86. 風景
2版LXXXVI、3版CVIII
PAYSAGE
新章の始まり 対句
シャルル・メリヨン Le stryge(吸血鬼)に想を得たとの説あり。ノートルダム大聖堂に置かれた魔除けの像なので、何処が吸血鬼なのか聞かれると困るのだが。
浄らかに、おのが牧歌を詠みたいものよ、
して横たわるは空近く、占星術師も同様、
尖塔の隣にて、耳傾けるは夢見心地に
風に運ばれ来たる、荘厳なる賛美歌に。
顎を両手に載せれば、屋根裏部屋の高みから、
見えよう、工房・工場、歌いさざめく処から
街の帆柱たる煙突やら、鐘楼やら、
そして、永遠の夢を抱かせる大空。
Je veux, pour composer chastement mes églogues,
Coucher auprès du ciel, comme les astrologues,
Et, voisin des clochers, écouter en rêvant
Leurs hymnes solennels emportés par le vent.
Les deux mains au menton, du haut de ma mansarde,
Je verrai l’atelier qui chante et qui bavarde ;
Les tuyaux, les clochers, ces mâts de la cité,
Et les grands ciels qui font rêver d’éternité.
霧の向こうに垣間見えるは至福
碧く輝く星、窓辺に灯るランプ、
大空流れる墨黒の川、
月は注ぐ淡い魔法を。
わが思い描く処、春、夏、秋、
白一色の雪降らす冬が来た時、
何処もかしこも扉や鎧戸を閉め切ろう
わが御伽噺の宮殿を夜の内に建てよう。
Il est doux, à travers les brumes, de voir naître
L’étoile dans l’azur, la lampe à la fenêtre,
Les fleuves de charbon monter au firmament
Et la lune verser son pâle enchantement.
Je verrai les printemps, les étés, les automnes ;
Et quand viendra l’hiver aux neiges monotones,
Je fermerai partout portières et volets
Pour bâtir dans la nuit mes féeriques palais.
されば夢見よう、青みがかった水平線を、
庭園を、雪花石膏にさめざめと鳴る噴水を、
キス、夜ごと朝ごとの鳥の囀り、
その他諸々、牧歌的で愛らしい。
暴動、わが窓に烈《はげ》しく押し寄せようとも、
無駄、わが額を机から上げようとしても。
私はこの歓びにどっぷりと浸かろう、
私の意志で春を呼び覚まそうという。
この心臓から太陽を引きずり出し、
この燃える思いを温かい空気にし。
Alors je rêverai des horizons bleuâtres,
Des jardins, des jets d’eau pleurant dans les albâtres,
Des baisers, des oiseaux chantant soir et matin,
Et tout ce que l’Idylle a de plus enfantin.
L’Émeute, tempêtant vainement à ma vitre,
Ne fera pas lever mon front de mon pupitre ;
Car je serai plongé dans cette volupté
D’évoquer le Printemps avec ma volonté,
De tirer un soleil de mon cœur, et de faire
De mes pensers brûlants une tiède atmosphère.
訳注
TABLEAUX PARISIEN: タブローとは元来「板絵」、つまり壁画以外の絵画で、額装し「作品として完成された」ものという意味合いがあり、ここでは複数形にしているので「作品群」となる。パリの風景を様々に描いた詩の作品群を、一巻の画集に見立てるもので、ゆえに「画集」の意味合いを込めた訳語を撰んだ。
églogue: 田園を主題とする古典的韻文詩。田園詩とも。同じく「牧歌」と訳される idyll とは別物であったが、近現代ではほぼ同一視されている。ドビュッシー作曲『牧神の午後への前奏曲』は、マラルメの牧歌『牧神の午後』を元にしている。対してリヒャルト・ワーグナー『ジークフリート牧歌』(Siegfried-Idyll)に元ネタはない(と言われているが、本当か?)。
Les fleuves de charbon: 「石炭の川」とは、煙突から出る黒煙をいう。当時にあっては繁栄の象徴
albâtres: アラバスターは乳白色の石材。石灰岩質ゆえ石としては柔らかく加工し易く、磨くと半透明に見えるほど光沢が出るため、彫刻などに利用される。材料から方解石アラバスターと石膏アラバスターに大別され、特に石膏アラバスターは水に溶けやすいので屋内用とされる。
19世紀フランス文学に於けるアラバスターは、常夜灯やランプを表す換喩。「アラバスターホワイト」は、女性の白く滑らかな肌を表現するときに使われる一種の決まり文句であった。
L’Émeute: 二月革命を想起




