17話 疲れ
「…しんっど……」
昨日は、俺にしては早い時間に寝たはずなんだが…
いや、脳に疲れはない。深い眠りについた証拠だろう。だがベッドから起き上がる気力が出ない…
正直まだ寝ていたい……あー…手帳拾ってなかったらまだ寝れたんだけどな。拾うんじゃなかった
♢♢♢
「おはよ〜ざこにぃ。そーいえば今日はなんで早く学校いくのー?」
…睡眠でこんなに疲れが取れないなんてことあるのか?まるで体から活力を根こそぎ吸い付くされた様な感覚だ
「……ん?まぁ気分だな…」
食卓テーブルの椅子に座って、愛梨にそう返答するが心なしか反応が遅れる
手帳をアイツの机の下にそっと置くとか言えない。俺の勘だが、朝早く学校に来て手帳を探すだろう
つまりアイツが落としてそのままだった感を出したいんだよな。正直なところ酷い事も言ったし、あまり刺激しないで穏便に済ませたい……今はな
「そーいやルナは?」
「ルナちゃんなら今さっきでたよ〜。すっぴんでも超可愛いかったなぁ。ざこにぃ起こして来るって言ってたけど見なかったの?」
「ん?あぁ…見てない」
ルナの奴、起こすならちゃんと起こしてくれよ。変な事してないだろうな
「なんかアイツおかしな所あったか?」
俺がそう言ってもキョトンと首を傾げるだけだ。メスガキ度5%もないぞ大丈夫か
「んー…ざこにぃの部屋から戻って来た時、腹抱えてめっちゃ笑ってた」
「ええ…俺なんかおもしろい事でもしたか?」
笑うのはちょっと酷くないか…
「でももう分かった。顔がめっちゃゲッソリしてるから…ププ………かな?」
「…そうか…っておまえも笑ってんじゃねーか」
寝る前はあんなにツヤツヤだったのに……もっかいルナでも投げ飛ばすか
「はいお待たせ〜」
そのまま話している内に、愛梨がご飯をよそってくれて、カリッと焼けたベーコンに甘い香りの卵焼きと焦げ目のついたウィンナーを並べてくれた
「頂きます」
「はい、召しあがれ〜」
今度の土日くらいは俺が作るか。いつも悪いしな
「あ、そうそう。ルナちゃんから伝言なんだけど」
「ん?…」
アイツまだ何かあるのかよ
「今からちょっとモノマネするね?…みてて…」
愛梨はそう言って目を瞑り、2秒程で目をゆっくり開けた
「"おまえ雑魚すぎぃ〜。もうちょっと我慢しろよ" だってさ〜」
いや、それもうほぼ本人じゃん…完成度高すぎだろ
「我慢ってなんだ?」
「さぁ…寝るの早すぎってことじゃない?」
「23時は早くないと思うけどなー」.
俺に完全敗北して遂に頭おかしくなっちゃったか
まぁ昨日は何も起きなかったしアイツが反省してるのが分かったしよかったわ
♢♢♢
いつもより40分は早く学校に着いた。校門から左手に曲がって駐輪場に直行。さっさと止めて昇降口に入る
「よし……いくか。………はぁ…しんっど…」
おかしい…明らかにおかしい…
朝からこんなにも疲弊しているなんて
昇格口に脚を踏み入れた時、思わず壁に手をついてしまい、そのまま息を整える
「はぁ…はぁ……ふぅ…くっそ…」
かなり体力落ちてんな…
やる気が出たらランニングでも再開するか
壁に付けた手を離していざ行こうという時に声を掛けられた
「そこの生徒…大丈夫?」
鈴の音の様な凛とした声……無視だな。どうせこの時間帯に来るのは今日だけだし声の主とも関わる事はない。それに時間がもったいない。
今は話している暇はない…
俺は振り返らずに、そのままスリッパに履き替えて校舎に入る
3階の教室を目指して階段を小走しに登り、3階の廊下に脚を踏み入れた時だった
「さっきの女子生徒…か?」
3階への階段の一段目に脚を踏み入れるような音がした。大きく音が反響していて、明らかに機嫌を損ねたように感じられる
踏み出す一歩に怒りを感じる。そこまでムカついたか?…つーか…あんなので追いかけて来てるんだとしたら歪んで……いや、ルナの方が歪んでるか
「……こっわ、さっさといこ…」
俺の教室は3年3組、廊下の中間だな。まだ人が少ない廊下を足早に歩き、教室に入る。
手帳を隣の席の机の下に落として任務完了。誰も居なくてよかった。これなら大丈夫だ
「………保健室で休みたい…生徒指導室に呼ばれるまでは少し眠りたい…はぁ…くっそ…」
もう限界だ。横になりたい。少しでいいから寝たい……もう教室を出よう……
教室の扉を開けた時、見知らぬ女子生徒が目の前に立っていた
腰までの黒髪ストレートに艶のある髪が凛としていて、鋭い瞳からは気高さのようなモノを感じる
この堂々たる姿勢に、一切の乱れがない制服の着こなし方。……もう威厳を感じるくらいだ。まさしくカリスマの塊だな
しかも黒タイツか……えっろいけどルナのニーハイの後なら耐えれる。いや、アイツがえろすぎるだけだったわ
しかし、それでもあまりの綺麗さに見惚れてしまうくらいだ
そんな不機嫌な顔してないで女優にでもなってこい
「保健室よりもいい場所があるわ、生徒会室に来なさい」
「断る、じゃあな」
こんな威圧感バリバリの奴が生徒会の一員なのかよ、うちの学校どうなってんだ
俺がそう言って扉の間をすり抜けても、この生徒会さんは俺の右腕を掴んでくる。
「…来なさい」
「離せ……」
俺が不機嫌丸出しで振り向いてそう言うと、少しだけ驚いた表情になるが、睨みつけながらも手を離してくれる
朝からミニ分からせとか最高かよ!はぁ…そんな事よりさっさと保健室で寝よ…
「…焦るな……私…」
背中越しに何か聞こえた、が上手く聞き取れなかった




