」
暗闇の中、椅子に座ってスマホのホーム画面を見つめている西城が居た
他の生徒と違っていじってる訳じゃないのが怖いんだが…どうしたんだよ
それとほっぺは元の大きさに戻っていた
「おーい、聞こえてるか?スマホしまってくれ」
目の前で手を振ってもなんの反応も示さない。完全に無視を決め込んでいる
「次に行けないんだが…」
「……しまってほしかったら謝ってください」
「すまん、本当ごめん。スマホしまってくれ」
反応あるだけで一歩前進だな。元気はなさそうだが
「何に対しての謝罪なのか分からないのでイヤです。先輩はなんだと思います?」
そんなのひとつしかない。投げ飛ばした事だろう。もしくは体を触ったことか……いや両方か
「投げ飛ばした事だよな?申し訳なかった」
「……はぁ…まぁ、いいですけど」
ふぅ、下手に出た甲斐があったな。コレで次に…………ん?
「スマホしまってくれるんじゃないのか?」
「やっぱイヤです。もうちょっと付き合って下さい」
くっ!俺の立場弱すぎだろ!知り合いでもなんでもなかったらドン引き発言で終わらせられるのに
「はぁ…分かったよ。で、何か言いたい事でもあるのか?」
「その、えっと……アレです。先輩って私に興味あるかないかで言うとどっちですか?」
あるかないかと言えばある。異性としてよりも、人としてのほうが興味はあるが
「ある」
「まぁそうですよね〜。そうじゃなきゃ“綺麗“なんて言わないですもんね〜?」
「うんうん」
相槌作戦で行くか。満足するまで肯定しよ
「これからも私に構って欲しいですもんね〜?」
「うんうん」
「私のこと好きだけど、素直になれなくて冷たくしちゃうだけですもんね〜?」
「うんうん」
「うん?……………私とお付き合いしたいですよね〜?」
「うんうん」
「ちょっと!話聞いてないですよね!?」
「うんう…いや、聞いてるが」
危ない、完全に頭飛んでた…
「はぁ……もーいいです。次投げ飛ばしたら先輩とはお話ししませんからね!いいですか?」
そう言ってスマホをしまってくれた。ようやくか
「分かったよ。ごめんって」
そう言って西城の頭を撫でようとしたが、掴まれて阻止される
「せぇ〜んぱぁ〜い!それはまだムリじゃないですかぁ〜?」
「口調と動作が合ってないぞ」
相変わらずのガードの硬さだな。黒瀬にも見習ってほしいくらいだ
しかし何故ここまでガードが硬いのか。少し気になってきた
「友達だと思ってたのは俺だけか。寂しいもんだ」
「むぅ………私が屋上の階段で不機嫌になったのはなんでだと思います?お友達なら分かりますもんねぇ〜?ねぇ〜?」
急になんだ?
確かにあの時、突然不機嫌になったのを覚えている。理由は……
「おいツンツンすんな」
気付いたら袖先をツンツンしてきて考えが全然まとまらない。悪意マシマシだな
「えぇ〜?いいじゃないですかぁ〜。ホントは嬉しいんじゃないですか〜?」
「よいしょ」
ツンツンされている隙を突いて頭に手を伸ばす。意地でも撫でたんねん。ふにゃふにゃにしてやる
「あっぶぅ!」
咄嗟に反応して腕を掴み、俺を睨み付けてくる。かなり早く腕を伸ばしたのに凄いな……
「あ、あの……そんなに私に触りたいですか?それより答えは出ましたか?」
「触らせてくれたら答えるわ」
「っな!…それは卑怯すぎます。ヤバいですよちょっと…」
「触られたくなかったら教えてくれ」
「はぁ……もうしょうがないですね。あの時私が自己紹介した時、ホントは先輩にも「グゴオォォォォォォォォ」
「ん?なんの音だ?」
いびきか?2年の端の席から凄まじい音が……
「じゃ、行くわ」
「え?あっ……ちょっと!」
スマホしまってくれたから次だな。そうだ、居眠りも対象に入るのを忘れてた
そのまま2年の端まで歩いていく
「おい起きろ」
椅子に座って腕を組み、大きな騒音を撒き散らしている坊主の生徒の前に立つ
…うん、椅子に座ってても分かるくらいにデカい
「隣の2年君。この寝てる人、なんて名前だ?」
隣のちょっと地味だけど守ってあげたい感じの男の子に聞いてみた
「ご、剛田努くん…」
「ありがとう。おい起きろ剛田」
頬をペシペシと叩くが全く反応がない
俺が剛田の頬を叩いていると、周囲がどよめきだし、ボソボソと囁くように声が聞こえてくる
『あの3年終わったな…』
『剛田に血祭りにされて病院送りだわ』
『また名前聞けなかった…』
剛田は2年でも恐れられていると見た。柔道部かなんかか?…うん、どうでもいいな
「おい起きろ」
バシィィィン
今度はビンタしてみた。かなり強めだ。そしてそれと同時に周囲からのどよめきが大きくなる
ざわざわ ざわざわ ざわざわ
そんな喧騒の中、ようやく剛田は目を覚ました
「………あん?誰だおまえ。表出ろや」
「喜んでついていくよ剛田君」
♢♢♢
「では、以上をもちまして、生徒総会を「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!いいケツしてんじゃねえか剛田君よお!」
バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ
「コホン、失礼。以上をも「おゔおゔおゔヴぉ〜ッお゛ゔびいぃぃッ おゔおゔおゔおゔおゔおふぅうぅぅぅぅぅぅぅんん゛ごぉぉ!!」
「「「「「………………」」」」」
静まり返る体育館の外で、俺はひたすらにお尻ぺんぺんしていた
そして俺は生徒会 副会長をクビになった




