兄たち
バーナードが玄関ホールで出迎えると、デリックは開口一番「エステルは?」と聞いた。
「親父たちのホテルに行ったら、お前のところにいるって言うからさ。ドレス、もう着替えちゃったか?」
デリックは警備団の制服のまま、仕事上がりに寄ったようだ。
とりあえず居間に誘いながら、
「エステルはルイスと一緒だ」
「おっ! 上手くいったのか?」
デリックは手を叩いて喜んだ。
「らしいね」
「それじゃ、乾杯といくか」
偽装婚約から、正式に婚約することになったエステルとルイス。
王宮の待ち合わせ場所で会った二人の距離感は、この屋敷から出かけて行ったときとは異なっていた。
帰りたくないと言うエステルをルイスの部屋に行かせたのはバーナードだった。
喜ぶエステルと、迷惑そうにするルイスがおもしろかった。
大夜会の夜は辻馬車も一晩中動いている。適当なところで送るようにルイスに言ったが、泊まってくるならそれでもいいとバーナードは思っていた。
「本当の婚約になったって、親父たちはまだ知らないのか?」
「明日、話すつもりらしい」
琥珀色の蒸留酒で乾杯して、二人は妹と弟分の婚約を祝う。
「クリフも呼ぶか?」
「いや、あいつはあいつで婚約者を連れていた」
「うぉ、放蕩息子もついにか」
「近いうちに、父上たちも揃って顔合わせしたいそうだ」
「了解了解」
クリフの分も、とデリックが言うから、再び二人は乾杯した。
「それにしても、良かったな。エステルとルイス」
デリックがしみじみ息をつく。
バーナードもうなずいた。
双子とクリフは同年だが、二か月違いと誕生日も近く、三つ子のように育った。
そこに現れた小さな弟ルイスはかわいく、さらにかわいかったのは妹エステルだ。
かわいいとかわいいの組み合わせは最高だった。
ルイスの「エステルと結婚する」宣言を、皆ほほえましく見ていた。――それぞれの父親はお互いを見て渋い顔をしていたけれど、甥や姪に向ける顔は実子に向けるのと変わらなかった。きっと心の中では認めていたと思う。
基礎学校への進学で別々の友人ができたり、成長するにつれて自然に距離ができたようで、いつのまにかルイスはエステルだけを構うことはなくなっていた。
それでもエステルはルイスと結婚するものだと、バーナードたち三人は考えていたのだ。
それが、父が持ってきた縁談相手をエステルが気に入ってしまうとは思ってもみなかった。ダスティンとの婚約はとんとん拍子に進み、エステルがいいならと三人は納得した。
「あのとき、エステルの婚約にもっと反対しておけばよかったな……」
そうすればエステルが無駄に傷つくこともなかっただろうに。
「あんな野郎だとは思わなかったからなぁ。あっちも子どもだったしな」
「今も、まだまだ子どもに見えるがな」
「今日会ったのか?」
「いや、見かけただけだ」
新しい婚約者を放って、友人たちと話をしていたようだった。
「真実の愛か……」
なんとなくそう口にするとデリックがにっかりと笑った。
「エステルとルイスのことだな」
「え? 二人が?」
「二十年前の求婚が今ついに成就する!」
デリックは拳を握って、よくわからないポーズを決めた。
「だろ?」
「そうだな」
二人は再びグラスを合わせて、笑い合った。




