70. 埋葬
2版LXX SÉPULTURE
3版LXXII SÉPULTURE D’UN POËTE MAUDIT
憂鬱詩群
ソネット形式 脚韻ABAB CDCD EEF GGF
表題は『墓』とも。絵画なり音楽なり元ネタが有りそうな感じ。今のところ見つかっていない。
暗く重苦しい夜に
慈悲もて、どこかのキリスト教徒よ、
古びた瓦礫の陰に
貴女の、自慢の遺体を埋めよ、
Si par une nuit lourde et sombre
Un bon chrétien, par charité,
Derrière quelque vieux décombre
Enterre votre corps vanté,
清らかな満天の星
疲れた目を閉じる、
蜘蛛は巣を張り
毒蛇は子を産む。
À l’heure où les chastes étoiles
Ferment leurs yeux appesantis,
L’araignée y fera ses toiles,
Et la vipère ses petits ;
年中聞こえてくるだろう
貴女の悲運なる頭上
狼たちの嘆きの叫び
Vous entendrez toute l’année
Sur votre tête condamnée
Les cris lamentables des loups
そして飢えた魔女たち、
浮かれ騒ぐ貪欲な老人たち
腹黒い詐欺師どもの謀。
Et des sorcières faméliques,
Les ébats des vieillards lubriques
Et les complots des noirs filous.
訳注
題名は翻訳機で「埋葬」と示されたから、ギュスターヴ・クールベ (Gustave Courbet, 1819 - 1877) 『オルナンの埋葬』Un enterrement à Ornans を思い浮かべたが、御覧の通り違う言葉を使っている。
阿部良雄氏に拠ると、自殺や身分の問題で教会に埋葬を拒絶されるのを「sépulture を剥奪される」と称し、これにより女優たちの埋葬が許されない慣習があった。この状態をヴォルテールが非難しており、それに基づく詩だという。わが国でも「女は三界に家なし」と言われたことはあったものの、「村八分」でも火事と葬式は例外であったから、もっと酷い。そもそも欧米一般のキリスト教徒は復活を願って土葬されるものであり、そのため遺体の毀損は禁忌とされ、教会の裏庭が墓地になっている。日本人から見ると、火葬しないのは衛生上の問題が深刻過ぎるし、土葬したところで何れは骨になるのだから、実に不可解な慣習という外はない。なお、3版では題名を「呪われた詩人の埋葬」に改めている。
votre: 「お前」とは、誰に向かって呼びかけているのか。文脈からすると、2行目のキリスト教徒しか居ないけれど、自分で自分を埋葬するのは無理だし、自殺はキリスト教徒の禁忌である。既訳を見ると、概ね自分のことか、文脈外の話し相手を想定しているようだが、『悪の華』はほぼ一人称で「私」から「あなた」へ語られており、どうにもしっくり来ない。
étoiles: 夜に「星」が「目を閉じる」とは、物理的に考えれば「雲隠れ」であろう。但し、「星」は空に輝くものとは限らない。
vipère: 蛇の中でもマムシの類で、エデンの園に出てきた、モーセの造る「青銅の蛇」にもなった大蛇 serpent とは別種。のはずなのに、#1 「祝祷」にも出てくるから、詩人は区別していなかったか、逆に覚えていた模様。なお serpent は#28「踊る蛇」#57「あるマドンナへ」#63「亡霊」#126「旅」に見られる。




