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「元婚約者を見返すために婚約者のふりをしてほしいの」~魔術師令息の偽装婚約~  作者: 神田柊子


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7/9

偽装婚約の破棄

「もう帰るの?」

 ロージーと大伯母を引き合わせ、しばらく話をしたのち、エステルたちはオニキスの間を後にした。大まかな経緯を話して相談すると、大伯母は眉をひそめたものの、最終的には困ったときには頼っていいと請け負ってくれた。

 二人で広い庭園を臨む回廊を歩く。その方向から門に向かっているのだとわかった。

「バーナードと待ち合わせしてるだろ」

「そうだけど」

 エステルが口を尖らせると、ルイスは意地悪く笑った。

「なんだ、帰りたくないのかよ」

「うん……帰りたくない」

「え?」

 素直に伝えるとルイスは戸惑った声を上げた。

「だって、ルイスが私の婚約者なのは今日だけでしょ?」

「そういう約束だったな」

 先の庭園が工事中で立ち入り禁止のため、大きな円柱が均等に並ぶ回廊に人はいない。漏れ出た広間の灯りが暗闇を照らし揺れていた。

 立ち止まったルイスはエステルを振り返った。

「お前は俺と結婚したいのか?」

「……婚約破棄したばかりで軽薄だって思う?」

 エステルは涙目で訴える。

「でも私、ルイスのこと、好きになってしまったんだもの」

「俺はお前に好かれる顔じゃないだろ」

「顔で好きになったわけじゃないわ! 私の代わりに怒ってくれてうれしかった。魔術師のルイスはかっこよかったし。昔も、今日も守ってくれてありがとう」

 エステルが笑うと、ルイスは片手で顔を覆った。

「なんだよ、それ……お前。そんなことで?」

「好きにさせたルイスが悪いのよ」

 ふんっと顎を上げると、ルイスは笑った。

「それじゃあ、お前も悪いな」

「何がよ?」

「好きにさせたからだろ」

「……好きって……ルイスが私を?」

「他に誰がいるんだよ」

「え、なんで? どうして?」

 本気でそう聞くと、ルイスは嫌そうに舌打ちをした。

「教えてくれないと結婚してあげないから」

「お前なぁ……」

 腕組みして顔をそむけると、ルイスはため息をついた。

「頼られたら、悪い気はしない」

「それだけ?」

「あとは、まあ、あれだな。子どもだと思っていたのがいつのまにか綺麗になってて、でもいちいち反応がかわいくて」

 言いながら、ルイスはエステルの頬を撫でた。

 腰を引き寄せられて、エステルはルイスの胸に両手をあてた。

 頬に熱が集まるのがわかる。きっと真っ赤になっているだろう。

「そういう反応がかわいいって言ってるんだ」

「そういうって……」

 ふにふにと唇を親指で押される。見慣れた顔が今までにない距離まで近づいてきて、エステルは目を閉じた。

 唇に柔らかいものが触れ、すぐに離れる。

「俺が初めてだって言われたとき、高揚した自分に驚いた」

 ルイスが目を細めた。

 もう一度、先ほどより長めに口づけられる。

「これから先もずっと俺だけにしておけよ」

 いつものように言い返そうとしたけれど、彼の目があまりにも真剣だったから、エステルはうなずくことしかできなかった。

 それから、ルイスは体を離して、ひざまずいた。

 驚くエステルを見上げて、いつもの調子で笑う。

「結婚したいなら結婚したいって言えよ」

「あなたこそ、結婚してほしいならそう言えば?」

 今度はエステルもいつものように返すことができた。

 ルイスは気取った態度で、エステルの手を取る。

「エステル・グランド子爵令嬢、私と結婚していただけますか?」

「ええ、よろこんで」

 エステルも淑女らしくおっとりと答えた。

 それから二人で顔を見合わせて笑った。


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