15話 隣の席の日記
「え?泊まってく?…」
ビーフシチューを食べ終わって、俺が風呂に入ってる間に2人で色々決めたらしい。
リビングの扉を開けたらいきなりだ
「うん、いいよね?愛梨もっとルナちゃんとお話ししたいし」
「ルナも愛梨ちゃんとお話ししたーい!今日は一緒に寝よーね!」
あぁ…愛梨は中学3年で、ルナが一個上だったらほぼ友達みたいなもんか。でも……
「いや、明日学校だろ?それにルナは着替えも持ってきてないだろうし、親がダメって言うだろ?送っていくから帰れ」
頭をタオルでふきふきしながら抗議する。まだ20時前だし、今から俺が自転車でサクッと送ればいいだろ
「…ルナひとりっこだから。……お父さんとお母さんもあんまり家に居ないし…たまには誰かと一緒に寝たい」
ホントかよ……俺の中でのコイツの信頼は限りなく消えかけてるぞ?
俯くルナを見るが、表情までは見えない。でもまぁ……あそこまでぶん投げて分からせたら大丈夫か
と思ったがアレを思い出した…
『愛があればいいんだな?ならおまえを惚れさせてルナの中で毎日ぶっこ抜いてやんよ。おまえの子を孕んでやる。おまえが結婚したら隠し子が居ることをバラしておまえの人生めちゃくちゃにしてやる』
あの時の瞳の奥には凄まじい執着心が渦巻いていた
あの分からせが効いたかどうか念の為確認しとくか
俺はルナの顎をクイッと持ち上げて表情を確認する
うん、めっちゃキョトンとしてやがる。黒い笑みを浮かべてると思ったが大丈夫そうだな
「えぇ〜ざこにぃなにしてんの〜?ルナちゃんに顎クイ決めて見つめちゃってさ」
ニヤニヤしながら揶揄ってくる愛梨は無視だな。
「…はぁ、ちゃんと親に連絡しとけよ。あと着替えも「れんれんのシャツ借りるわ」
……ん?れんれん?俺の中学の時の仇名じゃねーか。愛梨の奴余計なこと話しやがって
まぁ風呂入ってる間に名前くらい聞くか…
「ムリ…愛梨の使え。後おまえは俺の部屋入ってくんなよ。それじゃ俺はもう部屋いくから」
さてさて…ウィスパー子犬ちゃんの手帳を見るのに俺がどれだけ心踊らせていた事か。丸裸にしてやんよ フハハハ
「ざこにぃが悪い顔して階段上がってる……」
そんな声が階段下から聞こえる
「俺明日はどうしても早く学校行きたいから、静かにな〜」
部屋に到着して、学生カバンから手帳を取り出す。
「これ、日記じゃん………抜粋でいいか…」
♢♢♢
20XX年4月8日
高校3年生になった。
クラス分けの紙を見ても何も感じない。結局誰とも関わる事なんてないんだし。
朝から何度も先生が言った。
「受験」「進路」「将来」
家に帰ってもまた同じ
「受験生なんだからテレビは消しなさい、アンタは何してもダメなんだから」
そう言って母はリモコンを取った。私はテレビも見れないの?ダメな事なんて知ってる。人の倍勉強しても結果が出ないし…
わかってるよ
いい大学に行かなきゃ、ダメな事くらい
でもたまには誰かに頑張ってるねって言ってもらいたい
家族が寝静まったらやる事は1つ。いつものストレス解消だ。学校で囁くように誰かの悪口を言うのもめちゃくちゃ気持ちいい。けどベッドの上で自分を慰めるのもいい
こんな事してる暇あったら勉強しろとか言われるんだろなぁって思う
20XX年4月15日
ペースがつかめない
塾でも学校でも「今から差がつく」って言われる。うるせえって思う
けど、机に向かっても集中できない。英単語が頭に入ってこない。私の地頭が終わってるから…
でも、やりたい事我慢して頑張ってる。誰でもいいから誰かに褒めてもらいたい、そしたら私はまだ頑張れる
学校では「どこ受けるの?」って会話が増えてきた
「まだ迷ってる」とか「志望校変えた」って軽く言える子が羨ましい。私は変える余裕がない
なんでこんなに頑張っても報われないんだろう。
ーー地頭が終わってるからだった…
4月19日
転校生が来た。顔がいい。好みではあるけどどうでもいい、何も起きないんだし。それよりも有名人だ。確かギネス記録にも乗った人だ。この地方では殆どの人は知らないだろうけど
4月20日
私にとって転機が訪れた。
黙らないと胸揉むぞって言われたから黙った。悪口が言えなくてイライラしてたけど…でも
『ちゃんと黙れて偉いぞ。頑張ったな。いい子だ』
そう言って頭を撫でられた。私にとっては初めての経験で涙が出そうになった。勉強を頑張っている事を褒められた訳じゃない
それでも報われた気がした。頭がふわふわして意識が飛びそうで少し温かった
どうか…明日も撫でてもらいたい。次は勉強頑張ってるなって言って撫でてもらいたい
昼休みが終わった時にレイパーとか噂されてたけど、どうでもいい。もう人の悪口は言わない。絶対に
♢♢♢
「アイツが沈んだ顔して帰ったのは俺が頭を撫でなかったからか…」
こんなに勉強頑張って行きたい大学に行けたとしても、チョロすぎるせいで男に遊ばれまくるコイツの大学生活が容易に想像できる
俺の仇名がレイパーでもコイツの中では、頭撫でてくれたからいい人ってか…
知ったからにはなんとかするか……ってもう23時かよ。かなり読み飛ばしたのに……
学生鞄の中に手帳を雑に投げ込んでベッドから起き上がる
「歯磨こ…」
部屋を出て、階段を降りるとリビングで2人の談笑する声が聞こえてきた
『そーいえばざこにぃの学校の柔道部の殆どが病院送りになったんだって〜』
『えぇ〜漫画じゃーん!』
いやホントに漫画やん。どうでもいいな…さっさと洗面所いこ…
サクッと歯を磨いて洗面所から出ようとした時、洗濯機の中に入っている俺のトランクスが異常にびちゃびちゃな事に気づいた…
「…見なかったことにしよ…」
ぜってーアイツ俺のトランクスでルナニーしたろ
♢♢♢
部屋に着いてベッドに横になったらすぐ眠気がやってきた
「…しんど…寝よ…」
ーー鍵閉めたっけ?……まぁルナも反省してるようだし問題ないか……あぁ…もう…意識が………
すぅ…すぅ…すぅ…
ガチャッ ギィィ




